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ガーライル伯爵家



「お久しぶりですわ。」


「お待ちしておりました、ハルバーティア伯爵令嬢。」





馬車を出てすぐに私達を迎えてくれたのは恭しく礼をする初老の執事。「お久しぶりにございます。」という言葉を続けてラングへ目を向ける。







「ラングく…いえ、イエニスト子爵もご健勝のようで何よりです。」


「やめてくださいハグワットさん!!慣れてないから何か背中がムズムズするんですよお!!」






居心地悪そうなラングを見て「ホッホッホ」と笑った執事のハグワット。彼はガーライル伯爵家を纏める我が家のジャニアのような立ち位置の人で、ガーライル伯爵家と関わりがあれば自然と顔見知りになる。ラングもガーライル伯爵の弟子となってから交流があったようだ。







「ラング君をからかうのはこのくらいにして、ご案内します。ハルバーティア伯爵令嬢、メイベルお嬢様が首を長くしてお待ちですよ。」


「まあ、私も早くお会いしたいわ。」







リンダとアルジェントへは目配せだけで済ませたハグワットは、先導して屋敷へ案内してくれる。ハルバーティア伯爵家よりも外観が簡素で一種の要塞のような佇まいをしているガーライル伯爵邸は、中も以前訪れた時と変わらず無駄なものが排除されたシンプルな印象だった。


導かれるままに屋敷を右へ左へと廊下を曲がって歩いていく。この屋敷の造りは少々変わっている。






「俺、目が回りそうです…」


「あら、ラングは入ったことがなかったのね。ガーライル邸はどのお屋敷もこんな感じよ。方向感覚鈍るでしょう?」







ガーライル伯爵家は武力に重きを置いた家系で、代々の当主が屋敷を自らの案で改良していると聞いた。真っ直ぐな廊下は少なく、扉の横にすぐ曲がり角があるといった造りだ。


私とラングの会話が聞こえたらしいハグワットが少し歩む速度を緩めて「ラング君は旦那様の指導が終われば早々に帰っておりましたからなあ。」と屋敷について説明してくれた。






「襲撃者が容易に目的地へ辿り着けないため。屋敷の者達が少しでも建物の構造を利用して逃げるため。有事の際に角で待ち伏せできるように。日常で移動するのは不便な点が多くも、様々な利点があるのですよ。」


「へぇえ!そうなんですねえ!!」






キョロキョロと見回すラングは訪問先での態度としては良くないけれど、そこは知り合いだからかハグワットは気にした様子も無く「屋敷内に装飾が少ないのも、少しでも迅速な移動を可能にする為でございます。」と丁寧に教えてくれる。




そのまま歩くこと数分、帰り道が分からなくなったあたりでハグワットは一つの扉の前で足を止めた。


「こちらでお嬢様がお待ちです。」と私達に言ってから彼はコンコンコンとノックをする。






「メイベルお嬢様、ハルバーティア伯爵家よりリリルフィア様がご到着なされました。」






扉の向こうから「入ってくださいな。」という声が聞こえ、ハグワットは扉を開く。そのまま扉の横で控えた彼に目配せして案内への感謝を示してから、私は前へ向き直る。


大きな窓、対面になっているソファ、硝子を使用したローテーブル。客間らしいそこに腰掛けていた一人の少女は立ち上がり、振り向いた。







「リリルフィア!!お久しぶりね!!」






フワリと波打つミルクティーベージュの髪を踊らせて、駆け寄ってくるのは私の友人メイベル。キラキラした宝石のようなエメラルドの瞳も魅力的で、微笑めば花が咲くような可愛らしい印象の子。






「メイベル様、お久しぶりです。」


「嫌だわ、敬称は不要と何度言えばわかるの?」







頬を膨らませるお顔すら可愛くて、私は思わず頬が緩む。良く言えば凛とした、悪く言えばキツい印象の私とは正反対だ。彼女の言葉に応えて「…メイベル。」と呼べば「ふふ、はい。」と笑ってくれた。






「座ってちょうだい!…あら?」







椅子に私を導いたメイベルは後ろに控えた顔ぶれを見て、ニンマリ笑う。


その視線の先には銀の髪の使用人。彼は顔を強張らせこそしたけれど、それだけで体が揺れることなく今までで一番動揺を見せずに堪えた。


褒めたい気持ちを押し殺して私は横に一歩ずれてメイベルに同行した3人が見えるようにする。







「お招き預かりまして、手紙に書いてあった者を連れてきましたわ。」


「事情は聞いているわ。ということは、彼が例の?」








メイベルの問いかけに頷くと、彼女は私達と距離を詰めた。アルジェントの前にメイベルが立ち「お名前を伺っても?」と声をかけると、アルジェントは胸に手を当ててお辞儀する。







「お初にお目にかかります。私アルジェントと申します。本日はこのような場にお招きいただけたこと、大変光栄に存じます。」







紡がれた言葉に私は出会ってからこれまでのアルジェントの急成長と、見違えるほどに強くなった精神に感慨深くなる。


少し前まで心配していたのに、その弱々しさが一切見えない。


きっとそれは弱さがなくなったわけではないけれど、他者に気付かせぬ程に隠せるようになったということ。私はそれが嬉しくて、せっかくアルジェントが隠したがっているのに『あんなに緊張していたのに!!すごいわ!!』と声に出して褒めてあげたい衝動を必死に堪えた。




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