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やる気と元気


冷たい空気と共に新たな年を迎えたハルバーティア伯爵領。その敷地内にある切り開かれ土を敷かれた場所で、我が家の兵は集められていた。


私と父は兵たちの見える場所に陣取り、椅子に座ってそれぞれ側に控える使用人に体が冷えぬよう気遣われている。





「ということで、だ。誰か出たいやつ、挙手!」





整列した兵たちを前に、兵をまとめている者が声を大きくして自分が手本となるように手を天に上げた。


しかしそれに追従するものは居らず、更には挙手を指示した本人さえも「だよなあ…」と頷いている始末。


そんな中で一人、整列した兵たちから距離を置いて私の隣に控えている一名が真っ直ぐに手を上げているのが視界に入る。周りの者も上げているのが見えているだろうに、誰もそれを関知することはない。





「どうしますか旦那様、希望者が居ないとなると…」


「俺!!出たいです!」


「困ったなあ。王直々の募集だし、誰か出てもらえればと思ったんだけど…」


「旦那様!!俺!!俺出ます!!」


「残念ですが、我々は勝ち進むほどの体力がありませんなあ。無様な姿で旦那様の名を汚すわけにもいきません。」


「出たいですー!!勝ちますからあー!ねえリリ様あぁああ!!」





主張する相手を私へ切り替えるのはやめてほしい。


椅子に腰掛けている私と目を合わせる為にしゃがみ込み、彼は上目遣いで私に懇願する。しかしこれは私に決定権は無いし、隣で騒ぐこの者を出していいのかも微妙なところなのだ。


先日届いた王家の催しについての手紙。


それに伴い先ず決めねばならないのは参加者。


手紙を受け取った以上王命に従うのは決定しているが、目の前で見えている通り願い出る者が居ない。その理由が、兵を纏めている者も口にした“体力が無い”という点。


この度の催しで行われるのは一対一で勝ち上がっていく形式のもの。一戦を終えてもまた次の相手が待っていて、回数を重ねれば重ねるだけ体力は削られていくだろう。


兵たちはハルバーティア伯爵家に若い頃から勤めてくれている熟練の者たちばかり。一番若いのはアルジェントで、その上の者はアルジェントと歳の近い子供がいるくらいの年齢なのだ。出たくとも年齢的に体が衰え始めてもおかしくない時期に差し掛かっているようで、誰もが手を上げることを躊躇している。




「リーリーさーまーぁ…」


「煩いですよラング。子爵位まで手にして王への謁見が許された経験があるではないですか。王家へ自身の実力を示すことのできる場は、もう必要ないでしょう。それに、元とはいえ騎士団に所属していた貴方が出場するというのは公平さに欠けるのではという懸念があるのです。」


「でもお…」




誰も相手にしていなかったラングを渋々諌めたのはジャニア。ラングが出たいと願っても、出すことを迷う理由は彼の言ったとおりだ。


この度の催しに騎士団は周辺警護のため出場しないだろう。国防の要であり実力者を育てる為の場でもある騎士団の者たちは群を抜いて経験値があることは周知の事実で、そんな場所から早くに退団して我が家に来ているラングも実力があると知られている。




「ラングが弱かったとしても、“元騎士団員”という肩書だけで相手は萎縮するだろう。だからラングを出すのは、本当に誰も名乗り出なかったらね。」


「でも今、ほら、誰も出ないって言ってますよう…?」




手を挙げない兵たちを見てから、ラングは父に目を向ける。確かに参加を希望するものが今は居ないので、このまま決まらなければラングの参加は決定だろう。


その時、小さく、本当に小さく手を上げた一人に私は目を瞬く。争い事とも言える催しに自ら志願することが意外であったし、彼は自身が何かを手にすることに対して無欲だと常々感じていたから。




「お父様、アルジェントが出たいそうですわ。」


「え、アルジェント?…うぅん…」




私と同じく意外そうに目を見開いた父は、その後悩ましげに肘掛けに頬杖をついて唸る。彼が名乗り出たことで枠が一つ埋まったにしては、その反応は歓迎していないようだ。


どうしてか、兵たちも父と似たように唸る。


周りの反応に自身の行動を悔いたのか、アルジェントはゆっくりと手を下げて後ろに隠してしまった。それを見たらしい父が慌てたようにアルジェントへ「いや、参加するのは問題ないよ!たぶん!きっと!…恐らく。」とだんだん歯切れの悪くなる言葉を並べた。


ラングは特殊な肩書の為に出場が難しい。けれどそんな不安要素などないと思われるアルジェントに、父や兵たちはどうしてそんなに渋っているのだろう?



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