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妖精へ宵の夢を


「寝ちゃったね。」


「どちらも、体力や気力が限界だったのだろう。」




身を寄せ合って瞼を閉じている娘たちを眺めながら、マックと笑う。この穏やかな寝顔が、何時までも自分の見えるところにあったら良いのにと何度願ったことか。




「それにしても、リリルフィア嬢が眠れない原因は分かっているのか?」


「なんとなく、かな。顔色が悪くなったのは、令状が届いた辺りだったから。」




日に日に笑みから力が無くなっている気がする娘を見て、伝えるのが早かったかと後悔する反面、彼らが発つ直前に伝えて納得するような子ではないことを知っているから、これで良かったかもとも思う。


それに、リリルフィアが体調の悪さを極力周りに悟られないよう気丈に振る舞っているからこそ、周りから向けられる“心配以外の感情”に気付いていない。アルジェントが顔を赤くしている理由も、普段のリリルフィアならすぐに理解し対処するだろうに、今回は長くアルジェントの反応を見ることができている。




「ハルバーティアは…いや、リリルフィア嬢は、兵たちとの距離が近い。その辺りの配慮が出来ていないのではないか?」


「そもそもラングもアルジェントも、リリルフィアが引き込んだようなものなんだよ。それをどう配慮しろって言うの?引き離して睨まれるのは俺なんだから。」




平民から騎士になり、爵位を得てから伯爵家へ雇用を求めて退団するという異色の経歴を作り上げたラング。平民から奴隷になり、道端に倒れていたのを拾って数年で剣技の頭角を現したアルジェント。


そのどちらもリリルフィアの側にいることを願って、リリルフィア自身も彼らを頼りにしている。睨まれると言っても本当に彼らが睨むことはないだろうけど、不満や落胆といった感情は生まれることだろう。




「彼らが気落ちしていると、リリルフィアも元気がなくなると思うんだ。今の彼らを作り上げているのは、他でもないリリルフィアだからね。」




マックに向けた説明だったけれど、声にした自分の考えは自身の中でも腑に落ちるものだった。


周りへの影響を幼い頃から理解し、自覚し、時に恐れていたリリルフィア。その最たる例がラングやアルジェントたちだとすれば、今彼らが置かれている現状に対して自分を責めていてもおかしくはない。


彼らがそれぞれの道を選んだのは自分たちの選択によるもの。しかし、リリルフィアは自分の存在が“影響したもの”と考えているのではないか。




「フィル、どうした。」


「いや…大切な娘を害するのは周りばかりじゃない、って思ってね。」




話の核を避けるような言葉でも流石は長い付き合いになる友人と言うべきか、マックは頷いて理解を示した。




「感情を押し込めて閉じこもる者が居れば、自身の感情を制御できずに身を滅ぼす者も居る。娘のことを思うのなら、親の願う幸せが子の幸せとは限らない、というのは我々が胸に留めておくべきことだろうな。」


「…そうだね。マックの言うとおりだ。」




リリルフィアの幸せを願って、リリルフィアのためにできるなら出来る限りのことをしてきた。これからもリリルフィアのことを思って行動することはあるだろう。


召集令状だって、リリルフィアが望むなら拒否する方法は考えてあった。しかし、リリルフィアが口にしたのはハルバーティア伯爵家の者たちの“活躍”と“帰還”。娘の我儘を叶えるスキさえくれない、俺のことまで慮った言葉だった。


父として嬉しさはもちろんある。けれど娘に気遣われることの、なんと情けないことか。そう思うと同時に、俺は一つの結論にたどり着いた。




「親の願う幸せが子の幸せとは限らない。それなら、子の幸せが親の幸せにもなる方法を見つければいい。そうだろう?」




リリルフィアが笑ってくれれば、それでいい。けれど、それでリリルフィア自身が納得できないというのなら。


俺は、俺の幸せの中で、リリルフィアが幸せになることをしよう。




「先ずはリリルフィアの安眠の確保と、アルジェントをどうにかするところからかな。」


「…安眠は分かるが、彼をどうする気だ?」




疑いの眼差しで俺を見るマック。


そんな目で見られるとは心外だ、まるで俺が余計なことをするようじゃないか。


言葉にせずともマックは俺の感情を読み取るように「アルジェントをお前がどうこうするのは、余計なお世話だと思うが。」と言う。別に彼がどんな勘違いや思い込みをしていても、あとの結果は変わらないだろうけど。


彼らには、リリルフィアには、時間が無限にあるわけではない。




「少し焦ってもらおうかと思ってるだけだよ。丁度いい手紙もあることだし。」




リリルフィアに、必要以上の負担をかけないために見せていない手紙がある。それの内容を思い出して口角を上げたまま、安らかに眠る娘たちに視線を移すと、隣から「お前は…」というマックの溜息混じりの言葉が聞こえた。




「あまりリリルフィア嬢に負担をかけるな。」




俺が、リリルフィアに?そんなまさか。




「少し驚かせるくらいだよ、たぶん。」



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