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火は既に


「咄嗟の行動、それに我が娘は救われた。だから礼をしたいと思った。けれど残念ながら、この立場は私の願うように君たちへ感謝を表しきれないようでね。」




ガーライル伯爵とメイベルとも当たり前のように挨拶を交わし、ギルトラウが座っている近くに腰を下ろした国王は、憂いを隠さすことなく息を吐いた。


聞けばここに来る前、国王は私へ何か公的な褒賞を与えようと考えておられたらしい。自分の行動が公になるだけでなく褒賞もなんて、先程精神が摩耗したばかりだというのに、これ以上となると私の身に余る。国王の言葉が過去形であることがせめてもの救いだ。




「伯爵家の令嬢に近衛騎士が遅れを取ったというのは、今のこの国の情勢を考えると君の安全も危ぶまれる事態となりかねない。」


「国王陛下、この場でそこまで話すのは…」




“国の情勢”と話が発展したことで、ギルトラウが国王へ伺うように声をかける。しかしそれに首を振って、国王は一つのテーブルに着いている私達を見回した。




「この場だから、話すべきではと思うのだよ。爵位こそ低いが、古くから王族に忠義を尽くしてくれているガーライルとハルバーティアが私の目の前にいる今、彼らに話したいことは山ほどある。それに、大人だけでなく子供たちまでも巻き込んでしまっている。分かっている範囲で、説明は必要だろう。」




“子供たち”と私達のことを巻き込んでしまったことを申し訳無さそうにしておられる国王は、それでも私達に席を外せと命じなかった。


国王の、穏やかだけれど揺らぐ様子のない意志にギルトラウは息を吐いただけで、それ以上何も発する様子は見られない。


それを確認して、国王は言葉を続けた。




「元々周りが我が国を狙っているのは分かっていたことだ。同盟にせよ条約締結にせよ、我が国は相応の利を相手に齎すことが出来ているから。」




一方的な条件で同盟や条約を結ぶことは不可能に近い。こちらが望む条件を受け入れてもらう代わりに、相手が望む条件を受け入れるのは当然のこと。双方に利があって初めて、互いに手を取れるのだ。


我が国は周辺諸国の殆どと円滑な関係を結ぶことができている。周囲が戦争に疲弊していたというのも一つの理由だが、これは我が国が関係を結ぶに足る潤沢な資源を有しているからというのも、大きな理由だろう。


資源を有利に得られるために、周辺の国は我が国といい関係を築きたいのだ。




「けれど、それで満足できる統治者ばかりでないのも現実。平和な国に満足できる民ばかりでないのも現実。一つの国が我が貴族に取引を持ちかけ数名がそれに応じたのも、平和だと言われ続けている今現在に起きてしまっている現実だ。」




少なくとも三年前には、王家が一部の貴族たちの不穏な行動に気がついていた。王位継承権を放棄することを示すために社交に出ていなかったギルトラウが、少しの噂と共に夜会へ顔を出し、私と会ったのがその時期だったから。




「もっと早く疑わしい者たちを掴んでいればよかったのだろうけどね。」




悔いるような言葉を紡ぐ国王だが、その瞳に弱さは欠片もない。出来なかったこと、過去のことを悔やんでも前には進めないと分かっているからだろう。


だからか、国王は既に裁かれた者たちについては何も語らなかった。話題は“穣喚の武闘”で捕縛された侯爵家に向けられる。



「彼らが海を渡った国に武力を売っていたのは知っているだろう。その国の者がこの度の夜会に出席したいと願い出てきたのは、謝罪という名目だった。」




受け取ってしまっている“武力”に対して謝罪とは。それを受け入れた国王の思惑を計りかねていると、すぐに国王自ら心情を語ってくださった。




「謝罪を受け入れる代わりに、奴隷の返還と今回の報復として交易の閉鎖を提案した。それが…」




あのような形で、返されるとは。


国王の苦い表情は、語られずとも円滑に進まなかった交渉に無念さと怒りを覚えていることを如実に表していた。交渉が決裂した、更には国王の言葉から黒い者たちが交渉相手の国の手の者であることもわかった。


話された既知の事実と未確認だった情報に、部屋が沈黙に包まれる。


その中、国王は一言だけ告げた。




「王女の暗殺は失敗、実行した者たちはこちらの手の中。近い内、相手から宣戦布告となることだろう。」



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