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労りのティータイム


リンダと共に入った小部屋には、既にアルジェントがいた。


日が丁度良く差し込む室内で、なんと彼はティーポットを持って真剣な眼差しでカップにお茶を注いでいたのだ。




「アルジェントがお茶を淹れてくれるの?」




促された席に座って問いかけるが、返答は無い。よくよく見れば震えて時折キンと陶器のぶつかる音がし、私の声は聞こえなかったようだ。


緊張しているからだろう、肩が上がっているけど姿勢は良いままなので手際は別として様になっている。

ジャニアやトレビストの着ているような執事服だったならば、さらに素敵な執事見習いのようだっただろうなとこれからの彼が楽しみになった。


そして気になったのが彼の頭後ろでヒラヒラと動きに揺れる、臙脂のリボン。




「そう言えば、髪が伸びたのね。」




ガッチャン!


温めるためのお湯をカップから捨てようとして失敗したアルジェントが、こちらを見て顔を真っ赤にさせている。


リンダが私の後ろから「お嬢様。お茶をお淹れし終えるまで、アルジェントに話しかけるのはお控えください」と横やり禁止を言われてしまった。


けれど結べるくらい伸びた彼の髪が、気になってしまったのだからしょうがないでしょう。




「お嬢様が『伸ばしたら似合うわよ、きっと』と以前仰ったからか、大事に伸ばしているのですよ。」




ガッチャン!


リンダが小声で教えてくれた話は嬉しいものだったけれど、私はまたしても失敗したアルジェントを見てから「リンダも、話さないほうがいいみたいね。」と横やり禁止をリンダに返した。


せっかく頑張ってくれているのだから、アルジェントが淹れてくれるまで邪魔せずゆったりと待ちましょう。






「御待たせ致しました…」




やつれ気味のアルジェントが私の前に置いてくれたお茶は綺麗な琥珀に輝いており、フワリと芳醇な香りが広がってくる。


既にリンダがテーブルに用意した焼き菓子との相性も考えられているようだ。




「いただきます。」




口に含めば私の好きな香りと味で、来客があった疲れが一気に解れていく。目を閉じて堪能してから、私は「美味しいわ」とアルジェントに賛辞の言葉を紡いだ。




「いつの間に練習を?」


「お嬢様のご指導と並行して、毎日ジャニア様に教わっていたんです。」




ヘラリと笑うアルジェントだけれど、この美味しさになるまでかなり練習したのではないかと思う。しかも指導は先程アルジェントに悪戯したジャニア。一朝一夕では合格出来なかっただろう。


ゆっくりと残りのお茶も堪能して、私は立っているリンダとアルジェントを椅子に促した。


私が言葉遣いの指導をしていた時も座らせることはあったので、二人は素直に従ってくれる。




「次は二人に私が淹れるわ。」




立ち上がった私の言葉にリンダは笑みを、アルジェントは驚きと焦りをそれぞれに見せる。リンダには何度か淹れてあげた…というよりも飲んでもらったことがある。


お茶会というのは、主催者が自らお茶を淹れる時もあるので練習に何度か付き合ってもらったのだ。


練習は数年前の話なので、今はもっと上達している自信があるわ。




「ぼ、僕なんかに!?」


「あら、アルジェントだからよ。王女殿下への対応は驚いたでしょう?頑張ったのだから少しくらい労らせてくれても良いじゃない。」




なにか言われる前にさっさとワゴンへ歩き、茶葉を確認する。


三種揃えられた茶葉はどれも焼き菓子に向いたものだったので、アルジェントが私に淹れてくれたものとは別の茶葉を手に取った。


温度や時間を気にしながら、それでも誰かのために淹れるのが楽しくて。




「…踊ってるみたいです…」




カップを温めるための湯を捨てたり、お茶をカップに注いだり、動く私を見てアルジェントが呟いた。


クルクル動く私は、周りからそんなふうに見えるのか。


…余計な動きが入っていたらどうしましょう。




「変なことしてたら注意して頂戴ね。」


「いえ、完璧でございます。さすがお嬢様。」




間髪入れずに褒めてくれるリンダこそ、さすが私の侍女だ。アルジェントは返す言葉が無いと動作に現れるのだと、見ていて気づいた。今もコクコク頷いているのは、リンダの言葉に賛同しているということだろうし。


二人分淹れ終えて、私は二人の前にカップを置いてから「二人とも、お疲れ様。」と言葉をかけ、二人がそれぞれにお茶を飲むのを確認して元の座っていた席に腰掛けた。




「美味しいです。」


「…ふわぁ…美味しいですっ!」




穏やかに笑ってくれるリンダもホッとした表情のアルジェントも、私が淹れたお茶を喜んでくれたようで良かった。




「今日は本当にお疲れ様。王女殿下の前でもちゃんと姿勢は崩さなかったのだから自信持って。まあ、緊張しすぎて人の声が聞こえなくなるのは、対策が必要だけれど。」


「うぅ…はい。」




アルジェントに必要なのは余裕と自信。こればかりは経験して、成功を積み重ねていくしかない。




「大丈夫。アルジェントなら出来るわ。」




3歳年上で、体つきもしっかりしてきたアルジェントにこの言い方は不思議ではあるけれど、言われる側のアルジェントは「はい!頑張ります!!」とメイベルの茶会へ同行することを渋っていたとは思えない意気込みを見せている。


この調子なら大丈夫そうだ。




「お嬢様、次は私がお淹れします。」


「ありがとうリンダ。ほらアルジェント、今日は頑張ったのだからお菓子も食べるのよ?」


「良いんですか!?」




3人でお茶を淹れ合うティータイム。


こうして驚きの多い屋敷での滞在は、一日延びて終わりを告げた。



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