7話 友達だったもの
__???
「ちくしょう!なんで僕があんな風にあしらわれなきゃいけないんだ!」
高級な家具の並ぶ一室で男が激怒していた。
それも全てあの女のせい。あの、田中すずのせいだ。あいつは事もあろうか俺様の彼女にしてやると言ったのに断りやがった。もうこれだけでもキレてんのに許せない。必ず俺のものにしてやる。あいつも気づかないだろうなぁ……
◇◇◇
「おはよう、田中さん。」
「うん……鈴木くん……」
「なんか元気ないね。仲直りうまくいかなかった?」
「いや、それはもう良いんだけどね」
朝から琳の珍しい姿を見てウキウキ気分で登校したのだが、田中さんは昨日より落ち込んでいた。
「そっか、まぁ嫌な事があったらまた話してよ。旭でもいいし、田中さんは僕よりも友達が多いからその人達にも。」
軽い気持ちで席に着きながら発した言葉に田中さんは少し悲しそうな、寂しそうな表情で言った。
「私は鈴木くんの言ったように友達は多くないよ……」
「そんな事な「ある!」
僕の慰めのような言葉に田中さんははっきりと拒絶を示した。僕は本当に田中さんは友達多いと思うんだけどな。
「そっか……なら何かあったら僕に言ってね。少なくとも僕は田中さんのこと友達だと思ってるから。」
「ありがとう。助かるよ。あとちょっとキツくあたっちゃったのごめんね。」
朝から話すにしては少しおもい話題である。しかし、田中さんともちゃんと話せば分かり合えているのだ。音楽の趣味とかね。
「今日はどうする?仲直りできたのなら今日はその子達と一緒にお昼食べるの?」
「いいや、今日から鈴木くんと伊藤くん達と食べてもいい?昨日やっぱり楽しかったからね。」
「うん!いいよ。旭も昨日はすごく楽しそうだったし、もちろん僕もね。」
「そっかありがとう!なんか照れるね。」
また僕らはいつも通に楽しく会話を始めたのだ。
◇◇◇
__昨日の帰り道
「うぅ〜ん、今日は鈴木くんと伊藤くんのおかげで前向きになれた!」
私、田中すずは友達の相羽さんと喧嘩のようなことをしてしまった。
以前中学校時代にも同じような理由で喧嘩をしてしまった事がある。高校は地元から離れたところに家族と引っ越した為、もちろん中学時代の喧嘩相手は相羽さんではない。
「あ、相羽さん、その、お話いい?」
「あっ田中さん、もちろんだよ。私から話しかけようと思ったんだ。けど怒ってるかもと思って話しかける勇気がなくて……
だから話しかけてくれてありがとう。」
あぁ、良かった。どうやら相手側も私とちゃんと会話をする気があったみたいだ。
今回の喧嘩の内容は至って簡単だ。相羽さん達のグループにいた私が最近鈴木くんと仲良くしていたところを見て、あんな奴とは関わらない方がいい、と言われたからだ。こんなの怒って当然だ。自分にせっかくの理解者が出来たのに関わらなくなる方がおかしい。理解者でなくともいきなり関わるなと言ってくるやつの気持ちが分かんない!と言って昨日は別れたもだ。でもお相手がそれを理解しないで、関係をなくせと迫るのならこの友情もなかった事になるだろう。そう覚悟してきたが、いらない覚悟だと思って安心できた。
「田中さん、昨日はごめんね。なんか田中さんを鈴木みたいなやつに取られると思うと腹が立っちゃって。もうあんなこと言わないから、またお話しできない?」
「うん、分かってもらえて嬉しいよ。昨日は言い逃げみたいになってごめんね。」
お互いが謝るまで、顔面蒼白だった相羽さんはお互いが納得できたみたいで顔色も戻ってきた。
「良かったよ!そう言えば実は田中さんを紹介してほしいっていう人がいて今からここに来るみたい!きっと田中さんも鈴木よりも仲良くなれるよ!音楽の趣味が一致したからなんでしょ?仲良いの!だからきっと今から来る彼は田中さんの格に見合う人だからさ!しかもかっこいいよ?もうこれから、音楽の話のためだけにあんな底辺みたいなやつと話さなくて済むよ!」
あぁ、どうやら相羽さんは昨日鈴木くんを否定した後、彼女が彼と呼ぶ人間に今日ここで私を紹介しようとの算段だったみたいだ。それが喧嘩のせいで有耶無耶になり、今日の約束を私に伝えられなかった。だから顔面蒼白になって焦っていたのだ。それが逆に許された。だから鈴木くんは貶していい存在でかつ彼と言う人間を紹介できるとおもい今、顔色がよくなったのか。
高校の友達は中学の友人と同じくらいの人間性だったみたいだ。私たちの関係はここまでのよう。
「相羽さん、申し訳な__」
ガラガラと扉の音。どうやら退出する時間は無くなったみたいだ。