3話 初めての会話
「先週のニュース注目度ランキング堂々の第一位は!!『クライス』の結成記念ライブです!!」
「おぉ〜、それには私の娘も見に行っていましたよ。新曲が発表されたみたいですね。」
「そうです、そうです。ライブ後に動画サイトにアップロードされた新曲は、わずか2時間で100万回再生を突破したみたいですね。」
ハイテンションなニュースキャスターたちの声を聞きながら妹、鈴木琳と朝食を食べる。
「なんかこの人たちいつもより、テンション高めじゃない?」
「おにぃのファンだからじゃないの?」
「まっさか〜、そんなわけないじゃん。アナウンサーってすんごいイケメンが好きなんでしょ?僕みたいな平凡な男好きじゃないよ。」
「2時間で再生回数100万回突破するようなバンドのギタボは平凡の男なんかじゃないよ。」
「あはは。そうかなぁ〜」
「おにぃはもっと自覚を持った方が良いよ。うちのクラスでも『クライス』はいつも話題に上がってるよ。」
「へぇ〜、そうなんだ。」
「もぅ……」
楽しい朝食を終えた僕は学校に向かう準備を行う。
寝癖を直して制服に着替えるだけだ。長い髪のため寝癖を直すと言っても櫛でとかすだけである。
「おにぃ、顔は良いんだから髪もしっかり整えたらいいのに。」
「う〜ん、髪整えるのは時間もかかるから面倒なんだよね。それに琳と話す時間がなくなるのも嫌だしね。」
「だったら髪切れば良いのに。願掛けだから切らないみたいなこと言ってたけど、バンドも成功したんだし良い加減切れば?」
「なんか長い髪に慣れちゃったし、それに顔が隠れているとなんか安心するんだよね〜。」
長い髪を櫛でとき終わると僕は玄関に向かう。
「琳、遅れちゃうからもう行くね。学校に遅れないようにいくんだよ。」
「おにぃも一昨日ライブだったんだから無理しないでね。いってらっしゃい。」
「うん。いってきます。」
琳は中学2年生、学校が僕の学校よりも近いから家を出るのも僕より遅い。僕ももっと近い学校なら琳と登校できなぁと思いながら僕は家を出た。
◇◇◇
「土曜日に上がった動画見た?」
「なんの動画?」
「そんなの『クライス』の新曲に決まってるじゃない。」
「それもそうね。結成ライブの日に新曲、しかもライブのセットリストに入ってるなんて現地いけた人本当に羨ましいわ。」
「本当にねぇ〜、生で聴きたいわ。」
クラスの会話の話題はやはり先週の土曜日に行われた『クライス』のライブと新曲に関してのことで持ちきりだ。
僕はクラスの一番大きなグループの会話を聞きながら席に着く。
「生で聞くのがやっぱり一番ためになるな。」
ライブを行ったり、新曲の発表するとSNSやメンバーそれぞれのブログにみんな感想を伝えてくれる。
もちろん、ファンたちのSNSやブログ上での感想はモチベーションの維持などで活躍するし今後改善していくべきところもわかる。非常に重要なものである。だが、それでも生で感想を伝えられるのは嬉しいものだ。自分たちのファンが実在する人物であると確認できる。
「生で聴くって言ってたけど、君『クライス』のライブ会場にいたよね。参加してたの?」
「えっあっ田中さん、ど、どうしてそれを?」
「私も土曜日の『クライス』のライブに参加してたの、友達に誘われてね。」
「そ、そうなんだ。田中さんも『クライス』好きなの?」
「いや、私は正直『クライス』より『ラウンズ』の方が好きなの。」
「そ、そうなんだ……」
ラウンズとはクライスと近しい時期にデビューしたバンドである。そのため、クライスはライバル視している。
しかも、同じクラスのトップカーストの女子がラウンズが好きだと言った。表面上はいつも通り吃りながら返答しているが、内心かなり悔しがっている。
「君、『anthem』聴いてたよね?」
「うん、新曲のMYDを聴いてたんだ。確か田中さんもMinD方が好きなんだよね?」
「あれ、そのこと言ったっけ?」
「金曜日にスマホお拾ってもらった時にね。その後すぐ、お友達に呼ばれて帰っちゃったけどね。」
「あぁ〜、思い出した!そういえば君もMinDが好きって言ってたね。もうすぐ先生が来ちゃうしまた音楽の話しようね!」
そうして田中さんは自分の席に戻っていった。
あぁ、やっぱりまだまだだな。田中さんもラウンズの方が好きみたいだし、もっと頑張らないとな。
そんな事を考えながら僕は授業が始まるのを待っていた。