王家の催し
【ハルバーティア伯爵 フィルゼント・クレモナ・ハルバーティア】
書き出しは父へ宛てたもので間違いはない。それをリンダが持ってきたということは、私も目を通してほしいという父の指示でもあるので続きに視線を滑らせる。
【眩い光のように一年も残り僅かという時分、皆の助力あってこそ我が国の安寧が叶ったと嬉しく思う。】
背筋が伸びるような時候の挨拶に、国の頂点に立つお方からの文章だと気づく。思わず手紙の最後に現王の名前が記されていることを確認し、私の予想が正しいことに改めて居住まいを正した。
時候の挨拶、この一年で施行されたことや国の動きの振り返り、以外にも平民で流行している物事にも触れた内容は年を越してからの豊穣祭に話題が移っていく。
【豊穣を祈り感謝を示す祭りは国でも重要な祭事と考える。そこで競技場を使用し飢饉と闘い、豊穣を勝ち取る意味合いの催しを主催することとする。】
平民が賑やかになる祭りを王が重要視しているとは、と王の人柄が民に好まれる理由の一端に触れた気がしたのも束の間、私はもう一度文章を見返した。
「…王家主催の、催し?」
新たな試みは、それが催事…特に民が参加出来るものであれば準備が必要であろうと、一定数からは喜ばれる。しかし、こうして手紙が送られているということは何かしら王家からの命があるということで。
【推薦者につき二名の参加者を募る。国の精鋭が集うこと、そして目に狂いのない者たちが多きことを期待している。】
手紙の最重要事項の後はとてもアッサリとした書き終わりだった。ご丁寧にも別紙に募集についての要項がビッシリと書かれており、国の識字率や参加費、参加対象を見る。
すると参加費は推薦者持ちであることや参加者の貧富は問われないこと、試合で使用する武器は騎士団が用意することなど、どうにも参加者に負担が少ない内容になっていた。
現王の意向であることは間違いないだろうが、これでは推薦者に旨味が少ない。推薦者が居なければ参加したいと願う者が居ても叶わないものが多いのではないだろうか。
首を傾げていたけれど、ふと手紙の最後に添えられた王からの言葉になるほどと納得してしまった。
主催が王家となれば当然、王が催しを見ないわけがない。参加者が勝ち進めば勝ち進むほど王がそれを目にすることになり“、目に狂いのない者たちの多きこと”を王が望んでいるのであれば、参加者を推薦した者たちに声がかかる可能性がある。
「褒美は王からの賛辞といったところかしら。」
父が私にこれを見せるも言うことは、父はこの推薦者になる気があるのだろう。
王による新たな試みがどう国に影響するのかわからないが、平民の祭りという印象が強まっている豊穣祭がこの催しで貴族も参加できるものとなり、例年とは違った賑わいになるのは目に見えている。
更にはこの催しの警備で大忙しだと予想される騎士団や貴族の護衛たちは参加者から外れると予想でき、参加者は名を上げていない者の参入が多くなりそうだ。
領地を持つ貴族はこの手紙を読んでからすぐ、民を集めて予選のようなものを行うかもしれない。
「…あら?」
“貧富は問わず”
“推薦者は貴族”
“選り勝りの参加者”
“国を上げての催し”
過ぎった可能性に茶を飲む手が止まる。
年を開けてから豊穣祭までは4ヶ月くらいで、参加費を払えるような蓄えを多く持つ貴族を推薦者の標的とされている。
“国の中心人物”とされる貴族たちが、民の多くから腕の立つ参加者を選ぶのだ。これは、まるで…




