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差し伸べられる手の重さ


迷っているのを押し切られるのは、押し付けとは言わないのですか。


優しく撫でられる頭や背を感じながら公爵の言った『押し付けるのは許さない』という言葉の線引を考える。父が私の代わりに受け取ってしまったので白い騎士様は満足気に頷いておられる。それが少し恨めしかった。





「リリルフィア、相手の申し出を拒否するというのは好意を否定すること。それは失礼だと、教わっただろう?」


「ですが…」





好意を素直に受け取ることができないのは、自分の短所になっているということを最近自覚した。それは社交に出るようになって、つくづく周りから好意を寄せられることが多くなり、そういった場面に出くわすことが頻繁にあったからだ。


受け取れないのは、関係が近くなるのが怖いから。積み重なる好意という名の権力や人脈に、自分が潰れてしまう気がするから。


俯く私に、父の温かい手が乗る。





「リリルフィアの為でもあるんだ。これから関わる方々を思うと、味方は多いほうがいい。」





『関わる方々』と聞き顔を上げると、公爵と目があった。その眼差しは悪戯がお好きそうなものでも、私を笑うものでもなく、ただ私の反応を見ているようだった。


その隣にはレイリアーネ。私と会ってすぐから見せていたキラキラとした瞳は輝きを潜め、不安そうな眼差しがそこにあった。







「攫わせてくれなかったのはリリルフィアだよ?」





優しく言われた父の言葉で、ここに来るまでに自ら決めた『望み』を思い出す。


潰れることが怖いからと、目の前で手を伸ばしてくれる人たちを拒絶するのは、あまりにも自分勝手で覚悟の無いことではないのか。


つい先程この手を取ろうと決めたばかりだった。それを早くも忘れ、目の前の手に怯えるだけで、差し伸べてくれる人達の『望み』を無視しているということに気付けていなかった。







「…はい。ザラン騎士の申し出と誓い、このリリルフィアがしかと、お受け取り致します。」






お腹に力を入れて宣誓のように告げるのは、私自身の誓でもある。


肺いっぱいに息を吸い、全身に酸素を回すように呼吸をすれば視界が開けて、その真ん中に見えたのは優しく私を見てくれている公爵。





「それで良い。受け取ることを怖がる必要は何もない、それは与える側が相手に配慮すべきことだ。」


「この方の言うとおりです。私の誓はこの方がご迷惑を掛けるであろう迷惑料とでも考えていてくだされば。」


「おい。」






一瞬にして軽くなった空気の中で、ザラン騎士と公爵は軽口を叩いている。その関係性が私とラングのそれに思えて、自然と肩の力が抜けた。


頂いた誓や好意は相変わらず重く感じる。けれど、それをくれる人たちの思いを考えれば、受け取らなければならない、拒絶してはいけないものに感じた。


受け取ってしまえば、それに恥じない自分であろうと背筋が伸び、上げた視線の先には今のような嬉しそうな人たちがいると思うと、受け取った好意が重いだけでなく暖かく感じられる。






「ウチのミカルドも貰ってくださいな!」


「王女殿下、それでは私がハルバーティア伯爵令嬢の騎士になることになります。」





パッと扇で後方を示し、明るく言ったレイリアーネに騎士ミカルドは苦く笑う。屋敷の一件で二人の印象をある程度把握していたけれど、更に関係が良くなっているようだった。


ミカルドの返しに視線を彼から遠い位置に向けたレイリアーネは「…私はそれでも良いのだけれど。」と自身の口元を扇で隠す。






「ほう。“また”お話し合いが必要ですか。」


「だって聞いてくださる!?ハルバーティア伯爵令嬢!ミカルドが私の隠していた小説を陛下に渡してしまったのよ!?」





ローテーブルに手をついて話すレイリアーネ。それに対して事情を知っているらしい公爵は「ああ…あの恋愛小説…」とこれまた苦笑い。





「これから必要になるからお渡しいたしました。けれど内容が平民との恋でしたので即刻処分を言い渡され「なんですってえ!?」…言い渡されたのですが、お返ししたではありませんか。」





憤っておられるレイリアーネと反省の色が見られないミカルド。本が好きな私としては、冗談でも処分だなんて単語を聞きたくない。


それより気になるのは“これから必要”ということとそれが“恋愛小説”である点。


婚約者の決まっていないレイリアーネ。その意味するところを考えれば、私は自然と目が父へ向いた。






「ご婚約、でしょうか。」


「そうだろうね。好みの者をと親心を見せたけれど、手段が悪かったのかなあ。」






少女と騎士の愉快な一幕だけれど、掘り下げると政略結婚を検討している一国の主の考えが透けて見えてしまった。


思わぬ情報に聞いてしまってよかったのかという焦りが拭えない。






「心配すんなよ嬢ちゃん、王族と個室で話してる時点で嬢ちゃんは『王族の話し相手』と見做されてるから。」


「…は」





考えなかった訳ではない。


しかし『王女殿下の』ではなく『王族の』というのはどういうことだろうか。


言葉を紡げず視線で訴える形になってしまった私に、公爵は丁寧に、それはもう聞くからには逃さないといったように語った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 仮に差し伸べられた手が重く自分には無理だと思うのならその立場に上がらなければいい。ぶっちゃけ脇役に徹すればいいやんな。
2022/02/05 21:01 退会済み
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