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不揃い


「お父様、おかえりなさいませ。」



努めて柔らかく、父の疲れを解せればと迎えの言葉を紡げば父は「ただいま。待たせてごめんね。」と頭を撫でてくれる。次に私は父の後方へと目を向けた。




「お父様、後ろの方々は…」




誰かという問いではないことは父も分かるだろう。なぜこの場に居るのか、という私の疑問は父から聞く前に後ろから一歩進み出た方が答えてくれた。




「お初にお目にかかるかと存じます皆様、そしてお久しぶりですハルバーティア伯爵令嬢。私が出るべき試合は終わりましたので、こちらに寄らせてもらいました。」




その言葉に、試合がどこまで進んだのかを全く把握できていなかったことに気付く。


競技場の中心を見るとラングらしき人影と、確か辺境伯家から推薦された者が激闘を繰り広げていた。私が最後に見たのは、ザラン騎士と公爵家推薦の彼の試合が始まるところだ。


私達が試合を見る余裕がなかったことを察するかのように、ザラン騎士は笑みを浮かべて続ける。




「我が主からは『適当に5番目辺りで切り上げろ』との指示を受けておりますのでこちらの彼に負けさせてもらいました。あ、イエニスト子爵がお勝ちになったようですね。」




笑顔で堂々と“手を抜いた”と取れることを言っているわこの方。


それを何でもないように試合の終わりを私達に知らせてくれる辺り、流石は王弟ギルトラウの護衛を担う騎士というべきか。


なんとも言えぬ空気の中で、私はふと黒い瞳がこちらに向いていることに気がつく。


これほど近くで会うのは3年近く前の王城以来。




「ねえ、ねえリリルフィア。今気がついたのだけれど…貴方の護衛騎士、一番になったのではないの?」


「そうなりますわね。時間的にこの方がこの場におられるのなら、今行われていたのは一番を決める試合のはずだから…」




メイベルからの確認に肯定の言葉を言いかけて、私は改めて周囲を見回した。前列の歓声は最高潮、控えめだけれど向けられる貴族たちの拍手はこちらへ向いている気がする。


競技場の中心には、こちらに手を振っているラング。


思考と感情が、今更一致した。




「…まあ。お父様、ラングが勝ってしまいましたわ。」


「もっと喜んであげなよ。それと、手を振り返してあげるといい。」




千切れんばかりに腕を大きく振っている彼に、父に言われるままヒラヒラと手を振り返せば、大きな歓声の中でラングの「リリ様ぁああ!!」という叫びが聞こえた気がした。




「彼ならば、特に大きな反発は無いでしょう。問題は起きているようですが、一先ずおめでとうございます。」




ザラン騎士の含みある言い方が引っかかる。


競技場の中心から目を離して振り向けば、戻ってきた直後の険しさこそ無いもののけして晴れやかではない父の表情。そして父と共にいる事自体が不思議な面々。


私は核心を避けるようにして、一先ず父がこの場を離れた一番の理由から問いかける。




「お父様、あらぬ疑いは晴れましたか?」


「残念ながら、私はアルジェントに命じてソートン侯爵の兵を傷付けたことになっているままだ。このままではラングの勝利も無に帰されてしまうね。」




父は私を立たせ、周りに目配せをして客席から移動する。


競技場にはいくつか部屋があるので、別の場所で話そうということだろう。ユグルド侯爵もガーライル伯爵も、何も父に問いかけることなく動きに従った。




「お父様、黒曜の瞳のお方がお父様と一緒に居られる理由について、お聞きしてもよろしいですか?」


「それが俺にもよくわからないんだよね。リリルフィアに話があるらしいことは“公爵”から聞いているから断らなかったけれど。」




彼がこの場にいることが、公爵直々に父へ話があった結果だったとは。チラリと歩きながら振り向くと、感情をしまい込んだ顔で前を向く彼。その体は見る限り健康そうで、取り敢えず良い主人に引き取られたらしいことを喜んだ。



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