8話 悲しいかな
ガラガラと扉の音がした。
「よぉ、相羽ちゃんこの子があのすずちゃん?」
仲直りしようと思って来てこれとは、悲しい。しかも、私の怒った原因を全く理解しようとしていないのがまた腹立つ。
少し自信過剰と思われるかもしれないが、私は異常にモテるのだ。まず容姿がいい。しかも、性格が明るい。正直モテる要素があるのは自覚している。それでも他人の、しかも善意のせいで自分を偽るのは嫌だったのだ。
「あっ!近衛先輩!そうです!この子が音楽の話が好きなすずさんです!」
「へぇ〜、君があのすずちゃんね。なんか音楽の話出来る人好きなんでしょ?俺軽音部だしさ、
話し合うよ。」
そんなチャラチャラした感じで話しかけて来たのは一つ年上の近衛湊さんだ。
何というか少しチャラそうに感じてしまう。私も容姿などで周りから色々心ないことを言われてしまう為、あまり相手のことは見た目だけでは判断しないようにしている。それなのに、何というかすごく、申し訳ないが、まともそうな人間には思えない。もし真面目なしっかりとした人間だったらもう、本当に申し訳ない。何とも言えない感情を感じながら彼との会話を始めた。
「こんにちは。田中は私ですけど、何か御用が?」
「いや、君が音楽の話ができる人いないらしいから、俺が話し相手になってやろうと思ってな。」
「そか。そのお話、どこで聞いたんですか?」
前に言ったように、私は異常にモテるのだが学校一の美少女なんかではない。だから、一学年上の先輩にまで私の噂のようなものは届くわけが無いだ。故に理由を聞くのだ。
「あぁ、それね。あそこにいる相羽ちゃんに聞いたんだよ。なんか最近音楽の話したさすぎて陰キャの男に絡んでるんでしょ?」
衝撃な事実を聞いて私は驚いた。一体どういう事だと思って彼女の方を見ると、
「ごめんね。本当は、最近田中さんと絡めてなかったから先輩に相談してたんだ。そしたら俺が何とかしてやるからっていうから、私の方から紹介したんだ。」
なるほど。彼女は結局、私との会話が最近減ったのを解消しようと思ってこうなったのか。私との友情を大事にしてくれるのはありがたいのだが、彼のことを悪く言われるのはやめてほしい。また今度伝えないといけないと思いながら、まず対応しなきゃいけない先輩に向かった。
「先輩、どうやら情報の行き違いがあったみたいですが、音楽の話題で盛り上がりたかったのは事実ですが、ちゃんと友達もできたので、わざわざ話しかけて来なくても大丈夫です。お配慮感謝します。」
「いやいや、陰キャと友達は冗談キツいよ。そん何言わずに俺とも仲良くしてくれよ。」
なんて言いながら笑っている先輩。キツいのはお前だとはっきり言いたいが、変に揉めるのも避けたい。
「先輩達は、私の友人のことを笑っていますが、馬鹿にしているのならやめて頂きたい。」
結局言ってしまった。まぁ、仕方ない。
「何だよ〜。別にいいじゃんさ〜。ま、日も暮れてきたし一緒に帰ろうや。」
「いえ、帰り道が異なると思うので遠慮しておきます。」
「あぁ!それなら田中さん問題ないよ!田中さんと先輩の帰り道駅まで一緒だよ!」
「おぉそれならみんな一緒に帰れるな。」
このままこの場の三人で帰るのかと憂鬱な気持ちで鞄を持つ。
「すみません先輩!あたしの帰り道は違うのでお二人で一緒に帰ってね!バイバ〜イ」
なんてことをしてくれたんだ。多分今までのことを考えるとみんなで帰りたいけど、彼女だけ一緒に帰れない事実が全てなんだろう。何か裏で計画してとかでもないんだろう。怒るに怒れない気持ちで帰宅しようとする。
「どうやら相羽さんは一緒に帰れないみたいなので、私たちも別々で帰りましょうか。」
「いやぁ、せっかくなんだし一緒に帰ろうぜ、すずちゃん。外も暗くなり始めてるしさ。」
先程からの私の拒絶の返答を一切気にしないのを見ているともう従うしかないのだろう。
「わかりました。では駅まで……」
◇◇◇
先輩の自分の自慢話から実家の自慢まで。そんな話を聞きながら、目的地の駅に着く。
「それでは、私はここで。さようなら。」
「ちょっと待って、すず。実は伝えたい事があるんだ。俺と付き合え、すず。」
「ごめんなさい。正直先輩のこと苦手なので……失礼します。」