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それぞれへの信頼


『ハルバーティア伯爵にお取次ぎ願いたい!遅れての訪問申し訳ないのだが…!!』





かなり慌てた様子で現れた子爵家のレッグは、開口一番叫ぶように出迎えた使用人へ言ったらしい。


“らしい”というのも、勿論私はその場にいなかったから。レッグは馬車に乗って来たはずなのに、息を切らせていたのが見ものだったと使用人から使用人へ伝わって、リンダの耳にまで入ったのだ。







「取り敢えず、焦った様子はよく分かったわ。」







自室で遅くと言える時間に起きたメイベルと裏口から帰ってくる算段になっているラングとアルジェントを待っていた私は、様子を見てきて欲しいとお願いしたリンダの報告に苦笑いを溢す。


使用人たちの口は堅いと思っていたけれど、それはハルバーティア伯爵家の損得に関することだけだったようだ。そう思ったのはメイベルも似たようなものだったようで「ハルバーティア伯爵家の使用人は相変わらず忠義心の強いこと。」とクスクス笑っていた。







「恐れながら報告の続きとして、応接室にて対応された旦那様からお嬢様を呼ぶようにと仰せつかっております。」







続きということは、レッグが私との面会を望んだのだろう。彼が面会を望む理由として挙げるなら、手紙が第一に思い浮かぶ。


何故なら屋敷に私達が到着してからレッグと私は一度も顔を合わせていない。


手紙の内容、そして時間にして半日と経っていない昨日の午後、私や父が話していた内容についての真偽や詳細を探りたい、といったところだろうか。






「“遅れて”ということはラングに会ったのだわ。そこから作戦の通りだと、もうすぐここに戻ってくるはず。」


「子爵家の方々が旦那様やお嬢様の会話を盗み聞きしていた場合、街の捜索をしていたと考えられますので、恐らくは。」






リンダの遠回しの肯定に私は考えた。


戻ってきたアルジェントたちは、きっと子爵家の者達が探しているだろう奴隷の子を連れ帰る。当然奴隷の子には枷が嵌められているだろうから、それを外すことと“枷の呪い”を解くことが私の役目だった。


それをレッグと面会するとなると見届けることができない。






「アルジェントの時の経験もあるから心配はしていないけれど…やり方は覚えているわね?」


「はい。お嬢様が仰った物も、ご用意致しました。」






アルジェントは枷をつけていない状態だったため、今回誰もが懸念していたのが枷を外すこと。


奴隷の枷を外したと外部に知られれば、伯爵家も奴隷の子も危険に晒される。となると外した後の証拠隠滅も徹底的にする必要があった。


そこで私の無駄に良い記憶力と長年…リリルフィアとしての人生以上の長さでの知識が役立つ。その準備としてリンダに頼んだ物も用意出来たようだし、あとは任せても問題ないだろう。







「用意してもらったものの使い方はそのままよ。外した枷は迷わず竈門へ、自由になった子の手当はアルジェントの時と同様でいい筈よ。」


「“用意した物”と“使い方”がとても気になるのだけれど!」







リンダとの会話に割って入ったメイベルの好奇心旺盛さに二人で顔を見合わせる。その時視界に入ったトアンの申し訳無さそうな顔といったら、貴女も苦労するわねと労りたいくらいだ。








「後で話してあげますわ。メイベルなら枷なんて縁がなさそうですもの。」


「当然です!!使うのも使われるのも、一生無いわよ絶対に!!」







言い切ったメイベルに、でしょうねと笑って、全てを終えたら話して聞かせることを約束した。


“枷の呪い”を解く方法は父との約束があるので教えることはできないけれど、今回枷自体を外す方法は力技と言っても良い。実際に見せることは出来ずとも、隠すほど巧妙な方法でもないのだ。


私は席を立ち、簡単に身支度をリンダに整えてもらって自室の扉へ足を向ける。


途中、言い忘れたことがあって「そうだわ」とメイベルを見返した。







「この部屋は、自由に使ってくださいませ。」







パチリと丸く見開いた瞳をゆっくりと瞬きしたメイベルは、次いで意味を理解したように表情を硬くする。彼女の傍に控えているトアンは優秀な侍女の作法に則って、反応を上手く示せないメイベルに代わって礼をした。


寛いでもいいという意味で捉える者はこの場にいない。3人の誰も、そんな言葉だと呑気に思ってはいないだろう。不穏な動きのあるマルデイッツ子爵家の者を迎え、その者が探している奴隷の子を同じ建物の中に秘密裏に引き入れるのだ。


何が起きても、おかしくは無い。







「隠れていろ、というだけの意味でも無いみたいですわね。」


「どうでしょう。私はただ、メイベルがこの部屋をイタズラの為に使用しても怒りませんと言いたかっただけですもの。」







思ってもないことを口にすれば、メイベルは力を抜くように軽く微笑んだ。


色々な経験と知識が常人よりも多く備わっている私と対等に言葉を交わすメイベルだ、今更そんな年相応の幼さを発揮するわけがないと私も分かっている。


ただ、私が彼女のそばにいない間有事の際には『何をしても許す』ということを知っていてほしかった。






「ではメイベル、行ってきます。」


「ええ、行ってらっしゃい。」






部屋を出て、扉を閉じる間際見えたメイベルの表情は何時に無く鋭く、私の方とは別の彼女のトランクが置かれている場所に向けられていた。




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