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流れる


王弟率いる兵たちを見送った際には少数であった顔ぶれが、この度は数倍に膨れ上がっていた。


儀式であったこともあり関係者のみが出席していた前回とは異なり、防衛を完遂させた王弟や兵たちを祝う場であることを強調するように、私の視界の端々に美しく着飾った令嬢たちの姿が見て取れる。


人数の多さが目につく理由は他にもあり、多くの出席者が居るためか、私達が集まっている場所や設置された壇などの配置は同じだが、座る椅子の類が今回は無いのだ。


中央の壇まで長く赤い絨毯が敷かれ、その両脇に出席している貴族が雑多に並ぶ様は、王弟率いる兵たちを見送った時の厳かな雰囲気は全く感じられない。




「叙爵式もこのような雰囲気だよ。」


「そうなのですね。では、ラングのときも同じ雰囲気だったのでしょうか。」


「新たな催しでない限り、執り行う流れは早々変わらないだろうな。」




父の言葉に想像を巡らせ、リオンの言葉にラングが目の前の赤い道を通る姿が浮かんだ。


ラングで想像したように、今日はギルトラウがこの道を通る筈で、一人ひとりの名が呼ばれることはなくとも、ギルトラウと共に帰還した兵たちがこの場で武勲を讃えられることだろう。


その中にハルバーティアの兵たちも居るのだ。浮かぶその姿の、なんと誇らしいことか。




「リリルフィア、前。」




人の多い場ということで扇で口元を隠していたのをいいことに、一人想像して誇らしく感じていると、父に視線を上げるよう促される。


顔を上げれば、見知った数名の姿。


よく顔の似た男女が揃ってこちらに手を振っていたので、私はその侯爵子息と令嬢に軽く腰を落として応える。さらにその隣では私に視線を送りつつも、エスコートしてもらっている相手へ話しかけている公爵令嬢が。


エスコートの相手が私へ視線を向けているものの、常に公爵令嬢の周囲へ気を配る様子が見て取れる。デビュタントで一度は意見した際には気にしていなかったけれど、確かに先日の茶会で話題になったように、公爵令嬢の弟君は随分と姉である令嬢を大切にしているようだ。




「あちらも、相変わらずだな。」


「っ…」




父の声でも、リオンのものでも無いそれに、私は驚いて息を吸う。


唐突にそばで聞こえた声に目を向ければ「すまない。驚かせるつもりはなかったんだ。」と謝罪が添えられた。会うたびに彼へ向ける視線が高くなる気がするなと思いつつ、私は驚きを表に出してしまったことを誤魔化すように笑みを浮かべて腰を落とす。




「こうして見えますのは茶会依頼ですね。お久しぶりにございます、カルタム様。」


「月を跨いではいるが、手紙でやり取りしているからか、さほど離れていた気もしないものだな。」




私を眺めてそう口にするカルタムに、いつの間にか私の後ろへ回っていた父とリオンが剣呑な雰囲気を醸し出し始める。


カルタムは無意識だろうが、この国やその周辺で“離れていた気がしない”という言葉は“初めて会った気がしない”と同じような異性への口説き文句として有名らしいのだ。同性の友人同士でもよく使う言葉なのでカルタムは友人同士として口にしたのだろうが、彼と私の友人関係がいまいち伝わっていない父たちにとっては、警戒すべきものだったらしい。




「お久しぶりです公爵子息。日に日に逞しくなられているようで、公爵家の未来も明るいものでしょう。本日はお一人で?」


「伯爵にそう言って頂けると嬉しい限りです。父は此の度の戦線で活躍した者へ勲章を授ける役目を任せられたらしく、席を外しています。」




カルタムの言葉に、私は世間話から一気に話題が切り替わったような心地だった。実際には彼にとって公爵の所在を説明しただけだったのだろうが。




「勲章ですか。クラヴェルツ公爵にでしょうか?」


「ああ、王弟殿下には勿論ですが、並んで授けられる者が複数居るようです。父の他にも声の掛かった方々が居られるようですので。」




勲章を授けるのは、決まって貴族家の当主や王族に近しい重鎮たち。王の名で下賜されるという体を取るためらしく、勲章の順位によって授ける順番があり、一斉に授ける場合はそれだけ渡す人数も多く必要となる。カルタムの言葉からして同じ勲章が多くの兵に授けられるようだ。


父への報告では様々な兵たちの活躍がそれぞれの拠点や作戦で成されていたように感じる。ギルトラウや騎士たちからの報告でそれを知ったであろう王が、活躍した兵たちを評価することで貴族たちや平民へ彼らの活躍が誇るべきこととして知れ渡ることだろう。


兵たちの受勲は、戦争の少ない我が国の防衛の重要性を人々に認知させる思惑もあるのではないかと、王の策の一端を想像してみたけれど、全ては国王陛下の心の内。




「相手の侵攻を退けた。此の度出陣した方々の戦いを、それだけで片付けることはあまりにも無礼になりますものね。」




私の言葉はカルタム、父やリオンへ向けてのものだったはずなのに、どうしてか周囲に居た方々も頷いているのが見えた。




「リリルフィア嬢が、変わりなく美しくあるようで安心したわ。」



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