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仕える者たち




リンダの言葉に意気消沈してしまったラングは、アルジェントを睨むことをやめたのは良かったけれど「小者…小者…」と深く刺さった言葉の刃によって重症だった。







「最後まで指示を聞かずに走り出すような者は主人を護る者とは程遠いでしょう。騎士団でもそのような態度だったのですか?」


「い、いいえ…!!」








緊張で身を硬くするラングにリンダはさらなる追い打ちをかける。








「ならば親しいお嬢様であることへの甘さですか。自ら剣を捧げた相手に対して、そのような弛んだ姿を見せるとは…それでも騎士ですか?」







研ぎ澄まされた言葉はラングを黙らせるには十分過ぎて、止めようか迷うがこれはラングの為にもなると自制した。けれど、それにしてもリンダの言葉に棘があるように感じる。








「リンダ…怒っているの?」


「寧ろ主人を軽んじられて怒りが湧かない者が居りましょうか。独断で行動することは気遣いの場合もありますが、先程のラングはお嬢様の意志を無視していることと同じでした。…それはラングだけではありませんね。」







視線の先にはアルジェント。


大きく肩を揺らした彼はなにか言おうと口を開くけれど、そこから言葉は紡がれず眉を垂らして弱々しく閉口してしまった。


リンダの言葉は厳しいものだ。けしてラングとアルジェントは私を軽んじているから私の言葉を聞かなかったわけではない。それをリンダも分かっているだろう。ならば何故、彼女は二人に怒りを向けるのか。







「ラング。貴方が走ってオレンジを取りに行った時、もしもお嬢様へ危険が迫っていたらどうします。」


「…!!ぁっ…」







リンダの言葉にラングは目を見開き、携えた剣の柄に手を置いたのは無意識だろう、その手が白くなるほどに柄を握りしめた。気付けば自身の誤った行動が招く危険がわかる。ラングが私に雇うことを願った、護衛の立場とはそういうことだ。


主人の身を護るというのは、そういうことだ。








「…お嬢様はきっとあなたを責めることはされないでしょう。ですから私が代わりに言わせていただきます。剣が届かぬ場に自ら動くこと、その迂闊さを自覚なさい。貴方が捧げた剣が敬愛するお嬢様の御身を守れぬなら、そんな剣など錆びてしまえばいい。」







リンダの表情は、今までラングを叱責してきた日々の中で一番歪み、苦痛に満ちていた。


力がありながらそれを満足に振るえないラングが歯痒く、そんなラングに頼らなければならないリンダの心情は以前にも伝えられたことがある。


あれは2年前、ラングがハルバーティア領から騎士団へ入団するために王都へ移る日、それを見送った後のこと。








『私では彼のように武に秀でる事はできませんでした。満足にお嬢様をお護りする事ができないのです。だから、ラングが羨ましい。』








あの時も今も、リンダはラングの才能が羨ましいのだろう。私を護る力を欲するリンダにとって、それを叶えられるラングはどれだけ輝いて見えただろう。


その一端を知ったラングは今、何を思っているだろう。








「申し訳、ありませんでした。」







深く、頭を下げるラングに普段の明るさは無い。


握りしめられた柄が小刻みに震え、力が入りすぎていることを知らせてくれる。それだけで、私は彼を信頼できた。







「リンダ。」





私の呼びかけにリンダは唇を噛んだ後、瞼を伏せて開いたときにはラングに対しての羨む感情は消えていた。


怒りだけを宿した瞳も、静かにその温度を内へ内へ沈めている。







「…次は、ありません。」


「はいっ!」







頭を下げたまま返事をしたラングが顔を上げたとき、その顔には笑みと強い意志が宿っている気がした。










話が終わった雰囲気だったけれど、リンダはアルジェントに目を向けて「アルジェント、貴方もです。」と言葉をかける。


スッと移動したラングは私の後ろへと回り、側へ控える姿勢を取った。小声で「リンダさん、恐い…」と呟いているあたり、心は持ち直してもリンダに対する恐怖は抜けなかったようだ。







「…お嬢様の言葉を聞かずに、逃げて申し訳ありませんでした。」







絞り出したアルジェントの答えは、残念ながらリンダの溜息によって否定される。


アルジェントの言うとおり、私の言葉を聞かずに退室することは使用人としてマナー違反だ。しかし、リンダの言いたいことは別にあるらしい。








「アルジェント。敢えてお嬢様の前で言いますが、貴方が“その感情”を持て余すのなら私は貴方に『その想いは捨てなさい』と言うことにします。その感情と貴方が向き合い、折り合いをつけるというのなら今は何も言いません。」








“その感情”というのは、きっと先程アルジェントが溢した『リリ様と呼ばれるほど親しくなられたのですか』というあの言葉のことだろう。あれがどんな名前の感情から来る言葉だったのかは判りかねるけれど、リンダが私の前でそれを口にするということはその感情がどんなモノであれ、否定はしないということだろう。


敬愛、友愛、恋愛、嫌悪、憎悪…名前をつければ簡単かもしれないけど、アルジェントの中でもまだ名前のない感情らしいからリンダも猶予を与えたってことよね。








「…嫌われていたら、どうしようかしら。」








私の呟きは少し前に居たリンダにのみ聞こえたようで、リンダは私の言葉に少し後ろへ顔を動かすと「お嬢様はまだ、そのままでいてくださいね。」と笑ってくれた。









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