23話 新しい始まり
体育館を出て、帰宅しようと校門に向かった僕は校門前で知っている人を見つけた。
「あれ、田中さん。こんにちはかな?今から帰りなの?」
「ううん、鈴木くんを待ってたんだよ。」
田中さんの言葉に僕は驚いた。てっきり田中さんは旭と一緒に帰ったか、それとも友人と一緒位帰ったのかと思っていたからだ。
「え!?そうなんだ。てっきり旭とかと一緒に帰ったのかと思ったよ。」
「何それ〜。最近一緒に帰ることも少なかったじゃん。それに今回に決闘は私のためのものじゃん?だから感謝をお伝えたいなって思って。」
「なんだ、そんなこと。何回も言ってるけど特に気にしないでいいよ。それに決闘を行うって決めたのは旭だしね。」
「もちろん、伊藤くんにもちゃんと感謝を伝えたよ。だから今度は鈴木くんの番だよ!しかも今回のために結構頑張ってくれたんでしょ?だから、素直に感謝を受け取って!」
なんと田中さんは既に旭に感謝を伝えていたのか。よかった。今回は僕が勝ったけどそもそも旭が自分のベースを賭けないとそもそも勝負すら始まっていなかった。だから今回の功労者は旭なのだ。二人で帰りながら今日のライブの話をした。
「鈴木くん!今日のライブめちゃくちゃかっこよかったよ〜。正直あんなにギター上手いなんて思わなかったよ。隣で話してた伊藤くんはなんか途中で鈴木くんのこと拓朗から、タクに呼び方変えてたから私てっきり鈴木くんがタクさ……んだと思っちゃった。」
田中さんはどうやら僕のギターの腕前にかなり驚いているみたいだ。前までは正直僕なんかそんなに上手ではないのだろうと思っていた。だから、『クライス』がネットニュースやテレビに取り上げられた時もどう反応すればいいのか分からなかった。でも、今回の決闘のための練習でクロエさんに見送られる時にかけられた言葉。そのおかげで全てに気づけた気がする。僕は自分に自信がなかったから、『クライス』の人気も、全部僕以外のメンバー3人のおかげだと思っていた。それに、旭から僕のファンの数が他のメンバーよりも圧倒的に多いって聞いた時もあんまり実感がなかった。でも、それでもクロエさんに本気で言われた言葉で目が覚めた気がする。だから僕の、いや、進化した鈴木拓朗の演奏をこんなに誉めてもらえるのはかなり嬉しかった。だから僕は、すぐに田中さんに自分も君に感謝していると伝えようとしたが……なんかこれ、僕がタクってバレてないか?
まずい、バレると非常にまずいことになると思いどうにか言い訳をしようとしたが、別に……田中さんにならばれても問題なくないか?だって友達だし、そんなに『クライス』のガチファンでもないんだ。いきなり刺されたりだとか、情報を拡散したりしないだろう。なら、伝えてしまおうと思い口を開いた……がその前に田中さんが続けて言葉を放つ。
「だからさ〜、伊藤くんになんで呼び方変えたか聞いたの。そしたら、鈴木くんが『クライス』のコピバンでギターボーカルやってることとか色々聞いちゃったよ。ポジション一緒であだ名まで一緒だったらなんか恥ずかしいもんね。」
ん?なんのことだ?
「な〜に不思議そうな顔してんのさ。『クライス』のタクさ……んと鈴木くんの昔のあだ名がタクが同じで周りの人から揶揄われないように拓郎って呼び方に変えてって鈴木くんが伊藤くんに行ったって聞いたけど。」
なるほど、僕の正体がバレないように色々設定を考えてくれていたんだな。ならば、その努力を無駄にする必要もない。
「うん、実はそうなんだ。やっぱろ身内は昔から呼ばれてるあだ名って知ってるけど、たまたま対バン相手になった時のバンドの人たちは知らないからね。」
「まぁ、知らない人からすると学生がタクさ……んに憧れてギター始めた子にしか見えないからね。」
その後も、田中さんとはたくさん話をしながら帰宅した。普段、あんまり話せなかったからだろうか。駅に着く頃には普段よりも、かなり遅い時間になっていた。
「あ、もうこんな時間だ。ごめん!鈴木くん。今日めっちゃ疲れてるだろうに長々と話してこんな時間になっちゃって。」
田中さんはきっと自分だけ話すのが楽しくなっちゃって疲れている僕のことを気にできなかったこと謝っているのだろう。
「田中さん、気にしないで。確かに僕はちょっと疲れてるけど、ここ数日なんだかちゃんと話ができてない気がして、さっきまでの会話は本当に楽しかったんだ。だから、謝らないで欲しいんだ。」
「そ、そう……それなら、私も、とっても、とっっても楽しかったから!また放課後一緒に帰ろう!拓朗くん!じゃあね!」
そう言葉を残して田中さんが駅のホームの中に走って入って行った。その時わずかに見えた紅潮した顔をした田中さんを見て僕は、可愛いと思った。
どこからか、何かの始まりの音が聞こえてきた。
◇◇◇
こんばんは、田中すずです。私は今、お風呂に浸かっています。そして何度も今日のことを思い出しては湯船の水を顔にかけて忘れようとしています。
はぁ〜、今日は帰宅する時にいつもより砕けた感じで鈴木くんとは会話が出来た気がする。あくまでそんな気がするだけで本当はいつもより吃ってたかもしれない。なんせ自分の気持ちに気づいてからのファーストコンタクトである。緊張して当然だろ。異論は認めない。でも、そんなことよりも私は鈴木くん……いや、拓朗くんと会う前に、周りの女の子たちよりも早く距離を詰めようと思い、ある計画を立てた。
それが、砕けた感じでちょっとテンション高めで話すことだ。これは概ね成功だろう。私が聞いた自分の声は問題がなかった。だが、問題は肝心のふたつうめの計画で起きてしまった。今思い出すだけでも顔が赤くなる。穴があったら入りたい気分だ。本当はいつも通り会話をして、いい感じの時間に駅に到着して、お互いに名前呼びにしないか?って提案するはずだった。
それなのに、話すのに夢中で駅に到着したときはかなり遅い時間だった。ここで今日一番の失敗をしてしまう。今日は楽しかったと言ってくれた拓朗くんがカッコ良過ぎて、勝手に下の名前呼びかまして駅のホームに入ってしまったのだ。
拓朗くんって呼べるようになったのは最高だが、学校で自分のことすずって呼んでほしいなんて言えないし、次会った時どんな顔すればいいのか分からない。




