14話 少しの間のひととき
「クロエさん、ここのフレーズどうですか?」
「う〜ぅん、ライブならいいけど技術力向上が目的ならもっといけるね。」
「わかりました。もっと繰り返します。」
「まぁ、結局録音した音と自分の理想を比較しながらダメなところを潰していこうね。」
最初は『クライス』の曲を全曲通しで演奏していた。半分、いや2/3ほど進んだ時にクロエさんの流してたフレーズがとてもカッコよく、練習し始めた。それから時間がたち……
「クロエさん、やばいです!もう二時ですよ!お風呂入って寝ないとまずいですよ。」
「そ〜ぉなんだ〜ぁ。もうおしまいにしようか。お風呂一緒に入ろうか〜ぁ?」
「入りませんよ!!」
このあとちゃんと別々にお風呂に入った。勿論、寝るところも別々である。
◇◇◇
「おはよう……」
「おはよう、鈴木くん。なんか今日元気ないけど大丈夫?」
「あはは。問題ないよ。ちょっと寝るの遅くなっただけ。昨日は僕が田中さんの体調心配してたよね。」
いつもと変わりなく田中さんと挨拶を交わしながら席に着いた。
「そうだね。もしかしてギターの練習?」
「うん、そうだよ。昨日はギターの師匠にフレーズの弾き方を教えてもらったんだ。」
「はぁぇ〜、師匠とかいたんだ〜。」
「うん、今は同じバンドなんだけど、一緒に組むまで長い道のりだったよ。」
師匠を誘うまでは長かった。インターネットで派手なギターソロやフレーズを弾けるようになって、『クライス』の初めての曲を作って師匠を誘った。
「なんか一緒に組むために課題とか出されたの?」
「いや、全然そう言うのじゃなくて、僕が勝手に課題を設定してそれを突破したから師匠を誘ったんだ。」
「そう言うのって師匠が設定するものじゃないの?」
「普通はそうなんだろうけど、僕勝手に師匠って呼んでるだけだからね〜。」
「えっ!勝手に呼んでたの?それで誘ったらなんて言われたの?」
「もっと早く誘ってくれてもよかったのに。って言われたよ。」
「本人が認めてないならそうなるよねー。」
授業が始まり、終わった。
◇◇◇
僕と田中さんはお昼を取りにいつもの場所に行く。
「よう、今日は昨日みたいに遅れてないな。」
旭は揶揄うように僕たちに言う。いや、君、もしかしてめちゃくちゃ高いベース賭けてるの忘れてんのか?
「伊藤くんのおかげで今日は誰にも文句を言われずにここまで来れたよ。」
「そうだぞ。旭はもっと緊張感持ってくれ。あんな大事なベース賭けてるんだからさー。」
「だって拓朗が先輩に負けるとは思えないんだよな。今もちゃんと練習してんだろ?」
「当たり前だよ。強化週間やってるよ。それに師匠に色々教わってるからね。」
「鈴木くん、強化週間て何?ギターばっかり弾く期間のこと?」
そういえば田中さんには言ってなかったな。
「うん、いつも以上にギターのことを考えて練習する期間のことだよ。」
「おいおい、あれはいつも以上なんて生やさしい表現じゃないぞ。朝起きて弾いて学校に行く。帰宅して弾く、食事を取り弾いて、風呂に入って寝るのを繰り返すんだ。途中で集中力切れるとリフレッシュするが周りも異常なくらい集中しているから、焦っちゃうんだ。」
「あー本当にずっと弾いてんだね。」
「うん、いつでも師匠に聞けるからとても大事な期間だよ。」
「師匠さんが毎日家に来てくれてるの?」
「いや、僕が師匠の家に泊まりに行ってるんだ。」
強化週間の話をしながら、ご飯を食べた。
今日の放課後は昨日の復習をして新しいフレーズもやろう。




