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思いがけないとは言えない


「ごめんなさい…」




乗っている馬車の扉から半分だけ顔を覗かせたラングは、私達に向かってそんなことを口にした。眉を垂らして捨てられる前の子犬のような表情をしている彼の言葉に、私は父とリオンへ目を向ける。




「ラング、何に対しての謝罪?」


「…聞かなくても良い事を聞いたことです…」




曖昧な表現でも父には伝わったらしい。ラングの顔を見つめてから、何故か私に目を向けた父は、体から力を抜くように吐息を混ぜて笑った。


それに対して肩を揺らしたラングは父に怯えているようで。


…私達が彼を待っている間に、何があったのだろうか。




「マックにはちゃんと怒られたみたいだね。」


「はい…」


「だったら、もういいよ。同じことが、二度と無いように。」




足を組み替えてリラックスした様子の父に幾分肩の力を抜いたラングは、次いでリオンへ目を向けた。




「リオン様…」


「別に私は何も。」




突き放すような言葉だったが、ラングはリオンの肩を竦めるような仕草を見て表情を明るくさせると、最後と言わんばかりに私を見た。


そこにはもう試合の時のような表情は無く、何時ものラングだった。




「リリ様、相手の言葉は無視していいって言われたのに…相手が許せませんでした…」




無視できなかった。怒りを感じた。


試合で見た彼の姿は、私が普段見ることのないラングだった。感情が削がれたような暗い表情は、寧ろ抑えられなかった感情が爆発したものだったらしい。


どんなことを言われたのかは気になるけれど、私は父に言われたように私がかけられる言葉を、彼に向けた。




「驚きはしたけれど、こうして怪我の無い姿を見られているのだから良いの。お疲れ様。まずは一勝、おめでとうラング。」




馬車の外から見上げるラングの顔が和らいだ。


半分だけだった顔が全て出てきた時にはもう彼に暗さは感じられなくて、私の言葉でこんなにも表情を変えるなんて単じゅ…コホン。素直な彼はこちらまで気持ちが明るくなる。




「そろそろ競技場も閉まるだろうし、帰ろうか。」




賑やかだった競技場も夕暮れが迫り閑散としている。多く馬車が停まっていたこの場所も、我が家の二台と数台を残すのみだ。


後ほどラングから父に話があるということで、彼は父の言葉に馬車の扉を閉めようとした。


けれど、それを止めたのはリオン。




「何もなければそれで良いんだが、さっきの話以外に何か言われなかったか?」




首を傾げるラングだけれど、リオンが聞きたいことは私にもわかった。ラングが倒した相手は伯爵家の推薦で、伯爵家の子息の護衛。


伯爵家の子息はリオンと歳が近く、この時期とタイミングとを鑑みるにラングを煽ったことにも必ず理由があるはずだ。私に対してか、リオンに対してか、どちらにせよハルバーティア伯爵家の者を挑発し、何かしら普段とは違う動きをさせる理由が。


リオンの問いかけにラングが唸って、少ししてから首を横に振った。思い当たることはないらしい。




「あ、でも試合の前にアルジェントと居たら、ソートン候爵家の護衛兵の人から話しかけられました!試合の勝敗でなんか、逆らうとか逆らえないとかが決まる…みたいな?」




唐突に出てきた家名にリオンと私は顔を見合わせ、試合に出ていたソートン候爵家からの参加者を思い出す。


推薦されていた二名の内一名は短剣を使用していたことでもよく覚えているが、試合直後の礼でも印象に残っている。




「…予想が当たるとはな。」


「リオンお兄様、流石ですわ。」




兵が勝手に勘違いしている可能性もあるけれど、図書館で出会ったあの方の印象からして、なにか参加者に偽りや誇張した情報を吹き込んだ可能性も十分に有り得る。


ラングの話を聞いて、あの礼の意味合いが我が家へ向けてのものだという線が濃くなった。


試合前、試合相手…催しの一日目から試合の内容以外の部分で気の休まるところが無い。




「帰ったら、アルジェントにも今日何か言われたか、話を詳しく聞いてみるよ。」




父の言葉に私は頷いた。


聞いた内容を私に父が共有してくれるとは限らないけれど、父ならば適切な対処をしてくれると信じている。



「試合に関係無い事柄なら、間接的にでも我が家や俺を害したと同義だからね。遠慮なく手を出せるね。」



父の笑顔は、それはそれは素敵なものだった。



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