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昨年の隠し事の暴露


「い…嫌じゃないのか?」


「え?」


「だって…あいつは…」





あいつ?首を傾げれば、公爵から「トルロイ子爵令嬢だ。」と訂正が入る。アニスにも私と同じように挨拶したらしい。


ただ、子息は拗ねたような顔をしてモゴモゴと先を言おうとしない。暫く様子を見ていたが、黙ったままの子息に痺れを切らしたのかまたしても公爵が口を開いた。





「はあ…一度睨まれたからといって、すぐにそうやって諦めるのか?トルロイ子爵令嬢もそうだが、目の前のハルバーティア伯爵令嬢はお前を好きだと言っているじゃないか。」





言っていませんけれど。


何ということだ、と言葉の捏造に公爵を見れば子息を慰めるように頭を撫でている。白々しい、と息を吐きたくなるのを我慢して父を見れば、こちらは堂々とため息を吐いていた。


後でしっかりと訂正することにして、今は子息のことだ。アニスに声をかけたまでは良かったようだが、“睨まれた”とは。




「カルタム様、アニスに声をかけたら睨まれたのですか?」


「声をかけようとしたら『今更なんの用ですか』って…」




ああ…。子息の潤んだ瞳から、言おうとしたことを満足に伝えられずそのまま泣く泣く場を離れたことが容易に想像出来る。


アニスはアニスで昨年の怒りを払拭出来ずにぶつけてしまったのだろう。先程会ったときにはそんな様子が無かったので、彼女の中で目の前の子息はほとんど眼中に無さそうだというのもまた可哀想な話だった。




「彼女も気が強いなあ。公爵家の子息に対してそんな態度を取れるなんて、なかなか居ないよ。」


「私も毅然とした態度に関心した。カルタムは残念だっただろうが、それだけのことをしたということだ。」




公爵の言葉に俯く子息。反省を態度で示すならば、初めの態度よりもこちらの方が伝わるのでは無いかと考えたところで、私達が出たガラス扉が大きく開かれた。


そこには話題に上がっていたアニスと、ニコニコと笑顔の叔父。アニスは私達を視界に収めると、その眉間にシワを寄せた。その不機嫌を顕にする顔は、おおよそ11歳のする表情では無い。





「リリルフィア、探しましてよ。」


「私を?」


「公爵家の方々と妙な雰囲気だったと噂になっておりますわ。その上にこんな場所に足を運んで密談のような素振りを見せれば、誰でも勘繰るというもの。」





その冷静な態度に、私は少し驚いた。


明朗快活な印象だった彼女が、今は瞳に険を宿して真っ直ぐこちらを見ている。今までだったら目の前の相手に大きな声で叱り飛ばすくらいしていただろうに。


それと彼女の言葉、妙な雰囲気とはどういうことだ。男女の会話であったとしても十歳くらいの幼さな上に親同伴。何を勘繰れば怪しげな雰囲気になるのだろう。


それに密談も何も、今アニスが飛び込んできたように施錠されている訳でもない。入り込めない雰囲気であったのだとしても、私達には何もやましいことなどないのだが。





「ほらアニス、皆驚いてるじゃない。それに勘繰ったのはアニスだけで、他の方々も『昨年のお話でしょうか』って言っていたじゃないか。」


「それが問題なのですわ。今更謝罪の言葉を述べようなどと虫の良いことを仰るなんて、私は許せませんわ。私にだけでしたら何も言いませんけれど、リリルフィアは全面的に被害者ではありませんか。」





一方的な謝罪など受け付けるべきではない。


アニスはそう言いたいのだろうが、少し目の前の当事者を見てから発言してあげてほしいものだ。拳を握って震える子息はもう、虐めを受けているかのような表情で涙に震えてしまっている。


本当に反省している相手に、アニスの言葉は痛すぎるのだろう。





「アニス、私は迷惑に思っておりませんわ。謝罪を受け入れ、カルタ…公爵子息とお話しようと思っていましたのよ。」


「それが甘いと言っているのですわ!リリルフィアは優しすぎます!私は忘れもしませんわ!リリルフィアが「アニス!!」」





それを今、言われては駄目だ。


咄嗟に彼女を呼んだけれど、思ったよりも大きな声はテラスだけでなく会場にも僅かに聞こえたらしい。何時の間にか居なかったラングがガラス扉を開けてこちらを伺うように覗き込んでいる。


言葉を遮られたアニスは瞳を大きく開いて驚き、幸いにも次の言葉を紡ぐ様子は無い。





「あれは、私に対してではなかったでしょう?この場で声を大きく言う事ではないわ。それを言うのなら、貴女の事も話すべきよ。」





私の言葉にアニスは押し黙る。お願いだから、もう何も言わないで。


ここで言ってしまったら、私の横や前で首を傾げている父や叔父が何と言うかわからない。そう思ったからこそアニス自身も詳しく言っていなかったのでしょう、と目で訴える。




「…ハルバーティア伯爵令嬢に怪我をさせてしまった事は、本当に申し訳なく思っているんだ。」




ハッキリと言ってしまった公爵子息を見れば、眉を垂らして何度目かわからない泣きそうな顔。


大人たちは知らなかったであろう昨年の茶会で起きた出来事の一端に目を見開き、中でも父はその直後に私へ細めた瞳を向けてくる。





「…どうやら、私達の知らないことがありそうだな。」




低く唸るような公爵の声に、私達は三者三様に肩を震わせた。



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