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友人からの手紙


「ところでリンダ、それはどなたから?」




アルジェントの持ってきてくれた手紙を受け取ると差出人は無く、見覚えのある封蝋だけが押されていた。


貴族は家の紋章を封蝋として、差出人を書かないというのが主流。教養ある者であれば分かるだろうという腹立つ理由と、パッと見ても封蝋の模様が分からないことから手紙を送り合う仲だということを公にしない意味合いも含まれる。




「剣とアイビー!」




アイビーの花言葉は忠誠や誠実など。そのアイビーの葉が剣に絡んでいる紋章を頭の中の記憶と照らし合わせる。思い出したのは厳格そうなお父上と、私とは真反対のふわふわした可愛いお顔の令嬢だった。




「メイベル様だわ。」




メイベル・パレッツェ・ガーライル、伯爵位のご令嬢でユグルド侯爵令嬢と同じ11歳。同じ伯爵家ということと、2年ほど前の茶会で意気投合したことからお互いの屋敷へ訪問し合ったり、お手紙をやり取りしたりとかなり仲良しだと言える。


ペーパーナイフで封を切り、手紙を取り出すとよく見る流麗な文字で【親愛なるリリルフィア】と始まっていた。




【リリルフィア、お久しぶりです。隣国にパパと行ってから半年、ひと月に2回は会っていた貴女と会えないのが残念で、ワガママを言って帰国することになったので手紙を書きました。】




そこまで読んでメイベルの頬を膨らませるお顔と、表情が少なくとも慌てた様子のガーライル伯爵が想像出来て笑ってしまう。


甘えることが上手なメイベルは両親との仲がとても良く、何時も『お兄様さえいなければ、私が家にずっといたのに』と言っているくらいだ。


次期伯爵となるメイベルの兄はメイベルが大好きだから家にいることを咎めないだろうけれど、メイベル自身が家の繁栄のために嫁ぐことを望んでいるので本当に親孝行な子だ。




【シーズンが始まる頃に帰るから、併せてママがお茶会をするって言っていたわ。】




同じ封筒だったが、厚い紙が二つ折りにされた招待状が入っていた。ガーライル伯爵所有のタウンハウスで行われるそれは手紙に書いてある婦人主催のものだろう。


『来てね』と書いてなくとも伝わってくる。




【沢山話したいことがあるし、気になることをパパから聞いたの。お茶会の日は早めに来てくれると嬉しいわ。】




お茶会の時刻が一般的にアフタヌーンティーの時間に合わせて行われるので、早めとなると昼に行けばいい。個人的に話したい相手がいる場合はよくこの時間合わせがされるので、私も何回かしたことがある。




「気になることって、何かしら…?」




書かれたことに思いを馳せ、紅茶を飲みながら手紙の続きを読む。残りは当たり障りない内容の文章で、行間を開けて追伸が書かれていた。




【“黒い跡”が付いた少年を助けたんですって?茶会には同席できないけど、会いたいから連れて来なさいね。】




「ぐっ…!!」


「お嬢様!?」




咽てマナー悪くカチャンと音を立ててカップを置いた私に、驚いたリンダが駆け寄って背を擦ってくれる。


気になること、とはこれか。


何処からそんな情報をと一瞬思ったけれど、そんなの父しかいない。私とメイベルが仲がいいように、父とガーライル伯爵もそれはそれは仲良しで、私達よりも頻繁に手紙のやり取りをしているようだった。


荒れた呼吸を繰り返し、暫くして落ち着くとリンダが「大丈夫でございますか?」と心配してくれた。




「大丈夫。アルジェントの事が書かれていたから驚いて。」


「アルジェントの…?」




何故、と戸惑うリンダに「きっとお父様よ。」と言うと安心したようにホッと息を吐いた。


逃げた奴隷を匿うことは、この国では盗難と同義だ。アルジェントの場合、売られていない状態だったのと奴隷であった証拠を消し、身なりを整えたので奴隷の少年と思われることはまずないが、万が一バレればアルジェントは奴隷に逆戻りだろう。




「ガーライル伯爵家は信用できるし、領内で奴隷の売買を認めていないくらい、奴隷格差を気にしているの。だからお父様も、話して大丈夫だと思ったのでしょう。」




どんな言い方をしたのかは気になるけれど、メイベルが見たいというくらいには興味を引いたようだ。


ガーライル伯爵邸に連れて行くのは構わないが、そうなるとシーズン中はアルジェントも王都へ来ることになる。取り敢えず父に相談しよう。




「リンダ、ジャニアにお父様の仕事がいつ終わるか聞いてきて頂戴。」


「畏まりました。」




リンダが退室したことで一人きりになった。紅茶を口に含み、父と相談することを頭で整理する。


夜会や茶会、舞踏会を頻繁に行うために貴族が王都へ集合するのが社交シーズン。年明け前から春の豊饒祭を目処に領地にいる貴族は王都のタウンハウスへ移動するのだ。


我々ハルバーティア伯爵家もタウンハウスにそろそろ移るだろう。招待状の日程に間に合うように予定を組んで貰い、アルジェントが王都へ同行する許可も貰わなければ。




「アルジェントは王都、初めてかしら。」




未だ私に怯える様子のアルジェントを思い浮かべ、そんなことを考えた。



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