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十悪


悪戯が過ぎると、その小さな紙に思った。


目を凝らさなければならないほど掌に収まる大きさの紙に文字がビッチリと書かれていて、それが小さく折りたたまれて淹れ直された茶と共にソーサーに乗っていたときは、なにかの密書かと開くことを躊躇った。




【可愛い姪のワガママの更に上を行く祝儀を贈ろうと思う。ガーライル伯爵令嬢と共に、正式な姪の友人となることを許可する。周りが煩いだろうが、なんとかしてやるから姪を驚かせてやってくれ。周りの了承は得ているから気にするな。ガーライル伯爵令嬢のことも、周りは喜んでいるから問題無いと伝えてくれ。】




ティサーナが必死に私への恋情というとんでもない勘違いを訂正しようとしているというのに、私は小さな紙に意識を持っていかれていた。


今現在、私はレイリアーネやギルトラウに気に入られている“話し相手”であり、呼ばれれば御前に参じることこそ出来るが、伯爵家の娘という枠からは逸脱することは出来ない。


ギルトラウが私に望んでいるのは王家の、レイリアーネの忠臣として公の場でそれを周りに周知させること。そうすれば私は“話し相手”ではなくレイリアーネに忠誠を誓う“友人”となるという寸法なのだろう。


取り敢えずは、輝かんばかりに嬉しさから笑顔をみせているレイリアーネに、ギルトラウの祝儀は大成功だなと安堵した。




「そうと決まれば、この日を利用しない手はないわね!」


「王女殿下、何をなさるおつもりで…?」




恐る恐る、と言ったふうにミカルドがレイリアーネへ問いかける。それにますます笑みを深めた彼女は徐に腰を落としたままだった私とメイベルの手を取った。




「会場へ入るときに令息令嬢の最後に王族が入ることが通例だけれど、貴女達だけは私の後ろに付いて一緒に入りなさい。」


「いくらなんでもそれは例外が過ぎます!!」




身分の低い者たちから順に会場入りし、身分の高い者…レイリアーネが最後を飾るというのが一般的に合同で行われるデビュタントでの見せ方となっている。それを知っているからこそ、ミカルドは慌ててレイリアーネを宥めようと口を挟んだ。


しかし、レイリアーネは得意げに「そうかしら?」と言葉を続ける。




「デビュタントではあまり無いけれど、夜会で入室する際に臣下や護衛が後ろに侍るのは何ら不思議なことではないじゃない。貴族だってしていることよ。」




騎士に後ろを任せ、臣下に足跡を辿らせ。レイリアーネの言うとおり、夜会で会場入りする貴族たちが下位の者より前を歩くのは当然の常識だ。


全ての貴族が集まった場で王族が入室する際には、侍る者たちの顔ぶれを確認して貴族たちが付き合いを決める場合もあるほどには意味合いも大きい。


ただ、デビュタントという年若い年齢で、後ろを任せる者たちもまたデビュタントを迎えるという前例がなかった、と言ってしまえばそれまでだ。




「周りの顰蹙を買います!その視線に晒されるのは他でもない、ご令嬢たちです!!」


「皆が戻ったら説明はするわ。大人たちは…王弟殿下がどうにかしてくれるのでしょう?」




確信の篭もった瞳に、ギルトラウが姪の望むものを知っているように、レイリアーネも叔父のことはよく分かっているのだなと感心した。肯定するために頷けば、触れていた手を上下に握手するかのように振られる。




「叔父様…王弟殿下は、言ったことを違えるような方ではないわ。わざわざリリルフィアに回りくどいやり方で行動を指示するくらいですもの、少し私が脚色したって大丈夫。それに、今までとは違うってことを明確に知らせなければ、何も変わらないわ。」




態度に示すことで仲の良さは周知できる。しかしそれでは、“話し相手”の範疇を超えることは難かしいだろう。


レイリアーネとの関係性だけでなく、私達の置かれる立場も変わる。その意味を正しく周りに理解させなければ、何が起こるかわかない。


邪推され、邪魔をされ、行動を起こした者たちが罰せられるようなことにでもなれば、私達も、相手も、百害はあっても一利すら無いだろう。




「もしもお友達が何かに巻き込まれたとすれば、私は嘆いて嘆いて、主犯の罪を調べ尽くして然るべき罰を与えたくて仕方がなくなるわ。それを防ぐためにも、大袈裟すぎるくらいの演出は必要よ。」


「…目立てば更に、敵を増やすことに…」


「ミカルド、ハッキリと言わなければわからないかしら。私は“馬鹿が知らぬ間に余計な動きをしないように”という優しさで提案しているの。彼女たちも、もちろん私も、既に敵から身を護る術は得ているもの。」




真っ直ぐミカルドへ視線を向けたレイリアーネに、彼は漸く自身の護るべき王女が何を懸念してどう行動しようとしているのかに気が付いたらしい。


私達は大人たちの保護を十二分に受けている。それはこれからも変わることは考えられない堅牢な盾であり、周りから何をされても揺らぐことは少ないだろう。過信するつもりはないが、そんな私達に手を出しても被害を被るのは主犯だ。




「分かったかしら?貴女達も、そのつもりでいて。」




レイリアーネの言葉に頷くメイベルを横目に、私は有用な脚色を提案しているレイリアーネが、段々とギルトラウの影響を受けている気がしてならなかった。


これを言えば渋い顔をさせることは間違いないので、私もレイリアーネへ素知らぬ顔で頷いた。



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