5話 想定外の急接近
「おはよう、琳。」
「おはようおにぃ。」
妹との朝も挨拶を交わしながら、食卓につく。
「今日も朝ごはん作ってくれてありがとうね。毎日朝ご飯作るのしんどいでしょ?僕も手伝うよ。」
毎日妹にご飯を作って貰うなんて兄として良くないと改めて思った僕は言った。
「お手伝いしてくれるならもっと早く起きないとね。」
聖女のような微笑みを浮かべながら厳しい現実を伝えてくる。
「そ、そうだった。ごめんね。朝苦手で……」
「そんなこと知ってるよ!私は朝起きれるから準備しているだけ。それにおにぃは掃除も洗濯もしてくれるし、晩御飯も作るでしょ?そんなに家事やる男の人あんまりいないみたいだよ。だから気にしないでね。」
「う、うん……わかったよ。それなら、これからも頼むよ、。琳。」
やっぱり琳は真面目だから昔に決めた約束を守ってくれているんだと思う僕だ。
しかし、昨日帰宅してすぐに風呂に行けと言われるほど不快感を琳に与えてしまった。
この罪悪感を琳の仕事を代わりにやることで紛らわそうとしていた僕はこれからどうしようかと悩んでいると……
「昨日臭い匂いを漂わせながら帰ってきたのを気にしているなら今日はいい匂いで帰ったきてね。」
「え、えぇ。なんで僕の考えを見抜けたんだ?、まぁ、できるだけ今日から体の匂いを気にしていくよ。」
「気をつけるだけでいいよ。そう滅多につくものじゃないしね。」
琳が妹パワーで兄の気持ちを当てれたことを喜んでいるとき、僕は体臭をマシにする方法を後で調べようと考えていた。
◇◇◇
「君、おはよう。」
「おはよう田中さん。」
あぁ、朝挨拶をしてもらえる。それに対してレスポンスが出来る。
なんて最高な日だろうと思いながら僕は自分の席に着く。
「田中さん、昨日はありがとう。僕このクラスでは会話できる人がいなかったからとても嬉しかったよ。」
「そんな私の方こそ話ができてよかったよ。正直私の聞いてるバンドとってもいいんだけど、周りは全然知らなくて……あんなに楽しく話せたのは久しぶりだよ。唯一話せた友達も別の学校に行っちゃったからね……」
「そうなんだ。僕なんかでよかったらいつでも話して、それに隣のクラスに一応友達がいるんだけど、そいつともきっと音楽の趣味合うよ。」
昨日のように会話を楽しんでいるとガラガラと扉を開けて教師が入ってきた。
「おーい、お前ら席につけ。朝の連絡事項だ。良いニュースと良いニュース、どっちから聞きたい。」
教師のアメリカンなノリにつていけるやつはこのクラスに何人いるんだと思っていると、後ろから声がした。
「トム、冗談はよしてくれ……アメリカンなノリで会話するのは高等技術だ。素人のことも考えてくれよ。」
意外なことに田中さんがノってきた。
「時間切れだ。そして良いニュースから発表するぞ。席替えだ。」
田中さんと教師の掛け合いにより席替えが発表された。
当然のように教室がざわついた。高校に入学してからの初めての席替えだ、騒いでしまうのは仕方ない。
「そしてもう一つ良いニュースがあるぞ。今日いつもより早く帰れるぞ。1時くらいには帰れるかもな。」
「「「やったー!!」」」
毎日6限まであるこの学校でほとんど午前で帰れるなんてテスト期間以外考えられなかった。
もちろん、いきなりこんなことを言われると何故なのか気になるものだ。
「先生、なんで今日はそんなに早く帰れるんですか?何か問題が発生したとか?」
「あぁ、新入生だから知らないのか。安心してくれ、不審者が校内に侵入したとか、拳銃を持った銀行強盗がこの辺りに潜伏しているわけでもない。」
もちろん冗談で言ってるんだろうが、あんまり表情に変化がないため非常に怖い。
「抜き打ちテストを行うからだ。聞いたことがあるだろ?この付近の高校に席替えをする度に抜き打ちテストを行う学校があるって。」
確かに聞いたことがある。まさか本当に存在していたなんて誰も思わなかったのだろう。あんなに騒いでいたのに今は開放された窓から入って抜けていく風の音しかしない。
「ま、そういうことだ。励めよ。」
なんて言葉を投げかけこの葬式のような雰囲気を作った元凶が去っていく。
◇◇◇
進学校であるこの学校の問題はすごく難しかった。
クラスのみんなほとんど燃え尽きている状態でまたあの教師が入ってくる。
「あい、疲れさま。席替えすんぞ。」
「「「いよし!!」」」
人間とは単純なもので試練を与えられた後にご褒美を与えられると苦労してよかったと思えるようになる。
僕は人間の心を思いながら、この席替えで新しい友達を作ろうと決意した。
◇◇◇
「まただね、君。いや、鈴木拓郎くん。これからお隣さんとしてよろしくね。」
あぁ、なんの運命だろうか。僕の隣の席は田中すずだった。