21話 身バレの危機と決闘の結果
「そういえば、伊藤くんって鈴木くんのことタクって呼んでるんですね。」
確か、伊藤くんは鈴木くんのことを『拓朗』と呼んでいたはずだ。それなのに、ギターに関わりのある時から『タク』呼びになった。本当にこれはキツい発想なのだが、実は鈴木拓朗は『クライス』のギターボーカルの『タク』なのだと考えた。こんなことはあり得ないのだろうが、やはり少しは期待してしまう。そしてさっきの発言はこの気持ちを込めての発言だ。
「ん?あれ、そうだっけ。」
伊藤くんは少しとぼけながら返事をした。
「うん、正直さっきの鈴木くんのギターの演奏見ていたらクライスのタクさ……んだと思えてね。」
「あぁ〜、なるほどね。そりゃ勘違いするわ。この前、俺たちが学校外でクライスのコピーバンドやってるって話をしただろ?その時ギターボーカルを拓朗がやることになったんだが、あいつ元々のあだ名がタクなんだ。でもそんなの周りの人たちは知らない訳で、なんか揶揄われるかもってあだ名で呼ぶのをやめてくれって言われてたんだ。」
「そうなんだ。私はてっきり本物のタクさ……んかと思ったよ。」
「まぁ、無理ないさ。てかなんでタクさんっていう時変なまがあるんだよ。」
なんだ、鈴木くんはタク様じゃないのか。まぁ、そんな都合のいいことが起きるわけがないか。なんか私は鈴木くんに恋をしているのかも知れない。なんだか変な気分である。まさか、ギターの演奏で恋に落ちるなんて思いもしなかった。なんかまた顔が赤くなってきた。
「今から投票を開始します。みなさん時間内に投票を終了してください。それではよろしくお願いします。」
どうやら、赤面しているうちに投票が始まったみたいだ。
「それじゃあ、田中さん、拓朗のことで顔赤くしてないで投票しに行こうか。」
「もう!なんでそんなにイジってくるの!」
「なんだ、そんなに怒っちゃうのなら一人で行ってくるよ。」
「もー!待ってよ。そんなに怒ってないから一緒に行こうね。」
なんだか今回の決闘騒ぎの結果、鈴木くんに惚れて、伊藤くんと少し仲良くなった結果に終わるだろう。というか、鈴木くんのことを意識するようになったばっかりなのにこの投票の結果次第ではもう仲良くできなくなりの悲しいな。
でも、問題ないだろう。なぜなら、鈴木くんの演奏は最高だったのだから。
◇◇◇
僕、鈴木拓朗はこれまでにないほどの緊張に襲われている。
「あぁ、緊張してきた。まずい、お腹痛い。もうすぐ発表されてしまう。やばいなぁ〜。」
緊張が度を越して独り言が漏れてしまう。今回演奏をしているときはすごく調子に乗っていた。なにせ最高のギターが弾けた。しかも、舞台から田中さんや旭が見えた。田中さんは僕の演奏を期待しているような感じだったし、旭はいつも同じ舞台に立っていた。だから、そんな人たちに演奏を見られて嬉しくないことなんかない。
「それでは、これより今回の決闘の結果発表を行います。今回の決闘の結果は非常に僅差でした。これは両者とも非常にハイレベルな戦いをしたという事でしょう。それでも我々は勝者と敗者を決めなければならない。そして無常にも僅か13票も差が勝者と敗者を決定付けました……。まぁ、長たらしい挨拶はお終いにして、結果を発表します。」
司会者の挨拶が終わり、結果が発表される。なんだかこれまでの自分の行いが走馬灯のように流れてくる。頼む、みんなのため今回は僕の勝利にしてくれ。神に祈ったな。
「今回の決闘の勝者は……1年!鈴木拓朗です!」
僕は体の全身から力が抜けた。よかった、本当によかった。僕のせいで旭のベースが、田中さんが近衛先輩のものになるところだった。安心し切って僕は椅子からも崩れ落ちた。
「それでは、勝者の鈴木拓朗さんにインタビューしたいと思います。それでは壇上に出て来て下さい。」
司会者の言葉の後、スタッフに案内されて舞台上に出た。
「こんにちは、今回の勝者の鈴木拓朗さん。さてインタビューですが、ズバリ今のお気持ちを教えて下さい。」
司会者の質問に対して僕は少しおどおどした感じで回答する。
「はい、やはり今回の勝利は友人や家族の助けなどで獲得できたものだと思います。」
「なるほどぉ〜。いいことを言いますね。その割に足はかなり震えてますね。」
「流石に友人の自由だとか、楽器とか賭けられちゃうともう後に引けないというか何というか、かなり緊張しましたね。」
「そういえばお友達の賭けていた楽器は相当なお値段らしいですね。」
「そうですね。これに関しては言っていいのか本人に確認をとってないので、詳しい回答は控えさせてもらいます。」
「それもそうですね__」
その後も、司会者のインタビューに回答していった。特に今回の勝負で賭けられた田中さんのついてのことも聞かれた。司会者も女子だったので恋バナだとかそういう話にはかなり食いついてきた。もちろん、僕と田中さんは付き合ってないし、そのような関係ではない。と、ちゃんと回答していた。その時、田中さんと旭の方を見ると田中さんが下を向いていた。恥ずかしかったのだろう。解答を続けていると、もう終了の時間らしい。
「それでは、今回のインタビューは終わりにします。なかなかいいいお話もたくさん聞けたのではないでしょうか。それと、今回大活躍した鈴木くんはフリーみたいなので、狙いなら今ですよ。ちなみに、私も参戦いたします!それでは、解散です。お疲れ様でした。」
司会者のなんとも言えない挨拶で解散が宣言された。
最後にどうやら、司会者はこの後僕の彼女に立候補するらしいのだがなんて冗談を言うんだ。突然のことなんでかなり驚いてしまった。舞台裏にはけた後、今回の関係者や、片付けを担当する系音楽部の皆さんに挨拶をして帰宅しようと、体育館を出た。するとそこで、田中さんが待っていた。




