1話 プロローグ
「おはよ〜、昨日投稿されたクライスの新曲聴いた?」
「聞いた聞いた!最高だったよねー!」
「あぁ、早くタク様を生で見たい!」
「あたしはタク様よりもナオちゃんに会いたい!」
人気バンドの話題を聞きながら教室に入る。それが僕、鈴木拓朗の1日の始まりだ。
「うわぁ〜、鈴木がきたよ。」
「あいついつ見ても髪ボサボサだよな。」
「いい加減あの鬱陶しい髪切ってほしいわ。」
そして、ぶつぶつ言われながら席に着くのがいつもの日常である。
悲しいことにこのクラスで会話ができる人がいない。悲しいかな。
それも全ては、高校入学してすぐ1週間も休んだせいだ。
みんな友達を作ろうとしていた時にいなかった僕は完全に出遅れた。
それに加えて陰キャ、長髪のおかげで友達作りはさらに難航している。
◇◇◇
「はぁ〜、今日も誰とも話ができなかったな。」
いつも通りイヤホンを耳につけ、最近収録の時一緒になったバンド『anthem』の曲を聴きながら帰宅する。
これが僕、鈴木拓朗の1日の終わりだ。そして、これからはクライシス・タクの時間だ。
そう僕は、大人気バンド『クライス』のギターボーカルの「タク」である。
練習を楽しみにしながら帰宅しようとした時、スマホを落としてしまった。
「はい、スマホ……鈴木君、『anthem』の曲聴くんだ。
しかも新曲じゃん!好きなの??」
僕のスマホを拾ってくれた彼女は田中すず。カースト上位にいてこの学校で一番モテている。
この前も軽音部の部長に告白されていたはずだ。
「うん、最近知ってよく聴いてるんだ。」
「そうなんだ。私も友達に教えてもらってからよく聴くんだぁ〜。他にはどんな曲が好きなの?」
「新曲も好きだけど、デビュー曲の『MinD』の方が好きだな。」
「私も『MinD』の方が好きかなぁ〜。」
「あの曲は「ねぇ〜すずなにしてんの?帰ろうよ!」
「あっごめんね鈴木くん、また月曜日に会おうね!」
「うん、田中さんまた。」
軽い挨拶を交わしながら帰って行く田中さん。まさか田中さんがマイナーなバンドを聴いてるとは思わなかった。
「僕も早く帰らないと。」
今日は新曲の合わせがあるんだ。楽しみだなぁ。
まさかこの出会いが僕の学校生活を変えるとこの時の僕は、思いもしなかった。