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飴と鞭


リンダが戻ると、ジャニアが一緒だった。




「申し訳ございませんお嬢様、今お嬢様とお会いさせると旦那様は必ず仕事を放棄されそうですので…」




ススッと差し出されたバスケットに、私は苦笑いを浮かべるしかない。




「お菓子が無くても、邪魔をするつもりはないわよ?」


「承知致しております、お嬢様は聡明であられますので。ですからこれは、私がお嬢様のご意向に添えない事への罪滅ぼしなのです。」




なんて大袈裟な。けれど受け取らないのもジャニアが引き下がりそうにないし、中身も気になるので受け取ることに。


直接受け取ったバスケットは重く、フワリと香ばしい匂いがした。


リンダが先程まで私が飲んでいた紅茶を避けてくれたので、テーブルにバスケットを乗せて開くと大小様々で色とりどりなお菓子たち。思わず「まあっ…!」とジャニアを見れば何だか眩しそうな表情をしていた。




「凄いわジャニア!本当にもらっていいの?」


「勿論でございます。全てお嬢様の為のお菓子ですので。」


「シェフにも後でお礼を言わなきゃ!」




どれを食べようか、何個食べれるか、とバスケットを覗き込んでいるとコンコンと扉が叩かれる。


リンダが出ようとしたのだが、扉に近かったジャニアが彼女を制して扉へ向かう。開けば少し前にも見た緊張する様子のアルジェントが居た。




「し、しつっ…!?」




先程よりも動揺した様子のアルジェントの視線上にはジャニア。言葉が紡げないらしいその様子に、ああ…予想外に上司が居て驚いたのか、と可哀想になってくる。




「どうしました、アルジェント。」


「いいいいえ!!し、しちゅれいしみゃす!」




もう動揺し過ぎて面白いことになっていた。


顔を真っ赤にして震える彼が哀れになってきて、「ジャニア、アルジェントを通してあげて。」と促してみる。私の言葉を受けてジャニアは扉を大きく開き、アルジェントの背を室内に押した。




「入室を許可されたときの挨拶、教えたでしょう。」


「ひゃい!!」


「ジャニア。雇って間もない者を、目上の人が多くいる中で指導するのは良くないと思うわ。後で、徹底的にすればいいのよ。」




主人というべき令嬢、令嬢付きの侍女、使用人を纏める執事長、そんな中で指導したって緊張して頭に入らない。

厳しくするなら一対一で個人指導の方が絶対良い。

私の言葉にジャニアは頷きアルジェントは顔を青くさせていたが、どうか頑張って欲しい。




「それでアルジェント、用があったのでしょう?」


「は、はい…お、嬢様を呼んでくるようにと旦那様から仰せつかりました。」




その言葉に思わずジャニアを見てしまう。先程彼は父に会うと仕事が進まないと言っていなかったか。そのジャニアはアルジェントを見て、何というか、すっごい顔をしている。


顔が『あの野郎、サボる気か』と言っている。蔑むような、怒りが滲むような、そんな言葉にしづらい顔。




「…お嬢様。」


「え、ええ。都合の良いタイミングで呼んでくれたらいいわ。」


「畏まりました、失礼致します。」




私を呼んだジャニアは無表情。


先程までの感情を見せていた様子が嘘のように温度の無い顔で、退室を許した私に礼をすると流れるような動作で去って行った。


残された私はバスケットを覗き込み、少し考える。




「アルジェント、甘い物は好き?」


「は、はあ…」




曖昧な返事にリンダが眉を寄せ、それが見えたらしいアルジェントは「好きです!!」と言い直した。


好きならば丁度いい。


私はバスケットの中から一つマカロンを取り出して椅子に座った。ジャニアからバスケットを貰ったときは何時も手づかみで食べているので、リンダからお咎めも無い。




「一つ、選ぶと良いわ。リンダもね。」


「えっ!」


「ありがとうございます。」




戸惑うアルジェントを他所にリンダがバスケットを覗いたので、アルジェントは「え!?」と驚いている。礼儀に厳しいリンダが主人の食べ物を頂こうとしているのが意外だったのだろう。


けれど、たまにこうしてジャニアからバスケットを貰うと、リンダとはんぶんこくらいで分ける。じゃないと食べきれないのだ。


たまたま入室してきた侍女にあげることもあり、最近は心なしか量が増えている気がする。




「このバスケットは特別です。アルジェント、好きな物を頂きなさい。」


「食べ切れないと勿体無いでしょう?だから貰ってくれると嬉しいわ。」




“勿体無い”という言葉が効いたのか、アルジェントは「は、はい…」とバスケットを覗き込んだ。すると先程の私のように「わあっ…!!」と感嘆の声を上げて、目をキラキラさせている。




「こ、これを頂きます…」




ウロウロとバスケットの中を見回してから、アルジェントは小さなキャンディの包みを取った。キュッと両手で持つ姿は13歳に見えないが、その嬉しそうな顔に私も満足。


頭を下げて「失礼します!」と退室するアルジェントを見届けて、リンダは一言。




「お嬢様は飴と鞭がお上手ですね。」


「え…?」




飴はあげた。けど、鞭とは…?



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