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おかえりなさい


冷たい風が吹く初冬、出歩くには少し寒いが今日ばかりはそうも言っていられない。




「リリルフィア様、部屋で待ちませんか?」


「ネルヴは嬉しくないの?久しぶりなのよ?」




私の言葉に苦笑いして、「嬉しいですけど…」と目を逸らす。素直じゃない彼と出会ってから少なくない時間が過ぎた。目の前のこの仕草が照れ隠しであることを知るには十分過ぎるほどに。


彼と会った季節が、2回ほど巡ったのだ。





「あ、あれですよリリ様!」




相変わらず目のいいラングはこちらへ向かってくる馬車を確認してすぐに、目的の人物の乗るものだと断定した。


手を振るラングは少し、ほんの少しだけ背が伸びたらしい。いつもと違ったのは、伸びたことを報告してくれたときの表情が嬉しそうではなかったことだろうか。


そんなことを考えている間に馬車は私達の前で停まる。開けられた扉から降り立ったその人に、私は笑みと言いたかった言葉を紡いだ





「おかえりなさいませ、お父様。」





私と同じ金の髪と青い瞳の父。


シーズンが終わっても2ヶ月ほど王都へ滞在せねばならなかった父よりも先に、私は領地へ帰っていたのだ。こんなに会わなかったのは初めてで、私の出迎えを父も嬉しそうに応じてくれた。





「ただいまリリルフィア!!会いたかったよ!!」





抱きしめ合っての感動の再会。使用人の皆やリオンが居たので寂しさは無かったけれど、それでも大切な人が傍に居ないというのは落ち着かないもので。


父の背に腕を回して、その存在を確かめるだけで安心した。






「それにしても、出迎えは嬉しいけど寒いでしょ。どうして中で待ってなかったの?」


「待ちきれなかったのですわ。ねえ?ネルヴ。」





ネルヴに同意を求めると、彼は目を細めて“自分は中で待とうと言いましたが?”と訴えてくる。彼を味方には出来そうにないのでラングに目を移そうとすると、先程まで居た場所にオレンジ髪は無かった。





「降りてこないの?…え?いや、別に気にしなくても良いじゃん!」





馬車の前方にある馭者台を覗き込み、誰かと話している。


ハルバーティア伯爵家の馬車を操るのは馭者の仕事。今回はジルが王都から馬を操っていたはずだが、ラングの声を聞く限りジルでは無いらしい。


首を傾げる私を見て笑った父は、私の背を押してからネルヴにも同様に馬車へ向かうよう背を押した。





「丁度良かったから、護衛も兼ねてもらったんだよ。お陰で領地の守備を手薄にしなくて済んだ。」





私の為に護衛を割いたことで、父の身の回りを警護する者たちのみでは移動中の護衛に不安がある人数になってしまっていた。当初は私やリオンを送ってくれた後、父が領地に戻ってくる頃合いを見計らって王都へ戻る手筈だったのだけれど、どういうわけか数週前には父がそれを断っていたようなのだ。


リンダ曰く『王都で良い人材を確保できたそうですよ』と言っていたので、ラングが話しかけているのはその“良い人材”とやらなのだろう。


促されるまま馬車に近寄ると、ラングと馭者台に居る誰かの話す様子は何やらヒートアップしている。





「だあかあらあ!!そんなのお前が気にすることないじゃん!」


「そんな訳には行きません!お嬢様たちの邪魔をするわけには…!」


「邪魔じゃないって!!」





低めだけれど、声だけで男性と判断しきれない中性的な声だ。聞き覚えのあるような無いような、そんな声に首を傾げているとこちらに気付いたラングが「ふたりとも!」と私とネルヴを手招く。


一応指摘しておくけれど、仮にも雇い主という目上の人間を手招いて呼び寄せるのは失礼になるのよ?ほら、リンダが凄い顔してるじゃない。


とはいえ、ここまでラングが騒がしくなるような人物とは一体誰だろうという興味から、私はネルヴと目を合わせて二人で馬車の前方へ回る。


馬がフルリと鼻を鳴らし、こちらを一瞬気にしたようだったけれど見慣れた馬たちは私の存在を覚えてくれているようで、特に大きな反応をすることはなかった。馬たちから馭者台の上へ目を向けると、私はいよいよ首を傾げる。





「さっきから旦那様の邪魔は出来ないって頑固なんですよお!」


「ラングさんが気にしなさ過ぎなんです…」





未だ言い合う二人を見て、取り敢えず私は同じように彼らを見ているだろうネルヴを見た。


彼は前を見たまま一切逸らす様子はなく、固まっている。


もう一度馭者台へ視線を戻せば、今度は灰色の瞳と目があった。真っ直ぐこちらを見る瞳は何だか懐かしく思えて、目を見開く表情には2年前の面影がちゃんと残っていて安心した。


背が伸びた、髪が長くなった、身体つきが変わった、声が低くなった。


変化を上げればきりがない。けれど、私は何よりも先にこの言葉を言わねばと息を吸う。






「おかえりなさい、アルジェント。」



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