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掴め


「共通する行動ではあるが、飲水としても使用する川に危険は無いと判断されているじゃないか。」




リオンは首を傾げて私の言葉に反論するが、私だって初めはそう思っていた。けれど、私の中の何かがそれを確定されることを躊躇させる。




「本当に危険はないのでしょうか。川の中にも生物はいます。それらが兵たちを害する事は、本当に無いのでしょうか。」


「リリー。川の中に何かが居たとして、それが原因だったとすれば何故今までは平気だった?手紙が届いた時も、それ以前に行われた訓練も、今回のような症状を訴えていた者は見られなかったと報告があったじゃないか。」




症状の原因解明と、兵たちの早期回復を願っているからこそ。間違いを受け入れるわけには行かないのだ、とリオンは私を宥めるように背を優しく撫でた。




「動植物の調査は辺境の兵たちの訓練の際に調べられている。“辺境伯が領地に居るとき”、毎年行われているものだそうだ。突然生態系が変わることはない。」


「…!!それですわ!!」




何度か説明された言葉を、リオンは私に言い聞かせる。しかし私はその言葉に光明を得たように、頭の中にある条件が思い浮かんだ。


そう。同じ場所で行われている筈の訓練なのに、どうして今回のみこのようなことが起こったのか。それを私の見つけた可能性は、説明することができる。


私は真っ直ぐリオンと向き合った。




「リオンお兄様、訓練が行われるのは秋から春にかけてですよね?」


「あ、ああ。シーズン中に王都で滞在されるのだから、そのはずだ。」




リオンは私の勢いに圧されるように背を反らせつつも、しっかりと必要な情報を教えてくれた。


私はその言葉に確信を得て、植物の文献に急いで目を通す。しかし質問するだけしてリオンを放置してしまう形となったからか、戸惑いを隠すことなくリオンは私の隣で「リリー、どういうことか、説明くらいしてくれないか…」と弱々しく呟いた。




「動物たちは寒い時期に我が国を離れることが多いと聞きます。しかし植物は芽吹き、育ち、花を咲かせます。その後には種を落とし、その種から再び同じ時期に芽吹くのです。」


「辺境伯家の兵たちが訓練する時期と植物が育つ時期が重ならなかったら。…調査に漏れが生じるということか!!」




答えを言わずとも、リオンは私が少しした説明だけで考えを導き出した。頷く私にリオンから意見が齎されるかと思ったけれど、リオンは私が読んでいたものとは別の文献を出しながら「それが一番可能性が高い!」と一緒に情報を探してくれた。




戦地となっている場所は我がハルバーティア領から見ると王都を挟んで西の国境に位置している。気候は比較的温暖で、植物は春に芽吹くものが多いだろう。


隣国の植物の文献も持ち出し、生息する植物を調べていく。毒素があるものがあればいいのだけれど、と指で文字をなぞりながら考えていると、リオンがポツリと疑問を口にした。





「リリー。考えが正しく、植物が原因だったとして。兵たちの症状に一致するものはあるのだろうか?」




リオンの不安はもっともだ。“全身の痛み”があって、熱や腹痛などの内部の症状が無い。そんな症状を引き起こす植物など珍しい部類になるものだろう。


しかし私はどこかで似たような症状を目にしている記憶があった。知識として、朧げだが確かに記憶があるのだ。




「今の季節だと種よりも葉か花か?しかしそれを見つけられたとしても、今度は川に毒が入る経緯が説明できなければ…」




独り言のように疑問や考えを口にするリオンの横で、私は薄らと頭の中にある情景が浮かんでくる。


この王立図書館に足を踏み入れてから、この場所に私の欲している情報があることは感じていたのだけれど、私が読んだものといえばラングたちと目にした大きな本や同盟国の情報に関するもの。


それ以外となると…


【美しいまま保つ術の無い私を許してほしい。】




「…あ。」




頭を掠めた記憶は、引き出すことを躊躇うものだった。けれど、確かに私の記憶は答えがその中にあることを訴えている。


読んでいる文献から身を離して、私はふらりといつかのようにその場所へ歩みを進める。あの日も、確かでない足取りで何となく一冊を手に取ったのだった。異彩を放つ、真っ黒なその本を。




「アクレア”、“アドルッタ”、アスレン…違うわ。」




一頁一頁を指先は迷い無く捲っていく。報告にあった兵たちの症状と、記憶が合致するものがあるはずなのだ。


けして賛同することができない趣向から書かれるに至ったらしいこの本が、誰かを助けるために読まれているなどきっと作者も予想していなかったことだろう。


解毒など書かれていない、“愛する者を永遠に眠らせるための本”を、私は読み進めた。


いつの間にかリオンが背から私の持つ本を覗いていて、時折「ここまで詳細に…凄いな…」と感心のような敬遠の言葉を溢している。


次々頁を捲り、私はついに記憶と同じ頁にたどり着く。




【クルラッタ:紫の花弁が幾多も重なる花。服用すると手足の痺れが発生する。】


【ティリー:白く小さな花弁が特徴。生での服用は苦味があり、乾燥させると茶葉として服用出来る。呼吸を困難にさせる。】


【ユーラック:赤い薔薇に似た花。触れただけで痛みが生じ、服用するとたちまち死に至る。】




見つけた。



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