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出てきてリリ様


リリ様がお部屋に閉じ籠もっちゃった。


代わる代わる色んな人が心配して扉の前に来ては、俺に言葉を預けていく。直接扉を挟んで声を掛けることは誰もしない。





「やあ糞ガキ。お嬢様は出てきた?」


「出てきてない…それと俺ガキじゃないし!」





ネルヴがリンダさんに言われてこの場から離れてすぐ、次に来たのは馭者のアニキ。


このアニキ。名前を呼ばれたくない変な人で、うっかり呼んだ時には何が起きるかわからない。平然と呼び分けられるのは、時折呼んでも何もされないのはジルさんと旦那様とジャニアさんとリリ様くらいだ。





「そんなにアイツが傍を離れるのが嫌なのかねえ。」


「どうなんだろ…」





リリ様はアルジェントを拾った時からずっと、誰よりも目をかけていたことは皆から聞いた。それがどんな思いからなのかは誰にもわからないけど、“大切だから”っていうのは誰もが分かってる。


会ったばっかりの相手を大切に出来るリリ様は凄いと思うし、そんなリリ様だから俺とも仲良くしてくれてるんだと思う。


けど、ちょっと…ちょっとだけだよ?





「俺の時はこんなに落ち込んでなかった!」


「お前は突然騎士団に行ったよなあ。ガーライル伯爵の鍛錬も屋敷でやるくらいハルバーティアから出なかったのに。」





騎士団に入って、リリ様と離れるのが一番辛かった。だってリリ様、手紙もくれないし。メイベル嬢がくれる手紙に書かれたリリ様は元気そうだし。


あ、思い出したら辛くなってきた。


息を吐く俺の横で、特に何をするわけでもない馭者のアニキは、俺の顔をジロジロ見てからニヤッて笑う。




「あのチビにもお節介したから、お前にもしてやろう。」


「え、要らない!!」




なにその怖そうなやつ!


俺は首を横に振ってるのに、それで辞めてくれるように人じゃない。


アニキはそういう人。「まあまあ、聞けって。」と言って壁に背を預けたその人は、楽しそうに話した。





「お前知らないだろ?騎士団に行ったことを知ったお嬢様が旦那様からずーっと、離れなかったの。2週間くらいだったかな?で、それが落ち着いてからは時々厩に来てはジルさんや俺と話す。その時はいっつも屋敷の入口を見てたんだよ。」





屋敷に遊びに行くと、リリ様は時々厩で馬と遊んでた。それを見つけて手を振ると、笑ってリリ様も手を振ってくれて。


やっぱり俺が居なくても平気そう。


段々凹んできた俺に「あ、分かってないな。」って言ったアニキは大きな息を吐いてから呆れたように言葉を続ける。





「お前が来ないか見てたんだって言ってんの。屋敷のどこでもそうだったみたいだよ。調理場もお嬢様の私室も書庫も。何時も何か探してたって。“何か”って、お前しかいないでしょ。」





…なにそれ!!


そんなの知らない。2年ぶりに会った時も、俺がリリ様の騎士になった時も、嬉しそうにはしてくれたけど何時もリリ様は冷静で。


なのに、なにそれ!!





「り、リリ様ぁああ!!!」


「うわ!馬鹿かお前!!」





コンコンコンコンコンコンッと叩きたかったけど叩けなかったリリ様の部屋の扉を叩く。


中で動く音がわかった。聞こえてるって思ったら、誰もしなかったけど俺は息を吸って叫んだ。






「出て来てくださぁああい!!」


「ホント馬鹿!!誰も気遣ってしなかったことを!!!」





気落ちするリリ様なんて滅多にない。だから誰もがそっとしておけって言うけど、旦那様も言ったけど!そんなの寂しいじゃん!


コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン「ラング、やめて。」


叩き続けていると、中から扉は開かれた。


そこには皆が心配していたリリ様が居て。




「あ!リリ様!」


「ジャニアとリンダに叱られても、知らないわよ?」





呆れたように息を吐いたリリ様は部屋から出て俺、そして隣のアニキに目を移して首を傾げた。





「どうしてここに?」


「…マジで?本当にそう思ってるのお嬢様?」





ポカンと口を開けたアニキはリリ様を睨むように見て、使用人の誰もが心配していたと話す。


するとリリ様は心配をかけたことを謝ってから、不思議そうに言うのだ。





「それは申し訳ないことをしたわね…でも、ラングの時よりマシなのではない?」


「まあそうですけど。そもそも貴女が閉じ籠もるなんてこと自体珍しいので。」





リリ様とアニキの会話の横で、俺は色んな嬉しさが湧いていた。


出てきたリリ様、俺の時の方が重症だったらしいリリ様。


アルジェントと何か勝負しているわけじゃないけど、心には少し“勝った”って気持ちがあるのはナイショ。



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