13話 強化週間
「おにぃ、本当に強化週間をやっちゃうんだ……」
強化週間……私、鈴木琳が一番嫌いなものかもしれない。おにぃは今すごく人気なバンド『クライス』のギタボである。顔役である。小学校の頃からギターを練習していた。でもそれだけではない。ライブ前やお披露目前、自分が気合を入れる時に行うにが強化週間である。今回はおにぃの親友のさっちゃんの大事なベースがかかったライブがあるみたいだ。
それになんか最近気が抜けているらしい。私は全然そんなことないと思うけどおにぃは一度決めたら案外頑固である。
「琳、それじゃあ僕は行ってくるよ。いつも通り栞ちゃんがくると思うから、よろしくね。」
「うん、大丈夫。でも少し……寂しいから全部終わったら二人で遊びに行きたいなって……」
「勿論だよ。遊園地にしようか。僕も色々考えておくから琳も考えておいてね。」
「うん!それじゃあ、いってらっしゃい。」
あにぃは扉を出ていった。少し悲しいけどしょうがない……
絶対に勝つんだよ。よくわかんない先輩に負けたら二度と家に入れないからね!
◇◇◇
僕は今から強化習慣に入る。簡単に説明するとスタジオに泊まり込んでギターを弾く。弾いて弾いて弾きまくる。そう言うものである。なんでスタジオに泊まれるか。それは僕たちのバンド『クライス』のメンバーの実家だからだ。
「こんにちは〜、さっき電話した鈴木ですけど大丈夫ですか?」
「あい、タク君久しぶり。問題ないよ。あと、クロエはもう部屋入ってるよ。一緒に練習するんだろう?頑張ってね。」
「はい!これから二週間よろしくお願いします!」
「はい。いつも通りね。」
今話しているこの人はバンド『クラウス』のギター『クロエ』の父親である。普段はスタジオ経営を行っているが、たまに昔の仲間と一緒にライブしているみたいだ。僕は強化習慣を行うときのみ開放される部屋に入った。
「やぁ〜、こんかいは〜、いつもより早いね〜。」
間延びしながら会話しているのはクロエさんだ。毎回こんな感じで話してドラムの栞さんに怒られている。
クロエさんは近くの大学に通っっている。
「こんにちは、今回は旭のベースがかかってるんですよね。それに前回のライブが成功してから弛んでいる気がして。」
この前あった決闘に関しての説明をクロエさんにした。
「そんなことあったのね。今回も技術力の向上かな〜。ま、一緒にずっとギター弾くだけなんだけどね〜ぇ。」
「一緒に弾けるだけでモチベ上がりますし、気になるとこ聞いたらすぐ答えてくれるので助かってますよ。」
「ま〜、それは良いんだけど私もタメ口で話してよ〜。なおの事はちゃん付けなのにさ〜ぁ。」
「いや、クロエさん。ちょっと厳しいです。だってクロエさんは否定しますけど、僕は勝手に師匠だと思ってますからね。」
「な〜んでさ〜ぁ。」
ギターの準備しながらクロエさんとお話をする。クロエさんは栞ちゃんのことをなおと呼ぶ。それは本名の内田栞から取ったみたいだが、正直どうやったらそうなるのか教えて欲しい。この前クロエさんに聞いたら本人も忘れてしまったみたいだ。
「うーん、今日はとりあえず録音しながらクライスの全曲弾くかー。」
「タク〜、私のパートの方がテクいから〜ぁ、そっちをやったほうが技術力は上がるんじゃ〜ぁない?」
「まぁ、僕もそう思うのでやりますけど、なんかいつもより変な伸ばし方してません?栞ちゃんは来ないですよ。」
「なおがいないと〜、揶揄いがいがないよね〜。」
「それじゃ僕は一度通してから録音しようと思いますけど、クロエさんはどうします?」
「てきと〜に、インターネットでいい感じのテクい動画真似してるよ。」
そう言って、僕とクロエさんの練習が始まった。




