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警戒と正体不明の少女


父にせっせと涙を拭われながらしばらく、ようやく涙の止まった私は集まったリオンも含めて小部屋へ移動した。


そして改めて窓の外に影があったことと、その影がすぐに見えなくなったこと、確かめるために窓を開けたけれど、それの警戒心の無い行動をリンダが注意してくれたこと、涙はその結果だということもすべて説明した。




「反省してる?」


「はい…もっと考えて動くべきでした。ごめんなさい。」




肩を落とす私に「反省してるなら、リンダも叱ってくれたみたいだし、もういいよ。」と父は微笑んで私を撫でた。そして表情を引き締めてリオンと共に来ていたノクトルに向き直る。




「リリルフィアの見た影について調べてくれ。もう日暮れもすぐだから、慎重に頼む。」


「畏まりました。」




暗くなれば外にいる場合見つけることも困難になる。


そうなるともしも危険はなかったとしても、私の見間違いだったと確定することすら難しくなるのだ。




「何かあったときのために、使用人は単独での行動は控えるように通達。特に侍女たち女性や…」




父は言葉を区切り、室内にいるジャニアとリンダを見て「アルジェントはどうした?」と聞いた。アルジェントは基本的にジャニアの指示の下で行動するように今回の旅程では命じられていた。そのジャニアがこの場にいるのに、アルジェントが居ない。




「アルジェントにはジルの手伝いを指示しました。終わり次第アルジェントには私のもとへ来るよう言ってあるので、もう暫くすればこちらに…あ、噂をすれば。」




ジャニアが話していると、コンコンと扉が叩かれた。


開けばジャニアの言うとおりアルジェントが立っていたのだけれど、表情や様子がおかしい。ウロウロと視線を彷徨わせ、頻繁に後ろを確認する落ち着きの無さだ。

私が思わず「どうかしたの?」と声をかけると、ビクリと肩を揺らして私を募るような目で見るではないか。




「お嬢、様…!!」


「何かあったの?」


「その、お屋敷に入ったら…」




アルジェントはゆっくりと体を横に動かす。しかし、そこには何も無く私達は首を傾げる。するとアルジェントは「ちょっと、隠れないで!」といつもとは違う幼い口調でワタワタし始めた。


何なのかは分からないけれど、一つ思うとすればアルジェントの背に何か隠れられるくらい、彼は大きくなったんだなあという感慨深さだろうか。細くて不健康そうだった当初からもう少しで2ヶ月経とうとしているけれど、13歳と言われれば頷けるほどには健康的な体になってきている。


余計なことを考えていた私を他所に、アルジェントは「もうっ!」と何かを背から引っ張った。


アルジェントの少々強引な方法で躍り出てきたのは小柄な赤毛の少女だった。




「痛いですわ!!『銀の王子様』かと思えば、ただの野蛮な男でしたわ!!」




おお、リリルフィアになってからあまり見なかったタイプの女の子だ。勢いよくアルジェントの手を振り払い、パンパンと着ている質素なドレスを叩く。「私の乙女心を弄ぶなんて!!」と声高に憤慨していた。


私、リリルフィアの周りには優しい方々ばかりだったので、こんな鋭く周りに当たる子は珍しく見える。思わず観察するようにアルジェントと女の子を見ていると、女の子の首元が目についた。


質素なドレスは商人の娘や貴族でないお金持ちのような印象を受けるが、彼女の首にかけられ服に仕舞われているチェーン。金に見えるそれは、子供が着けるものとしては些か高価に見えるし、服の中に仕舞われていることも気になる。




「なんか言ったらどうです!『銀の王子様』はもっと勇敢で紳士的ですのに!!」


「“銀の王子様”ってもしかして『シルヴィアの誓い』の?」


「あら!話がわかる方が居られ…」




私が頭に浮かんだ書物の題名を聞けば、パッとこちらを向く女の子。キレイな大きい蜂蜜色の瞳が合い、あれ…何処かでこの表現…




「きゃぁぁあああ!!!」




何かが記憶に掠ったけれど、女の子の悲鳴に全てが掻き消える。両頬を手で押さえた女の子は、またしてもアルジェントの後ろに隠れてしまった。




「私は席を外した方が、お話しやすいでしょうか…」




どうして私、初対面の相手に怯えられるのでしょう。


アルジェントと言いこの女の子と言い、傷つく。


大人たちに目を向けると、何だか憐れんだその表情が余計に痛かった。




「お嬢様に失礼だ!!」


「アルジェント、貴方がそれを言いますか。」


「うえっ…!すみませんっ!!」




女の子を注意したアルジェントに、リンダが思わずといったふうに口を挟む。アルジェントは自覚があったのか私をバッと見てから謝罪を口にした。


その言葉で『やっぱり怯えていたのね』と思ったけど、堂々巡りなので言わない。アルジェントにも気の毒だから。




「わ、私は怯えてなんかいませんわ!!」




アルジェントの後ろから、頭だけ出した女の子が声を出す。顔を真っ赤にして私を見る彼女は、確かに怯えとは違うようだ。


女の子に視線が集まると、視線の通過点に居るアルジェントが居心地悪そうにして身を動かす。けれど女の子はアルジェントの背から出ようとせず、「ちょっと!!動かないでちょうだい!」とバシンと叩いているようだ。




「だって!だって!まるで『星の天使』のような方じゃないですか!!」




『眩い星を束ねた髪に、夜空に夜明けを運ぶ瞳、慈愛に満ちた星の天使は銀の王子に祝福を授けた。』


それが…私…


ないないないない。



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