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要は考え方次第


何度か夜会に出席しているけれど、大人の多い空間と茶会とは違う空気は何度体験しても慣れるものではない。


昨年も訪れた綺羅びやかな会場を馬車から見ながら私は息を吐いた。







「気が重いですわ。」


「リリルフィアなら大丈夫だよ。ほら、ラングを見てご覧。」






父が対面に座るラングを指すのでそちらを見れば、ソワソワと落ち着きの無い様子で服や傍らに外している剣に触れている騎士がいた。子爵という地位で侯爵家に招待されるのは名誉なこととされるのは勿論だけれど、ラングの落ち着きの無さはそれだけではない。






「前職の上司の関係者から招待されるなんて、それは緊張もしますわ。」


「それだけ目を掛けてもらっているということだよ。騎士団を離れてもこうして遠くても繋がりがある事を示すというのは、職の垣根を超えて関係を続けたいという相手の意思表示でもあるからね。」







父の知り合い、そしてラングの上司でもあった夜会の主催者はハルフトル・ニカース・ジェッタ。


侯爵家当主でありながら剣術や戦術に秀で、爵位を継ぐ前には多方から騎士団への所属を願われていたらしい。爵位を継いでからは領の統治によって王家へ忠誠示し、養子となった甥が騎士団に所属して高い地位に着いたことでも知られている。







「急に騎士団へ行ってしまったときは驚いたけれど、多くの味方を増やしたのね。」


「俺からすれば、一度も会ったことない相手なのでちょっと…」






落ち着きなく、ラングは騎士服のボタンに触れる。


ラングが着ているのは前職である騎士団の制服ではなく我が家の騎士服。意匠の違うそれはハルバーティア伯爵家に所属する護衛や警護を任せている者に渡している制服で、公の場で着てもらうことによってその者が何処の騎士なのかを知ってもらう意味合いがある。


公爵家にラングが招待されていた際には彼への個人的な招待だったので他の正装を用意し、ガーライル伯爵家の夜会では我が家とラングは別行動だった為に着せる機会がなかった。


落ち着いた深い緑色に、僅かだが金の刺繍が施されている騎士服はラングのオレンジの髪がよく映える。金の刺繍は我が家の一族に多い金髪を模しているとされ、騎士本人の忠誠と我が家の信頼とを繋ぐ意味合いがあるそうだ。







「なら、俺達と一緒に来ていることだし雇用主の知り合いとして合うといい。間違ってはいないし、少しでも何か緊張感があったほうがいいだろう?」







ラングの騎士服に視線を落としながら、父は片目を瞑って笑う。


我が家の騎士服を着ているのだから、父の言うことは名案に思えた。子爵や元騎士団所属者として出席するとなれば、知らない相手に招待されたとしか思えないかもしれないが、侯爵は父と関わりあるお方。


子供の頃から何も言わなくても我が家に来ていたくらいだから、父の知り合いと考えたほうが上司の親戚よりも親近感が湧くというもの。


頷く私にラングはゆっくりと瞬きを繰り返してから一つ、頷いた。







「そうですね!旦那様のお知り合いの方とお会いするって考えたほうが失敗出来ないって思えそうです!!」


「上司の親戚も、失敗出来ないと思うけど…」






父の挟んだ言葉も聞こえないのか、元気になったラングは「リリ様、なるべく俺と一緒にいて下さい…!!」と私に引率を願ってくる。私は父の付添であって、貴方の付添では無いのだけれど。


それに。






「ラング、恐らく私も余裕が無いから無理だわ。」


「え、リリ様が余裕無いってどうしたんです!?」






ラングには何も話していない。話す必要性が薄かったというのも理由の一つだけれど、もし話して緊張しようものなら今でも落ち着きがないのにどうなるか分からなかったからだ。


ただ、私の護衛を兼ねている以上何も情報が無いことは不利にしか働かないので『大切な方にお会いする』とだけは伝えてある。


伝えてある、筈なのだけれど?







「体調悪いんですか?昨年もリリ様、旦那様について行ったんですよね?」








どうやら頭から抜けているようだ。


呆れてため息が漏れる私の横で、父が言葉に棘を含ませながら「あれラング、リリルフィアが誰と会うのか言ったはずだよね?可笑しいなあ、忘れちゃった?俺はリリルフィアが伝えてるの聞いてたんだけどなあ。」と笑顔で紡ぐ。


夜の王都に灯りで輝く屋敷の前に着いても、父の笑顔とラングの震えは止まらなかった。


馬車の扉が外から開かれ、漸くラングはホッと息を吐いていたけれど、それも馬車から降りれば引き締まった表情に変わる。


ラングから差し出された手に、私は手を乗せる。


支えてくれると言うより力のあるラングだからか浮くような軽い足取りで降りることが出来、次いで降りた父へ私の手は移った。


多くの使用人が頭を下げて作る道の中を3人で歩く。


綺羅びやかな屋敷の中へ、ゆっくりと足を運んだ。



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