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騎士と王女の挨拶


父がレイリアーネを宿へ送って帰宅すると、滞在の延長を告げた。




『ミカルド殿が是非ともお礼を、だってさ。』




そう言った後で私に『王女殿下はあまり叱られなかったよ』と笑って教えてくれた。護衛騎士ミカルドが王女殿下に甘かったというわけでは無いだろう。


この屋敷を出る彼女が、最後まで泣き止まなかった様子を思い出して、少しは私の言葉が響いていればと思った。


そして現在は朝の応接間。




「この度は王女殿下を保護していただき、誠にありがとうございました。」


「いえいえ、王女殿下に一時でも留まっていただけたことを光栄に思います。そして殿下のご無事をこの目で確かめられたこと、嬉しく思います。」




頭を下げるミカルドに応えた父が、ミカルドの隣で恥ずかしそうに座っているレイリアーネを見る。


なんとなく私を見ている気はするけれど、今は父とミカルドが話しているので動くべきではない。恥ずかしそうにしているのは、昨日泣いた姿を見てしまったからだろうか。けれどあれは私が泣かせてしまったようなものなので、もしもその話になれば謝罪から入るのが筋だろう。


これからの振る舞いについて考えていると、ミカルドが父から視線を私に移した。




「ご息女には大変お世話になったと、殿下から伺いました。」


「私は何もしておりませんわ。昨日の礼を欠いた言葉の数々、謝罪したいと思っていた次第です。」




お世話だなんて。諌める言葉を評価しての事ならば嬉しくは思うけれど、改まって感謝されるほどのことをした覚えはない。


私の言葉にミカルドは「ふむ。」と考える素振りをして、父に視線を戻した。




「ご息女は王女殿下と年が同じとお聞きしましたが。」


「はい。王女殿下と同じ10になります。」


「随分と聡明であらせられるようだ。」




それを本人の前で言うのか。


そう思ってレイリアーネを見るけれど彼女は全く気にした様子もなく、寧ろ首を縦に振って肯定している。


おまけに「星の天使様は凄いでしょう!?」と売り込み始めたので、私は父に耳打ちした。




「お父様、昨日何があったのです?」


「王女殿下がミカルド殿に素直になられた。どうやら彼らにとって凄く大きな変化のようだね。」




父の言葉に改めて前に座る二人を見るけれど、元々レイリアーネとミカルドがどのような関係だったのか分からないので、変化が分からない。


私の考えに気づいたのか、父は「昨日は、リオンとリリルフィアみたいだったよ」と補足してくれた。


私とリオンのようだった、けれど私はリオンに怒られたことなど一度もない。ということはお互いに言いたいことを言えていない不器用な関係というところだろうか。




「会話は言うだけじゃなく、相手の言葉を聞かなければ成立しないからね。王女殿下がミカルド殿の言葉を聞くようになったんだよ。」


「ああ、なるほど。」




父の説明に私の昨日の言葉が功を奏したことを実感する。今のように絶賛されるのは照れくさいけれど、私の言動でレイリアーネの背を押せたのなら良かった。


ミカルドに目を向けると、偶然にも彼はこちらを見ていて目が合う。するとミカルドは立ち上がり「ご息女には遅ればせながら」と姿勢を正した。




「第三王女付き近衛分隊隊長を務めております、ミカルド・セルイットです。」




彼の言葉に爵位も無く王女付きの分隊とはいえ隊長とは、かなり実力があるのでは?と考える。


しかしすぐにセルイットという家名は騎士を多く輩出している名門であることを思い出した。一代貴族が多いことからセルイット家を貴族として扱う者も多い、名門なのだ。


ミカルドの自己紹介を受け、私も立ち上がり腰を落とす。




「ハルバーティア伯爵家が長女、リリルフィア・クレモナ・ハルバーティアと申します。騎士様におかれましては丁寧なご紹介、痛み入りますわ。」




通常は貴族の当主…父へ自己紹介すれば後は自己紹介の必要がないのが貴族としての一般常識だ。それをわざわざ自己紹介するということは、『個人的に良い関係を築きたい』という意思表示。


そして今現在ミカルドがレイリアーネをエスコートして立たせていることから察するに、ミカルドが私とレイリアーネの仲を取り持とうという考えなのだろう。




「改めてご挨拶いたします。シルヴェ王国が第三王女、レイリアーネ・ケイロン・クラウィンテですわ。」




腰を落とす姿が美しく、微笑みを浮かべる様は正に王女。国の頂点に立つ一族に相応しい。


そしてこの自己紹介にミカルドへしたものと同様に挨拶を返し、私はチラリと父を見た。難しい表情の父に『ですよねえ』という感想しかない。


私に対して自己紹介。それはつまり『仲良くしましょうね』ということ。もしもこれが公の場であったのならば『王族と繋がりが出来た』とまだ光栄に思えたかもしれない。




「ハルバーティア伯爵令嬢、これも何かの縁です。王女殿下の話し相手になっていただけませんか?」




ミカルドの言葉に、私って伯爵令嬢なのよね?モブですらない筈よね?とか分不相応すぎる申し出に戦々恐々する思いだった。



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