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ピースを繋ぐ


次に私は2つ目の要点を指す。






「王族と距離を置かせたいというのはそのまま、私を王女と関わらせたくないのだと考えていいでしょう。」


「第3王女と王弟殿下だね。」


「はい。これは送り主自身にとって不利益になるからと考えることが一番自然かと思われますわ。」






【玉に手を触れることなく去れ】という部分は、手紙を最初見たときの見解と変わらない。後に続く脅しのような文章を見てそう思ったわけだ。


ふと周りで待機してくれている4人を見る。静かに立ってはいるものの、その反応は様々だ。


まず、リンダとジャニアは私達の話を頷きながら聞いていた。この二人は私達を専属で支えてくれる使用人なだけあり、頭が良い。それに私の考えを察することに関してリンダの右に出る者はいないくらいだ。この二人が今の話をすんなり理解出来ているのは予想が出来た。


そしてラング。こちらも予想の範囲内で、冷や汗を流すような気まずそうな表情。全く理解できていないのだろう。彼に関しては理解出来ずともジャニアがどうにかしてくれる。だから今はいい。


残るアルジェントとネルヴは、知らない情報と別世界のような貴族や王族の世界にか、耳を塞ぎたそうにしていた。


そんな二人を示して、私は口を開く。







「そして最後に、彼らを“手放させたい”。」


「自分たちが手に入れるために?」






父は自身の考えと照らし合わせるように、私へ質問を投げかける。その表情は面倒そうというか、何かを思い出して辟易しているというか。


それもそうだろう。ネルヴをハルバーティア伯爵家に連れてくるために、“手に入れたい”と思っている貴族家を一つ相手にしたことがあるのだから。






「…リリルフィア。まさかとは思うけど、マルデイッツ子爵を動かしていた“何か”があるとか言わないよね?」


「ふふ。お父様…分かっておられますでしょう?」





問いかけた時点で、父がその可能性を視野に入れたのだ。私以上に貴族関係に詳しいはずの父が、私の話す言葉たちを上手く繋げられないはずがない。


『羨ましい』


いつか、我が領に足を踏み入れた他家の者が言っていた。あの言葉が頭から離れず、あの黒曜石のような瞳が消えない。





「きっと、伯爵家という子爵家に家格も歴史も勝る家へ害なそうとするには、相応の力や知恵が必要だったのではないでしょうか。」





問題が起きた場合にねじ伏せる事のできる権力。


伯爵家を言いくるめられるような知力。


どちらも兼ね備え、尚且目的を遂行しなければならないとなると、子爵家では何もかもが弱い。


数ヶ月前にそれを考え付いていたわけではけしてない。しかし、あの日のことを考えれば考えるほど、子爵家の者が父に言い残した言葉が引っかかっていたのだ。


『この先伯爵が今回のようなことを繰り返されるのであれば…』『良く思わない方々も多いでしょう』


今同じ言葉を聞くと、まるで予言のようではないか。





「手に入れたい理由は、他国の人間を手元に置きたいからってことか。我々を間諜ではないかと疑う素振りを見せつつ、その実関係を深くしたかったのは相手の方だった、と。」


「恐らくは。」





その先の目的自体は見えない。しかし父の考えは概ね私と同じもので、私達は揃って息を吐いた。


父はアルジェントたちを渡さない為にどうすればいいのか考えるだろう。手紙を見つめ、思考に耽る姿はやっぱり親子なのだなと自分でも思った。私はそんな父の肩を叩き、リンダに持ってきてもらった政務記録と語学本を見せる。





「お父様。一つ、朗報と言いますか相手にとって想定外であろうことがありますわ。」


「ん?」




私は厚い政務記録の中でも一冊目の一番初めあたりを捲る。


どれを読んでも綴られた文章は流麗だが、どこか日記のような言葉選びのときがある。代々領地で行った政務を記録しているのだ。その書き手によって変わる読み味がまた面白い。


今注目すべきは、その政務記録に記された【移民の保護】に関する文章。同盟が締結される前、今は味方となっている隣国や他の国々とも戦争の火種は存在した。


争いの中で生活の苦しくなった他国の民を、我が領地で匿ったという記述だ。






「匿った移民たちはシルヴェ国民となり、後々はお隣の領地の山間へ移り住んだそうですわ。祖国と環境の近い場所での暮らしに、移民たちもシルヴェへの愛国精神を芽生えさせたのだとか。」


「はは…“北西の帝国”ね。なるほど。」





どんな場所からやってきたのかという記述を読んで、笑いを滲ませる父。


もう答えの出たような空気の中、私はアルジェントとネルヴを傍へ呼び語学本を見せた。それは北の国で独自に発達した、文字や単語を連ねた箇所。






「アルジェント、ネルヴ、この文章、読めるかしら?」





二人はジッと語学本を眺め、ゆっくりと首を振るのだった。



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