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第8話 装備を買って歓迎会

 レティシアがライナを連れて行った店は冒険者ギルドの近くにあった。

「グリフィニア武器武具店」という看板が出されたその店は、中に入るとかなり広い店舗だった。

 そもそもこういう店に入った経験のないライナは、ほぉーと店舗内を見回す。


「どお、大きなお店でしょ。ここは、グリフィニアの冒険者が武器や装備を良く買う店よ。冒険者に必要なたいていの物は揃ってる。さあ、まずはこっちよ」


 そう言ってレティシアとライナが向かったのは、身に着ける装備のコーナーだった。

 冒険者がよく着ている革鎧の装備は勿論、各種の金属製装備、ダミーの人形に着させたフルプレートアーマーまである。

 ライナのお父さんは騎士であるため金属製の鎧装備を持っていたが、ライナが見たことのあるのは、チェインメイルの上にタバートのようなアルタヴィラ侯爵家騎士団制服のショートコートを着た格好だった。


「こんな全身に着ける金属の鎧って、冒険者は着ないよね。重そうだし」

「そうね。こんなのを着たら森の中で動けないしね。騎士団でも着ないわね。まあ飾り物よ」


 レティシアが言う騎士団とは、グリフィン子爵家騎士団のことだろう。

 ライナがそのことを尋ねると、グリフィン子爵家騎士団は冒険者と同様に大森林で活動するので、彼らの装備はやはりチェインメイルか、革装備の内側を金属で補強したブリガンダイン形式の軽装鎧なのだそうだ。

 ここでは騎士団も大森林で活動するのね、とライナは少し興味が湧く。



「さあ、それよりもライナの装備よ。ライナは魔法使いだから、それほどガチガチの装備はいらないと思うけど、やっぱり動きやすくて、多少は防御性能があった方がいいよね」

「そうなんですね」

「アウニさんが着ていたのを見たでしょ」


 確か革鎧装備と思われるものを着ていた。ただし冬ということもあり、その上から可愛らしいショートコートを着ていて、一見すると鎧装備を着ているようには見えなかった。

 宿屋に一緒に泊まったときになんとなく見せて貰ったが、凄く軽そうな革鎧だった気がする。


「わたしも、アウニさんみたいな感じがいいのかな?」

「そうね。王都とかの冒険者だと、魔導士の場合、鎧装備自体も着ないみたいだけど、あんな格好じゃグリフィニアでは通用しないわ。大森林とかに入ったら、直ぐに汚れちゃうし、下手するとボロボロになっちゃうよ」


 王都の魔導士冒険者は鎧装備を着ないんだ。ライナはそのイメージが良く掴めなかったが、同じ魔導士でも王都などとグリフィニアでは違うということは理解した。



 それからレティシアの助言を貰いながら、ライナはこのお店にある軽くて比較的強度の高い革鎧装備を選んだ。

 問題はサイズだったが、ライナは同年代ではわりと背の高い方だったので、小柄な女性用のものを調整すればなんとか直ぐに着られそうだった。


 あとは革鎧の下に着るアンダーウェア、丈夫な布製ズボン、革のショートブーツ、それから革製のショートコートも揃えた。コートだけはアウニさんみたいに、ちょっと可愛らしいものを選ぶ。

 脛当てや肘当てなども売っていたが、それらは省略した。

 だって、近接戦闘とかをどうするのか、わたし、何も決めていないしね。


「どう、かな?」

「あらあら、可愛らしい冒険者さんが出来たよ。美少女冒険者ね」

「美少女なんかじゃ、ないよ」

「ニックとかが見たら、直ぐに飛んで来るわよ」

「もう」



「よし、あとは武器をどうするかだけど」

「武器かぁ」

「まあ、武器売場に行ってみましょ。お金の支払いは最後ね」


 ライナが選んだ装備一式は取りあえずお店の店員さんに預け、武器のコーナーに行く。

 そこには様ざまな武器類が並んでいた。

 レティシアが持っているような両手剣をはじめ、片手剣からグレートソードと呼ばれる長大な剣まで。そして色々な長さの各種ダガーや刀身の細い細剣類。

 あとは槍や弓矢なども各種揃っているし、戦斧やメイスなどもある。


「ライナの場合、剣はいらないと思うけど、最低限、ナイフかダガーは1本持っていた方がいいよね」


 レティシアが言うには、護身用としては勿論のこと狩った獣などを解体したり、植物の採取にも必要になるということだ。

 ちなみに片刃のものをナイフ、両刃はダガーと区分されている。冒険者の場合、ナイフは主に作業用でダガーは戦闘用と分けているそうだが、当然ながらどちらも作業にも戦闘にも使える。

 最も長さのあるロングダガーと最も刀身の短いショートソードだと、ほとんど区別が無くなってしまうが、その辺は曖昧らしい。


 それでライナは、ダガーやナイフをいくつか手に取って握ってみながら暫く考え、全長が20センチほどのダガーを1本買うことにした。

 戦闘とかはまだぜんぜん分からないけど、取りあえずはどちらにも使える方がいいわよね。


「それにしたか。うん、悪くないと思う。だけど、そのダガーでも人を殺すことの出来る武器だよ。だから、所持して鞘から抜く時には充分に注意しなきゃダメ。使い方はあとで教えるからね」

「はい」



 こうしてライナは、生まれて始めて自分の武器を持った。それで少し気持ちが引き締まる。

 人を傷つけることの出来る武器を持つ仕事を、わたし、これからするのね。

 この世界では、あの強盗を働こうとした商人のように、ちょっとした武器を携帯している者は結構存在する。


 しかしその中でも冒険者は、普段から武器を装備していてもそういう連中だと黙認されている。

 つまり、騎士団員や衛兵以外で、町中で普通に武器を所持している者は冒険者であることが多い。

 だから冒険者自身が武器の扱いには注意するし、冒険者ギルドも街では無闇に武器を使わせないよう目を光らせている。


 今回の買い物はここまでとして、ライナは買ったものの支払いをした。

 全部で大金貨1枚と小金貨2枚に収まったようだ。

 それにしても高い装備や武器だと、金額に際限とかがないのね。そう思いながらライナは、ずらりと並んでいる様々な武器をあらためて眺め、そしていま購入した品々の荷物を抱えて店を出るのだった。




「買い物は済んだのかい? そしたらライナちゃんは、そのたくさんの荷物を自分の部屋に置いたらまた下りてらっしゃい。もうすぐ夕ご飯。ライナちゃんの歓迎会だからね」

「はーい」


 自分の部屋に戻って購入した装備の荷を解き、ベッドの上に並べてライナは暫し眺める。

 そうそう、お婆ちゃんにもういちど感謝をしなきゃ。お店でお金を払った時にも心の中で感謝の言葉を唱えたけど、もういちど言わないとだわ。


「お婆ちゃん。ライナは無事にグリフィニアまで辿り着いて、冒険者ギルドにも登録して、お部屋も借りて。それで、お婆ちゃんからいただいたお金で、こんなに装備を揃えることが出来ました。ほんとうにありがとうございます、お婆ちゃん」


 それからライナは、階下に下りて行った。



「さあさ、ライナちゃん、ここにお座り。今日からこの席が、ライナちゃんの席だよ」


 リビングの大きなテーブル。それを囲む椅子のひとつが、今日からライナの席だとカリナから示される。隣には既にレティシアが座っていた。


「さあて、あとの子たちは、まだ下りて来ないのかね」

「もう来るんじゃない。あの子たち、のんびりしてるから」


 そうだった。このカリナさんの家の他の住人。あとふたりの女性冒険者の方がいらっしゃるのよね。

 どんな人たちだろうとライナは想像する。とは言っても、女性冒険者でライナが間近に会ったのは、レティシアにアウニ、そしてニックの仲間らしいマリカという猫人ぐらいのものだった。


 今日、ギルドで他の方たちも見かけたけど、あまり良く憶えてないわ。

 レティさんが剣士でアウニさんがエルフの魔導士。マリカさんはどんな職種だか分からなかったけど、だいたい冒険者ってどんな種類があるのかしらね。



 そんなことをライナが考えていると、ふたりの女性が話しながら階段を下りて来る。


「おい、遅いぞ、エヴェ、セラ」

「あぁ、ゴメンゴメン、待たせた?」

「遅くなりましたぁ、レティ姉さん、カリナおばさん」


 ライナは、そう言ってリビングに下りて来たふたりを見た。

 ふたりとも人族の女性。それもかなり若い女性だ。おそらくは20歳前後と思えるレティシアよりも少し年下。まだ10代といった感じだろう。


「じゃ、わたしは料理を運んで来るからね。あんたたち、自己紹介でもしてなさい。レティちゃん、お願いね」


 カリナは台所の方へ行ったので、レティシアはふたりとライナをそれぞれ紹介することにした。



「今日からここの住人になったライナだ。この子はわたしと同じアルタヴィラ侯爵領の出身で今日、冒険者ギルドに登録したばかり。でも、かなりの魔法が使える。ちょっと特殊だけどね」


 エヴェとセラと呼ばれたふたりの女性冒険者は、レティシアの紹介の言葉を興味深そうに聞いている。


「それで、そこに突っ立ってるふたりが、残りのこの家の住人だよ、ライナ。こっちの大っきい方がエヴェ、えーとエヴェリーナで、こっちの細い子がセラ、セラフィーナだ」

「大っきい方って何だよ、レティ姉さん。よろしくな、ライナ」

「そんなに細くはありませんよ。しなやかと言ってください。こんにちはライナちゃん。今日からよろしくね」


 どうやらタイプのまったく違うふたりだが、どちらも気さくそうだった。

 エヴェリーナはレティシアが言った通り女性にしては背が高く、体格もがっしりしていそうだが、出るところは出ていて締まっているところは締まっている感じだ。

 男性のような服装をしているが、金髪の長い髪を後ろで束ねたリボンが可愛らしい。


 一方のセラフィーナという女性は、背の高さはレティシアと同じぐらい。

 確かにスマートな体型で女性らしいスカートを穿いた服装をし、赤みの少しある長い髪を肩に垂らしている。言われなければ冒険者とは分からないだろう。



「ライナは、レティ姉さんが地元から連れて来たのか?」

「親戚とか何かかしら。妹さんとかではないわよね」

「いや、違うんだ、それが。何しろ知り合ったのは、つい数日前のことなんだよ」


 それでレティシアが、ごく簡単にまとめてライナのことを話してくれた。

 ふたりはますます興味が湧いたように、ふんふんと聞いてくれている。


「なるほどな。ライナは土魔法が出来て、それでダレルさんがいるこのグリフィニアにな」

「ギルド長が今日の今日で登録を許したということは、かなりの魔法ってことよね」


「そうなんだ。アウニさんもエルミさんも、凄く褒めてくれてたし。ね、ライナ」

「あ、はい。わたしはあまり他の人の魔法を見たことが無いから、良く分からないですけど」

「ふーん、そうなんだ」


 そのときカリナが料理を次々に運んで来たので、4人は目を丸くして驚いた。


「ふぁー凄いな。カリナおばさん、これって」

「ここで暮らし始めて、初めてこんなに豪勢なお夕食を見たわよ」


「あははは。ライナちゃんに美味しいものを食べて貰おうと張り切ったら、こんなにできちゃったのさ。さあ、今晩はカリナおばさんの奢りだからね。ぜんぶ残さずに食べるんだよ」

「やったぜ」


「ライナちゃん、早く食べないと、すべてエヴェのお腹の中に行っちゃうわよ」

「ははは、それは冗談とも言えないよ、ライナ。さあ、いただこう」

「はいっ、いただきます」


 女性ばかり5人の賑やかな夕食会が始まり、美味しい料理に舌鼓を打ちながらライナは、わたしってなんて良い巡り合わせが続いて幸運なんだろうと感謝した。



「あの、レティさんは剣士ですよね。それでエヴェさんとセラさんは、どんな?」

「ああ職種か。わたしはライナの言う通り剣士で、エヴェは戦士。クリストフェルさんと職種的には同じだね。それからセラは斥候職だよ」


「そうなんですね。戦士って、剣士とどう違うんですか?」

「戦士は、ほら、いちばん先頭で闘う役さ」

「エヴェ、それじゃ違いの説明になってないわよ」


「簡単に言えば、剣士は剣術の腕を磨いて闘う。戦士は剣にこだわらない。エヴェはメイスと片手斧だっけ?」

「この子は何でも使うわよ。メイスに斧に短槍、それから殴り合い」

「格闘と言ってくれ」


「まあ、接近戦の戦闘ジャンキーよね」

「オールマイティを目指していると言ってほしいぜ」

「格闘? ですか」

「わたしも剣以外に格闘も練習するけど、エヴェほどじゃないわね」


 接近戦でオールマイティを目指しているのか。相当強いのだろうか。

 魔導士でも冒険者は接近戦の闘い方が必要という、今日初めて知ったこともライナは思い出す。



「セラさんの斥候職というのは、どんなことをするんですか?」

「斥候職は、探索が主よね」

「探索?」


「例えば、パーティで行動するとき、少し先行してパーティが進む方向に敵とか罠とか、危険なものが無いかを探るの。勿論、採取とかのお仕事では、目当てのものを見つけ出す役目もするわよ。あと、パーティが戦闘になった時は、遊撃役ね。エヴェみたいな戦士が前に出て闘うのを、敵から見つからないように接近して援護したり攻撃したりするの」


 そういう職種もあるのかと、ライナはまだ知らないことが山ほどあることをあらためて自覚する。

 冒険者のパーティって、色んな職種の人が集まるのね。そう言えばレティさんはパーティを解散したばかりって聞いたけど、いまはひとりなのかしら。


 これは聞いちゃいけないのかな。なんだかあまり話したく無さそうだったけど。

 でも、パーティとかを組んでいて普通に冒険者のお仕事をするのなら、わたしの面倒を見るとか言っているヒマなんてないわよね。

 なんだかわたしって、そんなレティさんの事情に甘えているみたい。


 美味しい食事の時に、レティシアが話したくないことを聞いてはいけないとライナは思いながらも、どうしても聞かずにはおけないような気がして来たのだった。



お読みいただき、ありがとうございます。


本編をまだお読みでない方がいらっしゃいましたら、そちらもよろしくお願いします。

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