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彼らの中の欠片


「それで、君達はどうしてあんなところに?」





父を射った容疑から逃れる事ができたとしても、敷地内を動いていた疑いからは逃れることはできない。


捜索へ戻った壮年の騎士の背を見送った叔父は、大人しく隅で立っている二人へ視線を向けつつソファに腰を下ろした。手で向かいへ座るよう促され、私も腰を下ろす。ラングは私の後ろで控えた。




「私も聞きたいわ。お父様がアルジェントの同行を許したとはいえ、自由に敷地内を動き回る理由にはならないわ。」




私たちが帰るまで待たせているから心苦しくはあるが、それが馭者の仕事の内に含まれるのだ。主の指示がなければ職務中は時間を拘束される。





「…興味って言ったらお嬢様、怒ります?」





私の問いかけに緊張した様子の無い馭者はスッと目を逸らした。気まずそうなその仕草に、私はどんな理由があるのかと身構えたが、出てきた言葉は何とも彼らしいものだった。


叱りつけることも出来るが、私が叱るよりも効果的な方法を私は知っている。





「帰ったらジルとジャニア…あとカルバにも報告。よろしくね、ラング。」


「了解しました!!」


「待って、待って待って、お嬢様。それはいけません。使用人にとってそのお三方はいけません。特にカルバ爺様は駄目です!!」





直属の上司に当たるジルよりも侍医のカルバに動揺を見せる馭者に、アルジェントは首を傾げている。


しかし、我が家の使用人で一番発言力があるのがこの三人なのだ。そして特にカルバは古参ということもあり、その年齢相応に使用人たちの祖父のような扱い。


怒られると凹むらしいのは、ラングの証言だ。


慌てる馭者に場に笑いが滲むが、私はそれを引き締めるために声を落とす。




「今日に限っては、私も目を瞑る事はできないわ。お父様が射られた今、致命傷は無くとも伯爵家の機能が低下する事は明白。それなのに場に混乱を招いた貴方達のことを黙っていれば、後々知られた時に使用人の間で不和が生まれることは確実よ。」





刺さった箇所が腹部であったことが、私に冷静な判断をする余裕を作ってくれた。


療養している間、ハルバーティアの仕事を担うのはジャニアになるだろう。彼がそちらにかかりきりとなった時、使用人を纏めることが疎かになる可能性も高い。そうなれば秩序が乱れ、言い争いや不確かな噂が増えることも考えられるのだ。


その時、中途半端に馭者とアルジェントのことが知られればどうなるか。





「貴方の嫌いな“面倒なこと”になるわ、タール。」


「…名前、呼ばないでください。」





そうやって嫌うから、私たちは普段彼の名を呼ばない。


アルジェントは微かに口を馭者を見て動かした。もしやアルジェントは馭者の名を知らなかったのだろうか。


どういった事情か知らないが、彼は自身の名を呼ばれることを嫌う。だからこそ彼の名も人となりも知る者は、行き過ぎた行動をした時にこそ彼の名を呼ぶ。





「こんな時にこそ呼ばないと、貴方は名前を忘れちゃうでしょう?」


「忘れたいんですよ、お嬢様。」


「なら、今後の行動は考えることね。」





凄く、凄く嫌そうな顔をする馭者に私は悠然と笑む。


彼らに父の容態は伝えていないらしい事は部屋に来て分かった。ならば知らぬまま、自身の行動のみを私は咎めることにした。代わりに私は、彼らに問う。





「興味があって動き回ったことは分かったけれど、何が見たかったの?」


「お嬢様と旦那様に決まってるじゃないですかあ。」





話が変わったことで肩の力を抜いた馭者は、当然のようにそう答える。私達の姿なんて毎日見ているのに?と首を傾げるが、馭者は特に私の疑問には答える気がないらしく、何か思い出したように手を打ってから肩をすくめた。




「遠くから見れたらラッキー、くらいに思って歩いた所でお嬢様達が居られたのは本当に運が良かったですよね。けど、正面側に人が居たんで隠れたんです。それでそのままお嬢様達のことを眺めてから戻ろうとしたら、見つかってここまで。」




ザックリとした経緯と動機の軽さに呆れるが、それよりも私は気になる点に眉を寄せる。


思い出せ、と頭の中から公爵たちと出たテラスで見えた景色や風景を思い出した。警備は庭園には配置されておらず、庭園の出入り口にのみ置かれていた筈だ。叔父も小動物の出入りくらいの抜け穴は残されていると話していたことから、逆に人の出入りはできないと分かる。


私は考えをまとめ、叔父に顔を向ける。彼は馭者を難しい顔をして見ていた。





「叔父様。」


「うん、彼が見た奴が一番怪しいね。」





頷いた叔父は私と同じ考えに至っていた。


馭者たちから正面側の庭園の出入り口は見えないだろう。何せ夜会の開かれる会場の敷地は広大だ。その会場の側面を彩る庭園となれば、比例して大きい。


高さがあるテラスから見ても出入り口を確認出来なかったのだから、平面から見た馭者達が反対側の人物を確認できよう筈もない。


となると、彼らが見た人物は“庭園に入っていた”ということだ。




「二人共、見た人の特徴を少しでもいいの、覚えていない?」


「ええ?暗かったんですよ?そんなの…」


「背はジャニア様くらいの人と、ラングさんより少し高いくらいの人でした。どちらも茶色の髪に見えましたけど、服は僕がいつも着ているような軽装でしたよ…?」




馭者の言葉に反するように、その隣から呟かれた言葉は私達の視線を集めた。


戸惑いを見せるアルジェント。




「凄いわ!アルジェント!!」




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