まだ止まってない!
「まずは俺の親父に会おう!!」
「ラングさんのお父さん、ですか?」
アルジェントの動きに合わせて銀髪が揺れる。
オレンジ色も珍しいって言われていたけど、初めて見たときから思っていた。俺、服装が違ったら貴族って聞いても『ああ、ぽい!』って納得したと思う。
震えていた一番最初こそ気にしていなかったけど、伸ばしている髪もジャニアさんみたいに整えているようだし、俺なんか何もしてないガシガシの髪なのにアルジェントは少しの光でキラキラしてる。
「髪、邪魔じゃないの?」
「…?髪、ですか?結んでいればそうでもないですよ?」
口に出た問いかけに答えてくれたアルジェント。言うとおり後ろで結ばれたリボンによってスッキリとしているから、作業の邪魔にはならないんだろう。俺なんか伸ばそうって思ったこともないから分かんないや。
それよりも目についたのは黄色のリボン。
リリ様から香油を貰ったときにアルジェントが貰っていたもので、俺はアルジェントがその時に何を思ったのか知っている。
『髪色、瞳の色といった主の“色”を賜るということは、仕える立場からしたら信頼の証だ。』
前にジルさんから聞いて、おっかない顔してロマンチストだなあって思ったのを覚えている。
興味があってジャニアさんに聞いたら、旦那様から金で飾り彫りの綺麗な懐中時計をもらったと見せてくれた。青い宝石がついたそれを見た時、お貴族様はすげえもん人にあげるなあって思った。
「黄色、似合うな。」
「え!?あ、ありがとうございます!」
嬉しそうなアルジェントから目をそらす。
羨ましい、なんて思ってない。リリ様は俺に言葉で『信じてる』って言ってくれたもん。モノを貰えなくても、俺はリリ様に信頼されてる。リリ様から何か欲しいな、なんて思ってない。ないったら無い。
頭を左右に振ったらアルジェントが不思議そうに見てきた。その視線の高さは徐々に俺に近づいている気がして、ちょっと危機感。
「背え、伸びた?」
「え…えっと…」
ウロウロと彷徨わせていた視線を歩いている道に落として、アルジェントは「…はい。」と頷いた。
やっぱり伸びてる。細いくせにニョキっと伸びて、俺に迫りくる危機感を忘れさせないアルジェント。リリ様も少しずつ成長しているようで、久しぶりに会えたときなんかメイベル様の言っていた『女はすぐに変化する生き物なの!!』という言葉を思い出したくらいだ。
けど、安心してほしい。
「大丈夫。俺も少し伸びた!」
「!!…おめでとうございます!」
二年前、屋敷に遊びに来ていたときには俺の肩辺りだったカルバじっちゃんが、タウンハウスで見た時は脇辺りにはなっていた。
じっちゃんは『縮んだかの…?』と俺を見ていたけど、きっと俺の身長が伸びた。絶対そう。
話している間に、太陽が顔を出し始めた。
景色も街の少し外れにある見慣れた木々の風景になる。何本も列になって並ぶ木々は一部オレンジ色の実を実らせて、その木々の端奥には小さな小屋のような家。
「あれ、俺の実家!」
「うわあ…!あの木、全部オレンジですか?」
「オレンジ、レモン、茶葉も最近はあるって手紙にあったなあー」
話しながら歩き続けていれば、前方からゴトゴトと聞き慣れた音と見たことあり過ぎるほどにある、人影。
「おーやじー!!」
手を振って、歩く速度を緩めずに進めばあっちも俺に気がついたらしい。
荷車を下ろして両手を打ち合わせてゴミなどを払い、こちらに…走ってくる。
「こんの、バカ息子があぁああああ!!!」
「うわっ!めっちゃ怒ってる!!」
思わず逃げれば追われるのは当たり前、それでも追いつかれることはなくて親父が力尽きるのに時間はかからなかった。
ゼエハアと膝に手を置いて苦しそうな親父に、優しいアルジェントはどこから出したのかハンカチなんかを渡している。
「す、すまんな…」
「いいってアルジェント、そんなキレイなの渡さなくて!」
「お前は、労らんか、バカ息子が…!!」
顔を上げた親父。
その目は俺を見て少し驚いた様子で、その後ハンカチを手渡しているアルジェントを見てまた驚いた様子で。
また俺に目を向けたと思ったら、一言。
「完全に止まったなあ、背。」
「まだ止まってない!」
「いや、二年前と変わらん。」
そんなことない!!
親父の言うことは断固として受け入れず、改めて見た親父もほとんど変わっていなかった。もう少し老けるとかしていても良いだろうに。驚くほど衰えの無い体つきは、騎士として訓練を受けた俺の足に追い付けずとも圧倒的とは言えない差しか無かった。
そこで俺はリリ様の言葉を思い出す。
「そうだ親父、俺リリ様に言えって言われたんだけどさ!」
「お前はまだリリルフィア様のことをそんな…!!」
「俺、子爵位貰ったんだー。それで手紙にも書いたと思うけど、リリ様の所で護衛騎士してるから!!」
な?と同意を求めてアルジェントを見れば、遠い目をするだけで何も返ってこなかった。まあいいや、と親父に向き直れば。
「アレは!お前かぁああ!!!」
既に頭上に拳があった。




