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情報のパズル


言いたいことを言い切ったのか、ラングは深呼吸して落ち着きを取り戻そうと頑張っている。


その横の二人はしきりにラングの言葉に頷いていたので、話さずとも私を普通ではないくらいには思っていそうだった。


そんなことは無いのだけれど、と心の中で思うに留めて私は視線を資料に戻す。恵まれた環境であったからという言い訳も、彼らはそんな勘違いしないだろうが、人によっては皮肉と取られかねない。


言わぬが花ということも、世の中にはあるだろう。






「あ…この辺りの時期だわ。」





【“聖女”隣国へ!!】


そんな見出しで始められている新聞は、一人の女性が隣国…我が国へ嫁いだという記事だ。


同盟を結ぶにあたって両国が友好的示さねばならず、その為の婚姻だったとされており、現在この女性は侯爵夫人として夫である侯爵を支えていると聞く。


この記事が発刊されたのは数十年前の夏。





捲っていく中で次に目についたのは【同盟国の悲劇!王子が遺した隣国の宝】というもの。


同盟国の王子の死を民へ報せる為に書かれた記事だろうが、我が国ではこの記事の日付よりも二月程度早い日付が歴史書に載っていたと記憶している。





そして今から凡そ十四年前、【王女生誕!王は隣国へ祝福を!!】という見出しで我が国の第一王女の生誕を同盟国の王が祝福したという記事があった。


その僅か四年後、私の生まれた年には【祝福!聖女の再来!!】という記事。




パラパラと複数の記事を度々捲りながら読み比べていると、横から「ウチの関連記事ですか?」とラングが問う。


多くの言語でも“シルヴェ”の単語は綴が同じなので、それを見てラングは気付いたのだろう。私は肯定を示すために頷き、俯いていたことで落ちてきた髪を背に流す。





「同盟国と王族に関する記事よ。」


「どうしてそんなものを?」


「…少しね。」





近くにいるアルジェント達へ視線を送らないよう意識しながら、私はラングに顔を寄せる。二人が他の資料に興味が移っていることを確かめてから、私は「手紙の事で。」とだけ言った。


ガーライル伯爵家からの手紙はあの後、本人によって強く否定された。


その否定の証拠として、ガーライル伯爵は封蝋の捏造と手紙を届けさせている者の供述を挙げ、その正当性に父もガーライル伯爵の言い分を全面的に信じた形だ。


ガーライル伯爵家の無実を確認した上で、次にすべきは送ってきた首謀者を絞ること。父からこの件に関して、私が踏み込むことは許されていないが、調べることくらい許してほしい。






「…やっぱり。」





見ていく中で、私は大きな見出しの次に注目される袖見出しの【厄介払いの一面も?】という部分を読む。


我が国へ嫁ぐこととなった“聖女”という存在。


教会等で指される者のことではなく、この場合は慈悲深き女性という意味合いで使われており、嫁いできたのは嫁ぎ先と同じく侯爵家の令嬢だった。


聖女の生家は王族の血も引き入れている由緒正しき家系。しかしそれ故か袖見出しにある通り厄介者扱いされていたのだそうだ。


その理由が“髪色”


【宗教の関係で濃い色を忌避していた侯爵家。無償の愛を国や民へ捧げていた聖女を支援する一方、とある方面からは『贖罪を強いているのでは』という声もあったと調べにより判明。】


“濃い色を忌避する宗教”とは、逆に“白きを尊ぶ宗教”と取れるのではないか。私の予想が当たっていれば、ガーライル伯爵が話しておられた“白き一族”との関連も見えてくる。


しかし。





「“引き入れし者”…」


「リリ様?」





呟きが聞こえたのか、伺うようなラングに首を振って何でもないと示す。


手紙に書かれていた文章は私に理解できない言葉が多かった。中でも謎だったのは“その凍える眼で他国の者を引き入れし者よ”という間者を疑うようなモノと、“金の髪は崇高なる色ならず、紛い物のメッキなり”という何かを偽っているという文章。


心当たりが無いとは言えないし、初めはアルジェント達の事を指しての言葉と思っていたが、何かが引っかかる。





「兄さん、コレ何て読むの?」


「え、僕外国の文字分からない…」





文字の読み書きが一般よりできても、流石に他国の言語は分からないようだ。


二人で読めそうな言葉を探している姿を眺めていた私は、カチリと何かが嵌った気がした。





“白き一族”

“聖女”

“厄介者”

“宗教”

“奴隷”

“白に近い容姿”

“侯爵家”

“メッキ”

“悪の子”





「あ…」



思わず叫び出しかけたのを塞ぐように口を手で抑える。私の頭で組み立った、一つの可能性。それが正しいかなんてこの場では分からないが、正しければ全ての説明がつく。


手紙の本当の送り主も見える。


何故今、送ったのかも。





「お嬢様?」




口元に手を当てて黙り込んだ私を三人が不安げに見つめていた。


話すべきか、否か。


取り敢えず私は、ゆっくりと自身の手を口から離して意識的に口角を上げた。






「もう調べたいことは終わったわ。あなた達は?」





屋敷に早急に帰らなければ。そして父に会うのだ。


彼らが私の言葉に頷くのを見ながら、私はこれから起こり得ることを繰り返し予想していた。






ーー巻き込まれる事件、目の当たりにする“奴隷”という存在、深く残る戦争の爪痕。ーー





起こり得る未来を私は既に思い出していた。主人公は何を目の当たりにし、誰に協力したのだったか。


馬車で帰路を走る中、私は自分にできる事とそうでないことを考え、抱えきれない事態の大きさに恐怖しながらも、数々の言葉をくれた人たちを思い描いていた。



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