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心に染む


「召集のこともあったから、言えなかったというのも理解は出来るの。貴女が第二王女殿下に言ったように、繊細な内容だと私も思うし。それに王女たちは知らないからあの場では出さなかったけれど、彼を拾ったからこそリリルフィアは躊躇しているのかもとも思っていたわ。身分差は私達の婚約や婚姻にとっては厚い壁ですもの。」




メイベルが口にしたのは私の考えへの理解、話す内容の選択、それから私達の立場から見た思いを貫く難しさ。詰め寄るでもなく私に意見を求めるでもなく、メイベルは淡々と言葉を口にしていく。


私を馬車に乗る前に引き止めたメイベルは、次に私の背を押して我が家の馬車へ乗せたかと思えば、自身もその身を私の対面に滑り込ませた。


茶会を終えて戻ってくるのを待っていた我が家の馭者と護衛は当然ながら驚き、そんな彼らにメイベルはヒラリと手を振って『出発して頂戴。私は今日、ハルバーティア邸に滞在させていただくことになりましたの。』と私の判断を待つことなく馬車を進めようとした。流石の護衛たちもメイベルの言葉だけでは動くことができないので、私は従うよう頷いて応え、今メイベルからの言葉を聞いている。


急遽メイベルが我が家に泊まることはよくあることだ。なので特に問題視はしていないけれど、王女たちの前で見せた勢いと、先程背後から迫られた驚きで私の心臓は大忙し。その中で先程と違い冷静に紡がれる言葉は、動揺や驚きで熱を持った私の体を少しずつ冷ましてくれた。




「こうしてリリルフィアの心を理解出来はするけど、納得行くものではないわ。リリルフィアが彼を思っていることに気が付かなかったことは悔しいけれど、貴女のその思いが芽生えたのは最近ではないのでしょう?悩んだことも沢山あったはずよ。隠し事をしていた私が言えることではないけれど、少しくらい相談してほしかったわ。」




私への理解の後に紡がれたのはメイベルの本音。今日私の気持ちを知ったというのに“最近芽生えたものではない”ということを言い当てるあたり、やはり私のことをよく分かっている。


揺られる馬車の中で、知られてしまって隠す必要のなくなった自分の気持ちを、私はメイベルに語った。


父やリオンの反応も、召集があってから上手く眠れなかったことも、そんな中でガーライル伯爵とメイベルが秘密を打ち明けてくれたことも、カルタムとのことも。時系列に沿った私の話を、メイベルは様々な反応を見せつつも遮ることはせず、最後まで聞いてくれた。




「召集までの期間、兵たちには休養を指示していたから話す機会は少なかったわ。…それで結局、アルジェントへは特に何も言わずに見送ったの。」




語り終えて深く呼吸した私を、メイベルは暫く見つめていた。まっすぐ向けられる視線はどうにも居心地が悪く、私は誤魔化すように窓へ視線を逃がす。




「…まだ、何か隠しているでしょう。」




体が揺れたのは、きっと馬車の揺れに違いない。そう自分に言い聞かせて、私は「なんのこと?」ととぼけて見せる。


しかし、メイベルは思案する様子を見せてから私へ言葉を返した。




「嘘は無い気がするのよ。だから…」




観察されながらゆっくりと紡がれる言葉に、緊張を隠せているか心配だった。感情の起伏は少ないほうだと今までなら言えたのだけれど、どうにも周囲から頻りに“頼れ”“隠すな”“護られろ”と聞かされるうちに、感情が表に出やすくなっている気がするのだ。


ゆっくりと呼吸して、私はメイベルへ視線を合わせる。何も無いという意思表示のつもりだったが、メイベルから返されたのは…




「最近、リリルフィアが素直に見えるときは裏があると思うようになったの。」




と、そんな言葉だった。表情が固まるのを感じつつ、メイベルが言っている意味を理解出来ず首を傾げる私に、メイベルは楽しそうに解説した。




「リリルフィアは演技とか隠し事が上手いもの。だからこう考えたわ。上手い演技…つまりキレイな笑顔ほど警戒すべきじゃないかしらって。」


「…それ、私が本当に嬉しくて笑っていても疑われるということ?」


「時と場合によるわね!」




場合によっては本音も疑われる、か。


考えているようで詰めの甘い、しかし勘の鋭いメイベルであれば的中率の高い見分け方のような気がした。実際、今は当たっているのだし。


正解とも不正解とも返さず、和やかに微笑み合っていたけれどそれで流されてくれる彼女ではないことは百も承知。




「それで、リリルフィアが言っていないのだとするとアルジェントからはなにか言われたのだと思うのだけれど?」


「そうね。慕っていると告げられただけよ。」




羞恥を表情に出さないよう気をつけて。


何気なしに答えたように見せかけることに必死の私は、メイベルの見開いた瞳も、ワナワナと震わせる唇も、驚きからくるものだと思っていた。


ハルバーティアのタウンハウスの前に着き、馬車が止まったことで降りようとメイベルを促すまでは。


静かに涙を流すメイベルに、私が驚き固まったことは言うまでもない。




「嘘…こんなに近くにっ…!!」




メイベルが自らの口を手で覆って、その隙間から漏れ出るように聞こえたその言葉が何を意味するのか、私にはわからなかった。



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