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民が見た親子


心のどこかで、別の子だったらいいと思ってた。


お嬢様には自分の弟だと確かめたい、弟かもしれないって言っておいて、ネルヴじゃないことを願ってた。


ボロボロな体と不健康な顔色、細い足に重い枷。


泣いて抱きついてくる背を撫でるとゴツゴツした骨に触れるほど痩せ細って、最後に見た弟とは別人だった。







「ネルヴ、僕がいない間に何が…」


「アルジェント、話すのはあとにしてくれると助かるかも。」






ネルヴへ問いかけた言葉はラングさんの声に止められた。


周りを見れば痛ましげにこちらを見るラングさんのお父さんや、戸惑った様子でネルヴを見ている親子。事情をよく知らない人たちの中で、僕だけ勝手に弟との再会を喜ぶのは間違っているよね。ラングさんの言葉に頷いて、僕はネルヴと立ち上がった。


ラングさんと近い年頃の娘さん?が、僕に「ネルヴくんの、お兄さん?」と問いかけてきた。その間に椅子を勧めてくれる配慮はとてもありがたい。






「はい。弟が、お世話になりました。兄のアルジェントです。」


「そっか…良かったぁ…」






肩の力を抜き、柔らかく微笑む娘さんが本当に優しい人だと感じる。数日前に得体の知れない子供を助けるばかりか、こうして身内との再会を喜んでくれるなんて、本当にいい人にネルヴは助けられたみたいだ。


何度かお礼を言っていると、娘さんの横に座ったお母さん?が「“兄さん”ってずっと呼んでたんだよ」と教えてくれた。


僕の服を掴んだまま離そうとしないネルヴの頭を撫で、少しでも安心出来るように背も撫でる。旦那様とお嬢様に拾われる前の、13の僕でも人や大きな音がとても怖くなったのだ。4つ離れた弟に後を追うような奴隷の環境は気が狂う程だっただろう。


膝や腕の手当された箇所を見て、僕は深く親子へ頭を下げる。






「本当に、ありがとうございます。」


「いいって!私たちは、ハルバーティア領の民として当然のことをしたまでだよ。」






お母さんの方から出た“ハルバーティア領の民として”という言葉に顔を上げると、気になったことに気づいたのか「まあ、初めはこの子がいきなりネルヴくんの倒れてる場所まで私を引っ張ったのがきっかけだけどね?」と娘さんを指しつつ話してくれた。






「『ウサギが!』って言われたときには何事かと思ったけど。足の“ソレ”が付いていても、きっとハルバーティア領の民なら見捨てることはしないよ。」


「ここなら…ですか?」


「うん、そう。領主様とそのお嬢様は知ってる?前にお二人が“枷の呪い”の付いた子供を拾ったのを見てね。」






意識が、自分の足首に向く。そこにあった跡はすっかり消えて、今自分が履いている靴やズボンから足首が晒されていても、僕が奴隷だったことに気づく人は居ないだろう。


跡を消してくれたのはお嬢様だと聞いている。屋敷に置くことを許してくれたのは旦那様。それを目の前の親子は知らない筈で、それでも出てくるお二人の話が嬉しくて。


お母さんに何も言わず、僕は相づちを打った。







「その時は『領主は随分善良な人なんだな』と思ったよ。ハルバーティア領ほど治安の良い領はあまり無いのは有名だし、実際住んでいて苦労が少ないからね。でも、それだけじゃないってお嬢様を見て思った。」


「お嬢様を?」


「一緒に居たお嬢様が、領主様にお礼を言っているように見えたの。お嬢様に失礼かもしれないけど、あんな小さな女の子が、だよ?」






領主様が助けたのではなく、お嬢様が助けることを望んで領主様に訴えたのなら、10になるお嬢様が取る行動としては天使とも言える慈悲深い行いだろうとお母さんは語った。


その瞳は優しく細められ、娘さんに向いている。






「誰かを助ける心も、子供に手を貸す心も、ハルバーティア領に住む民なら持ってないと、領主様に顔向けできないって思ったねえ。暫く教会でその話を語って聞かせるつもり。」





親だからと、暖かい瞳が娘さんへ向けられる光景に、もう居ない両親の姿が浮かぶ。あの人たちは僕や産まれたばかりのネルヴを、こんな目で見てくれていたのだろうか。


ラングさんのお父さんも、形は違うような気もするけどラングさんが自由に行動している姿を阻む様子は見られない。


どんな親子も、この二組の親子のような暖かさがあればいいなと思った。







「へえぇええ。リリ様と旦那様、そんな感じだったんだあ。」


「あ!バカッ…!」


「「リリ様?」」







ラングさんの呟きに、首を傾げる女性たち。


段々とラングを見る目に驚きが加わった2人は、次いでこちらに目を向けた。







「そう言えば、おじさん。領主様と懇意にしてるって前に言ったよね?」


「息子さんが勝手に屋敷に行く、って言ってたときもあったね?」


「お嬢様の名前って…」


「私が見た拾われていった子、色が薄かったねえ…」







次々と何かのピースのように親子から出てくる言葉に、彼女らの頭の回転の速さを知る。一つの言葉だけで導き出される僕やラングさんの素性は親子を青ざめさせていった。



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