26話 周りの人
あの決闘騒ぎから数日経って来週は中間テストである。だが、僕、鈴木拓朗はかなり余裕を持っていた。何故なら僕はこれから不安定な職に就こうと思っている。だから、僕は普段から勉強をして良い大学に行き、何か職にあぶれた時には妹だけでも養える程度の職に転職できるようにと考えているからだ。だが、これから、バンドマンとして企業からメジャーデビューしようとしているのにみんながみんなこんな後ろ向きなことを考えているのではない。そう、旭なんかものすごい前向きだ。
「なぁ、旭。少しは真面目に勉強しろよ。」
「黙れ拓朗。俺の将来はすでに約束されてんだ。テストの結果もな。」
「え?伊藤くんって何か家業とか継ぐの?」
「いや、家業とかではないんだが知り合いのところでお世話になろうと思ってな。」
「そうなんだ〜。」
「仮にそうでも君はまだ学生だろ?せっかく高校も行ってんだ。真面目にテスト勉強しろよ。高校入学して初の中間だぞ。」
「何だか、拓朗くんは伊藤くんのお母さんみたいだね。」
「そうだな。おい拓朗お母さん。俺様はベースしてるからお前は俺の分まで勉強しておいてくれ。」
「僕は旭のお母さんじゃないよ……。まぁ、いいや。別に旭もめちゃくちゃ勉強できないわけじゃないし、何なら結構勉強してるから、今やんなくても良いしな。旭はベース弾いて僕と田中さんの勉強のBGMになってくれ。」
「おう、任せとけ。」
そして旭は自分のベースのチューニングをぱぱっと済ませて自分に世界に浸りに行った。
「さて、田中さん。勉強会誘ってくれたのにこんな感じになっちゃってなんかごめんね。」
「気にしないで。そういえば拓朗くんって結構勉強できたよね。前の抜き打ちテストの点数もなかなか良かったみたいだし。」
「あれは本当にたまたまだよ。日頃から勉強していたのと範囲が結構被ってたから。」
「へぇ〜、なにわかんない事があったら聞いてもいい?」
「もちろんだよ。僕のわかるところしか無理だけどね。」
中間テスト前になると友人たちと集まって勉強会を開くのはかなり憧れがあった。そのことを知っていたのかは知らないけど、あんまりみんなで集まって勉強する事が苦手だった旭が企画してくれた。みんなで集まって勉強するのに抵抗があったはずなのに慣れたのかな?って思ったら全然なれていなかったみたいだ。それでも僕のために田中さんも誘ってくれてとても嬉しかった。この前知り合った天野空さんは予定が合わずに来れなかったみたいだ。
この後も、僕と田中さんは黙々と勉強して、旭はノリノリでベースを弾いていた。しかも僕たちのことを考えてか激しい『クライス』で弾いているような感んじではなく、ジャズのようなカフェで流れている感じの曲を弾いていたのだ。
日がかなり沈んだ時間帯に僕たちは解散してそれぞれ帰宅して行った。
「ただいま〜。」
「おかえなさい、おにぃ。今日は旭くんのお家でお勉強していたんでしょ?どうだった?」
琳と挨拶を交わして今日の勉強会のことについて聞かれた。
「うん、結構捗ったよ。」
「そうなんだぁ〜。旭くんって前から1人でじゃないとなんか勉強出来ないみたいだったけど、おにぃと一緒に勉強できるようになったんだね。」
「いや?旭はずっとベース弾いてたよ。」
なぜか琳は自分の考えが外れたのか、何が何だかわからないような表情をしていた。
「なら、おにぃずっと1人で勉強してたんだね。」
すると今度は僕が何を言ってるのかが分からない表情になった。
「ん?いや、田中さんと2人で勉強していたよ。旭のベースがいい感じの雰囲気出しててさ、いつも以上に捗ったよ。それに初めての勉強会でさ、楽しかったからか、想像以上に集中もできたよ。」
「田中さん?旭くんと2人だけじゃなかったんだね。」
どうやら認識の違いがあったようだ。2人で勉強会してたなら旭がベース弾き出したら1人でやるしかないもんな。
「そういえば田中さんってよくわかんない先輩に言い寄られてた子?」
「そうだよ。まぁ〜、あれからもう田中さんに先輩は絡んでないみたいだよ。何なら学校にもあまり来れてないみたいだけど。」
「なんかだか逆恨みで刺されたりしないでよ?」
「う〜ん、そんなことないと思うけど用心しておくよ。」
その後も2人でご飯を食べ、楽しく時間を過ごしていった。
「そういえば、おにぃって田中さんのことが好きなの?恋愛的な意味で。」
琳は顔を変な感じにしながら聞いてきた。




