18話 先輩のターン
いよいよだ。授業が終わり、軽音楽部の皆さんによる設営も終わった。
「おい、お前。もう逃げられないぞ。はっ、緊張してんのか。ま、俺の後にやるんだ緊張して当たり前か。今から俺がお前の辞退届を出してきてやろうか。」
「いいえ、僕は絶対に先輩よりもフリアを沸かしますよ。ライブ後の投票、楽しみにしておいてくださいね。」
「ふん、俺に楯突いたこと後悔させてやるよ。」
先輩との挨拶のような、言葉を交わし、先輩は準備に向かう。今回は先輩が1番目、僕が2番目という順番になっているため、先輩の作った空気感を自分のものに変えなくてはいけない。そろそろ、始まるみたいだ。舞台裏に来る前に旭と田中さんは応援の言葉をくれた。それにさっき、クロエさんが多少は身なりを整えてくれた。問題ないね。
◇◇◇
「それでは、今から、決闘システムによる、決闘を開始します。決闘者は2年近衛湊と1年伊藤旭。今回は両者の決定により、ギターライブによる対決。そして、1年伊藤旭の代わりに、1年鈴木拓朗が行います。」
司会者による今回の決闘の内容、賭けたもの、挑戦者が発表される。
「なぁ、近衛先輩ってめちゃくちゃギター上手いんだよな?」
「あぁ、俺の友達軽音でさ、何回か出演するライブ見に行ってんだけど、近衛先輩の入ってるバンドだけ頭一つ抜きん出てんだよ。」
「じゃあさ、今回の鈴木拓朗?ってやつはさ、上手いのかな?」
「いっや、友人からそういう子が軽音に入ってるっていうのは聞いてないな。」
「俺知ってるぜ、鈴木って俺と同じクラスなんだけど、あんまりうまそうって感じじゃあ、なかったな。」
「そうなのか。俺あんまし楽器とか詳しくないけどさ、わざわざ自分の楽器賭けてまで推薦してんだから上手いんじゃねえの?」
「あんたたち何言ってんのよ、近衛先輩があんな陰キャに負けるわけないじゃん。」
「ま、どっちにしろ近衛先輩の演奏は一回聴いてみたかったからちょうどよかったぜ。」
先輩と鈴木くんの決闘には周りの人も戸惑いのような、先輩や鈴木くんの演奏を期待する声が上がった。
私、田中すずは驚いた。今日、近衛先輩と鈴木くんの戦いがある。もう既に鈴木くんは舞台裏にいる。司会者の説明が終わり、近衛先輩が準備を開始した。
「ねぇ、伊藤くん。もしかして、あの近衛先輩って相当上手?」
「うん、そうだぜ。相当っていうか、下手すると普通にライブハウスでライブして将来プロ目指してるような人より上手いかな。」
「えぇー!それって、鈴木くん大丈夫なの?昨日までは絶対負けないって思ってたんだけどあの演奏はやばくない?」
「全然、余裕。元々拓朗のギターはめちゃくちゃ上手いし、いつもはギターボーカルなんだけど、今回は強化週間もやってしかも内容は全部ギターの技術向上だ。それに今回のライブで拓朗は『クライス』の曲を少しアレンジしたのをやるみたい。いつも弾いてるから慣れたものだよ。」
「なるほどね〜。てか、鈴木くんってボーカルもやってたんだね。初めて聞いたよ。」
ギュイーンと歪んだギターの音が響く。
「どうやら、先輩の準備が終わったみたいだね。」
体育館の舞台の上では、ギターをもった先輩がこちらを向いて立っていた。
「どうもー、近衛湊だ。今回は後輩にギターでの勝負を挑まれたが、実力の差を見せる。盛り上げていく。」
先輩の言葉を言い終わると爆音でギターの音が流れ始めた。
「うん、やっぱりいいね。なんていうか派手で。」
「そうね伊藤くん、ギュインギュイン歪んでますね。」
近衛先輩のギターの音は普段の音よりかなり歪んでいた。音作りはもう演者の趣味みたいなところがあるのだが、この音はかなり好きだ。
「この歪みまくってる音、ちょっと『クライス』のクロエさんの音に似てませんか?」
「そうだな、クロエさんのにかなり似てんな。この前月刊のギター雑誌の取材でエフェクターボード載せてたし参考にした可能性ありそうじゃない?」
「雑誌に載ってるんなら参考にしてそうね。というか、伊藤くんクロエさんのこと詳しいね。」
「『クライス』好きだからね。出演してるものは目を通すようにしてるんだ。」
「なるほどね〜。」
とてつもなく歪んだ音をしていたギターから一変して今度はクリーンな優しい音となる。カッティングの音も響き先ほどまでワイワイ騒いでいたこの体育館も静かになる。ただギターの音だけ絵が響き渡る。
音がどんどん小さくなり、ここで終わりかと思われたその時。
また、クリーンな音から一変し歪みの大きい音に変わり、曲調も早くなっていく。そして、その勢いを保ったまま、最後まで引き切った。
次は、鈴木くんの番である。




