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意思疎通


「殿下方の御前だオランジュ!許可無く言葉を発するな!!」


「すいません!!しかし…!!」






声を張り上げたのは副騎士団長。ラングを一喝した姿は今まで沈黙し続けていた印象とは違い、緊張を孕んでいる。


ビクリと体を強張らせたラングは騎士団に所属していた時の癖か、胸に手を当てて謝罪の声を張り上げた。それをこの場で一番高い地位にある公爵が手を振って解くように示す。







「良い、それよりも事態の仔細を報告。」


「はっ!!複数人の王都住民と思われる者たちが不審な動きをしていた所を警備兵が発見。声を掛けたところ逃げようとしたらしく、対応を聴取から捕縛に移行。取り押さえた者たちを救出しようとしたのでしょう、そこで暴動に発展しました。相手は現在侯爵邸の警備の者たちが事態の鎮静をしております!」






確定的なことの少ない報告に、公爵は難しい顔をして「居合わせた者については。」と先を促す。


それに対してグッと表情を崩したラングは部屋に入ったときと同様、私に視線を向けてきた。その意味が分からず不安が胸を占める。落ち着かなければと呼吸を繰り返す私に、父は背を撫でてくれた。






「居合わせたのは3人の男女、警備兵が取り逃がしていた者を3人の内一人が確保に尽力。それを妨げようとした相手が、尽力した者に危害を加えようとしたところを庇う形で負傷しました。」


「その3人は今どこに?」


「…別室にて、夜会に出席していた3人の関係者が手当をしております。」





気まずそうに目を逸らす仕草、低くゆっくりとなった口調、雇用主や王族といった隠し事など意味のない場で未だに出ない居合わせた者達の詳細。


幼い頃を共に過ごした短くない時間、彼が言うことを渋っている時は大抵誰かが悲しむ内容なのだ。それがラング自身の時もあるし、他者であるときもある。後者の場合の彼は今のように唇を噛んで自身を傷つけてしまう。


本当にラングは分かりやすい。






「クラヴェルツ公爵、お話中割り込むことをお許しください。」


「ああ、君達の騎士だったな。良いよ、許す。」





横から話に入った私に嫌な顔ひとつせず場を譲ってくれた公爵に感謝しながら、私はラングに向き直る。


どうせ知るのなら彼の口から直接知ったほうがいいだろう。呼吸する度に肺が緊張や不安で潰れるような息苦しさを覚えるけれど、今はそれを振り切って姿勢を正し深く息を吸った。






「ラング、何方なの?」


「リリ…ルフィア様…」


「私の知っている人よねきっと。“関係者”が夜会に居るような。」






自分で紐解くように、ラングへ言葉を紡ぐ。


ラングが知っていて、私が知っていて、彼が私に隠そうとするほど名前を聞いたら動揺するだろう相手。


最近接する時間が無くて気になってはいたけれど、兄弟揃って見送りにも居なかった彼ら。


もう、分かっているのだ。






「負傷したのは誰?」


「…」


「大丈夫、なのよね…?」






思ったよりも弱々くなってしまった声にこちらを見たのは複数。落ち着くために握っていた手を解いて、握り込んでしまい爪の当たった手の甲を擦るように撫でる。


こんなにも動揺してしまうからラングは私に言おうとしないのではないか。この場に飛び込んで来るようにして報告に来たのはいち早く知らせようとしてくれたからだけれど、優しい彼は私を『全部護る』と言ってくれていた。


その言葉通り、私の心を守ろうとしてくれている。


不安を小さく押し込めて、私は顔を上げる。目向けた先には眉を情けなく垂らして、不安そうにこちらを見ているラングが居た。私は彼に向かって弱さを見せないように意識して、声を低く響かせる。






「あの子達ね?」





シャリと歪んだその表情が、答えだった。名を出さずともラングに私の言いたいことは伝わり、皆まで言わずとも彼の考えは分かる。


私は父に目を向け、その険しくも動揺の無い姿に一つの考えが頭を過るが、それを隅に追いやってこれからすべきこと、出来ることを考える。


そして私は公爵とレイリアーネのいるソファに視線を向けた。






「公爵、並びに王女殿下、大変失礼と存じますが御前を失礼しても宜しいでしょうか。」






私の求めた許可に公爵は頷き、レイリアーネは事態が把握しきれていない様子で私に揺れた瞳を向けた。


レイリアーネには申し訳ないがその視線には気付かないふりをして、次に目を向けるのは父。


父は心得たとばかりに私が今言った言葉を同じように公爵とレイリアーネに向け、公爵も同じように頷いたのを見ると私の手を取って立ち上がる。






「それではクラヴェルツ公爵、王女殿下、失礼致します。」


「あ、待った。」





場を辞そうとしたその時、何かを思い出したように私達を止めたのは公爵。彼は別段焦る様子も動揺する様子も見せることなく、ただ私と父に目を向けて言った。





「ギルトラウ。次からそう呼ぶように。」





急に起こった事態と公爵の落ち着いた言葉が相まって、私は頭を下げるだけしか出来なかった。


それが公爵の名であること、名を呼ぶ目的、呼ぶことによって変わるなにかに、気づいても廊下へ出て先を急ぐ私は考えることを後回しにした。



ここまでお読み頂きありがとうございます。


なんと作者が見かけた時にptが1000を迎えておりました!変動するものなのでいつお帰りになるか分かりませんが、証拠写真はバッチリです。


読者様を直接拝見することこそ叶いませんが日々アクセス数などを眺めては、自分の作品が目を向けてもらえていることにニヤニヤしている作者です。


また、誤字脱字報告と言う素敵な機能によって寄せられる自分の誤字の数々にはもう本当に、本当に!助けられています。


客観視って大切ですね。不出来な作者を『しょうがねえなあ』というお気持ちでお助けくだされば嬉しいです。感想もお待ちしてます。


最後に。お読みくださる多くの読者様には感謝しかありません。これからも、物語の終わるその時まで本作を見守って下さるよう精進して参りますので、よろしくおねがいします。

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