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騎士の誓いの在処


ああ、なんてこと。


控室にはラングと私の二人だけ。


父の頭を乗せていた重みが消えて、ラングにこの場所まで連れてこられたのは分かった。ちゃんと歩けていたかは自身がないけれど、チラつく赤を塗りつぶすように、情報で必死に叫びたい感情を捻じ伏せる。


私を押して父の腹に刺さった矢、それの意味するところを私は嫌でも気付いた。





「わ、たしの…っせいだわ…」


「リリ様!それは違います!」


「何が違うの!?だってお父様が庇ってくださらなかったら矢は、私のっ…」





胸の辺りを握る。深く刺さっていた矢の高さを考えれば、本来狙われていた位置を嫌でも把握できる。


抑えきれなかった動揺のあまり言葉のキツくなる私に、ラングは何度も首を横に振った。





「絶対違う!リリ様の“せい”じゃない!!」





悲痛に歪んだラングの顔、その直後に暖かい腕に包まれる。





「守れなかったのは、俺のっ…」





続きを問いかけるまでもなく私は、彼の言葉の意味を理解した。途端に動揺のあまり眼の前が全く見えていなかった自分を恥じる。


“もっと何か”“あの時どうにかして”


抱き締められる身体から、ラングの震えが直に感じられ彼の感情も溢れ出ているようだった。そんな訳がないのに、ラングは先程の光景を自分の責任だと全て背負おうとしているのだ。


それも私が自分のせいだと、守る対象が守られるべきでは無かったと言っているから。


私はラングの背に腕を回す。父がどうなるかという恐怖も、これからどうなるのか分からない不安も、守られてこうしてこの場にいるからこそ感じることなのだ。






「…ごめん、ごめんなさい。先に言うべきことがあったわ。守ってくれてありがとう、ラング。」


「守れてないですっ!!守れて…なぃ…っ」





そんな事は無い。


強まる締め付けを受け入れながら私は彼の背を撫でる。


彼が異変を感じなかったら、あのままテラスでもう少しと過ごしていたら、私はきっと父に庇われる事無く矢の餌食だったに違いない。


ガラス扉を抜けるようにして射る相手が手練であることは、今思えばよく分かる。そんな相手が居る眼の前で、無防備な姿を晒していたかと思うとゾッとする。





「貴方のおかげで命拾いした。お父様のおかげでここに居る。…さっきまでの言葉は、忘れてちょうだい。」





自分の“せい”ではなく、二人の“おかげ”でここに居るのだと強調した。


ラングのために選んだ言葉が、自分の胸にも柔らかく馴染む。守ってくれた二人の思いを、私は無碍にしてはいけない。





『護ります!御身と…えっと、リリ様の護りたいもの全部!!』





再び私の元へ来てくれた彼のあの言葉を、否定してはいけない。


確かに彼は、私を護ってくれているのだから。


それを再確認し、私は一度息を深く吸って吐き出す。混乱している頭を整理するために、父が倒れる前や私が庇われる寸前のことを思い出す。





「ラング、お父様の容態は。」


「旦那様は別室で手当されています。幸いこの会場に侯爵家の侍医が居たらしいので、手当に不足は無いみたいです。毒による症状も、今の所は見られていませんよ。」




取り敢えず父の手当をするにあたって、環境に不足はなさそうなので安堵する。





「矢を射った人物は。」


「俺がリリ様とここに来るまでは、まだ見つかっていませんでした。」





この控室に連れてこられてどれくらい経っているのか、先程までの動揺のあまり時間の感覚は全く無い。


ラングも私の考えを察したのか、私を抱き締めていた腕をゆっくりと離すと扉へ向かった。


誰か控えていたのだろう。扉を開けてすぐのところで何やら話してから、ラングは戻ってくる。





「不審な二人を庭園付近で見つけたそうです。今は拘束しているとか。」


「…その二人がお父様を?」


「まだわかりません。」





庭園に居たのなら、何かしら関わりがあると見ていいのだろう。早く射った人物が見つかることを願いながら自分の手を握っていると、扉が控えめに叩かれた。


ラングが扉を開け、外に居た人と話す。




「え?リリ様に…?」




私の名前を出したラングに扉を見れば、ラングもこちらを見ていて。何だろうと首を傾げれば、難しい顔をしたラングが扉を開いたままこちらへ歩み寄ってきた。


ソファに座った私の前で膝をつき、迷うような表情で私と目を合わせる。





「リリ様、拘束された不審な二人がリリ様を呼んでいるそうです。」


「その二人、誰かわかったの?」


「それが…」





告げられる名前に、一瞬思考が止まる。


何故その人たちがと考えるより先に溢れたのは、今の状況から現実逃避したような自分で思うよりも脱力した声だった。





「なに、やってるのよ…」





ラングから告げられたのは、私達のよく知る若い馭者と灰色の髪の少年が不審者として拘束されているという事実。


こうしてはいられない、と私は彼らのもとへ行けるようラングに取り次いでもらうことを急ぐのだった。



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