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寛容


【こんな時にと思うだろうが、こんな時だからこそ、貴女に会って話したく思う。デビュタントの時に言えなかった事を、聞かなかった事を、互いに交わせたらと思っている。】




真っ直ぐで誠実な手紙は、父によると召集令状がラング達に届く前から父の手にあったらしい。


届いてから私の手に渡ることがなかったことは不満を述べさせてもらったけれど、私自身が体調管理を怠っていたことと精神的に不安定だったこともあって、責め続けることはしなかった。


父にカルタムと会うことを告げてすぐに公爵家へ手紙を送り、どれくらいの期間が空くかと算段していた翌日。驚くことに了承の返事が届き、更には【実は、ハルバーティア伯爵家に伯爵本人から招かれている。】と一週間も空かない日付が記されていたのを読んだときには、流石に父に詰め寄った。


そしてカルタムと会うことを決めて、非公式とはいえ目上の方を招くには卒倒してしまいそうなほどのスピード感で準備を進められた今日。




「招いて頂き、感謝する。」




ジャニアの案内で準備の整えられたサンルームへ足を踏み入れたカルタムは、私の姿を見つけてすぐそう述べた。




「こちらこそ…急な招待にも関わらずお越し下さり、有難うございます。」




気持ち深く、腰を落とした私に苦笑いで首を横に振るカルタム。そんな“分かっている”といった風な彼を見て、今この場に居ない父へ説教のような言葉を頭の中に浮かべながら私はカルタムを席へ促した。


日差しの降り注ぐサンルームに用意した茶と菓子は甘さを抑えたもので、いつかの茶会でカルタムが菓子よりも下段のサンドイッチに手を付けていたことを思い出しての配慮だ。


リンダに茶を淹れるよう示して席に座って、対面の彼を改めて見てから私は切り出した。




「…初めてお会いした時の面影は、容姿以外見受けられませんね。」


「あの時は、本当に愚かなことをしたと思っている。」




責めるつもりではなかった。眉を垂らして頭を下げるカルタムにゆっくりと首を横に振って、本当に見違えるほどの変化を改めて実感する。


初めて彼を認識したとき彼は周囲に威圧的な印象で、公爵子息という身分にある意味相応しい態度の少年だった。そんな彼が、こうして自身を省みて頭を下げるほどになったのだから、年月というのはとても重要なものだと感じる。


それに年月は、彼を変えただけではない。




「お会いした回数は多くはありませんけれど、カルタム様のお優しいところや誠実なところは手紙や噂、お父君からも伺っておりますわ。それにデビュタントの時、それらが違わぬものであると目にすることもできました。」




彼が変わった年月と同じだけの時間をかけて、私自身もカルタムの誠実さが私に向けられていることを、ゆっくりと受け入れることができたのだ。


それは感情の話だけではない。私の知る彼の想い人はティサーナのはずだったから、私は公爵から見合いの打診があった当初は本人の想いとは別の思惑があるのかもと思っていた。


今は、彼自身が望んでいることだと分かっている。


だからこそ、私はカルタムと会うことを決めたのだ。




「カルタム様。少し、私の話にお付き合い頂けますか。」




もう既に長く話している気もするが、私は改めてカルタムへ許しを請う。


今から話すのは、私の心の内の深いところにある想いのこと。同室しているリンダや護衛に置いているラングを、私は手振りで話が聞こえないようサンルームの隅へ移動させた。


それを眺めていたカルタムも、自身の護衛として連れてきていた者を下がらせる。


互いの言葉を、互いにしか聞こえない空間となったところで、カルタムは一度頷いた。




「聞こう。そのために今日来たのだから。」




どこか覚悟を決めたようなその眼差しに背を押されるようにして、私は言葉を紡いだ。



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