第2話 ライナの決心
それから何ヶ月かが過ぎ、今年も残り僅かとなった。
あのあとライナのお父さんは、家に何日かいて領都の騎士団へと戻って行った。
12月の終わりには冬至祭があるが、お父さんは領都で祭りの警備関係の仕事が忙しく、村に帰るのは年明けになるだろう。
兄のウルバンも騎士団の見習いとして警備の手伝いをし、父と共に年明けの帰省となる筈だ。
それまではいつも通り、お母さんと父の母であるお婆さんとの3人暮らし。
兄とライナが小さかった頃にはお手伝いの女性がひとりいたが、現在は騎士爵家とは言ってもそれだけの慎ましい暮らしだ。
尤も、村にはバラーシュ家に従っている何軒かの従士家があって、各当主もやはり父の部下の従士として領都勤めなのだが、それらの家の者たちが何かと騎士爵家に来て手助けをしてくれる。
前の騎士爵で村の領主だったお爺さんは、北方帝国との15年戦争で戦死をした。
それは、ライナが生まれるよりもずっと前のことで、ライナはお爺さんの顔を知らない。
良く家に手伝いに来てくれる元従士のお年寄りたちの話を聞くと、お爺さんは剣術も強かったが攻撃魔法もかなり出来たのだという。
それで、アルタヴィラ侯爵家騎士団の魔導士部隊の部隊長として、指揮を執っていたのだそうだ。
だから、昔からうちの村では毎年、領都の騎士団から魔導士が来てくれるのね。
お父さんは魔法がからきしダメなのに、どうしてなのだろうとライナは不思議に思っていたが、お爺さんのことを聞いて納得がいった。
しかし祖父は、魔導士部隊の部隊長であったことが仇となってしまったのだ。
15年戦争が起こり、北方の国境の戦場からだいぶ離れているアルタヴィラ侯爵家の騎士団は、セルティア王国のフォルサイス王家からの要請で少数の騎士団部隊を戦地に派兵することとなった。
先代のバラーシュ騎士も、選抜した魔導士分隊を率いて従軍した。
幾度かの国境を巡る戦いを経て年月が過ぎたある日、王宮騎士団上層部の戦術ミスにより王家部隊といくつかの領主貴族部隊を含む混成軍が、戦闘の混乱の中で複数の単位に分断されてしまった。
そこを北方帝国軍は各個撃破に出る。
セルティア王国側で最強の北辺の辺境貴族軍団は、王家の混成軍とはかなり離れた場所にいた。
アルタヴィラ侯爵家騎士団は少数部隊であったうえに、15年戦争に参戦するまでは戦場での戦闘にも経験が少なかった。それが孤立してしまったのだ。
他の領主貴族部隊と合流せねばと戦場を移動するうちに、北方帝国軍からの索敵に引っ掛かってしまい、数倍の数の軍勢に襲い掛かられてしまう。
ライナのお爺さんが率いる魔導士部隊は、近接戦闘ではとても弱い。
自軍の騎士団部隊を援護し、かつ自らの部隊は後方に撤退するために一斉に魔法を撃たせた後、お爺さんがひとり殿の盾となって奮戦して部下の従士たちに魔導士を護らせながら逃がした。
そして、魔導士部隊では部隊長のお爺さんだけが戦死したのだ。
お爺さんの部下だった元従士のお年寄りからその昔語りを聞いていたライナは、涙が止まらなくなっていた。
お爺ちゃんたら、なんてバカなの。いくら魔法が上手くたって、部下の人たちだけじゃなくて一緒に自分も護れなかったら、どうしようも無いじゃないの。
それだったら、魔法なんか出来なくて剣術だけできる人たちと一緒に闘った方が、よっぽど良いのに。
しかし村の従士家も、そして騎士団の魔導士も、その時の恩義を決して忘れてはいない。
ライナのバラーシュ騎士爵家は村中からどこの騎士爵家よりも尊敬され、また、村の8歳の子どものために、わざわざ領都から魔導士が交替でほぼ毎年来てくれるのだ。
そして、ライナの魔法の素質が早くに判明したのも、遡れば先代のお爺ちゃんの遺徳のお陰なのだった。
指折り数えればあと何日かで村の学校も年末のお休みに入り、ライナがもう卒業というある日、村にあの若い魔導士がひょっこりと現れた。
ライナは学校の先生である祭祀の社の社守のひとりからそのことを教えられ、ライナに会いたいと言っていると聞かされた。
それで、その魔導士が待っているという学校の前の庭に出てみると、3年前に会ったあの懐かしい顔がニコニコと笑いながら立っていた。
「これはライナ殿、お呼びだてして申し訳ありませんでした」
「どうしたんですか? いきなりで驚きましたー。領都からいらしたんですよね」
「ええ、まあ旅の途中の寄り道というところですかね」
「旅の途中? 騎士団のお仕事は? 冬至祭の前でお忙しいのでは?」
「それが、騎士団は辞めましたので」
「えーっ、辞めちゃったんですかー」
「いえ、追い出されたとかでは無いんですよ。別の仕事のお誘いがありましてね」
「へぇー、どんなお仕事なんです? 魔導士さんだから、やっぱり魔法を使うお仕事ですよね」
「それが柄にも無く、魔法を教える仕事でして」
ライナは8歳で魔法適正を見て貰った時に、キ素力を循環させる方法や攻撃魔法の発動を教えて貰ったのを思い出した。
それは子ども相手なのに、とても丁寧で分かりやすかった気がする。
「えーと、あなたなら、きっと良い先生になると思います。こんな女の子にそう言われても、ちっとも嬉しく無いでしょうけど」
「いえいえ、そう言っていただけると励みになりますよ。あ、私の名前をちゃんとお伝えしていなかったですね。私はクリスティアンと言います」
「クリスティアン先生」
「着任していませんから、まだ先生ではないですけどね」
「どこで魔法を教えるのですか?」
「ああ、それが、王都のセルティア王立学院なのですよ」
セルティア王立学院なのね、それが本当なら凄いわとライナは感心し、あらためてこの若い魔導士の顔を見た。
この人は、思っていた以上に優秀な魔導士なのかも知れないと。
「先生は凄い魔導士さんだったのですね。王立学院の先生になるなんて」
「いや、それほどでもないですよ。私はたまたま四元素魔法のうち3つに適正があったものですから」
そう言えば、わたしの魔法適正を見た時に土魔法は出来ないと言っていたわね。それでも、3つの元素に適正があるなんて、それで優秀じゃない筈がない。
「3つに適正があるなんて、素晴らしいわ」
「本当に素晴らしい魔導士というのは、私よりも遥かに優秀ですよ。例えば、私が学院生だった時に下の学年にいたアナスタシア様は、天才でした。彼女は四元素のすべてにとてつもない適正があったばかりでなく、更にそれ以上に回復魔法では誰も比較にならないほどの能力があった。じつは私も彼女に回復魔法の教えを請うたのですよ。彼女こそが魔法の天才だ。君のようにね」
「え、わたしは天才なんかじゃないわ」
「いえ、君は天才のひとりです。ただし土魔法に特異な才能を持った」
「でも、土魔法だけです。騎士団では役に立たない……」
クリスティアンがライナに語ったアナスタシア様という女性は、ブライアント男爵家のお嬢さんなのだという。
領主貴族のお嬢様で、四元素魔法のすべてに優秀で、それ以上に回復魔法の達人。学院では魔法学の特待生だったのだとか。
そういう方こそが魔法の天才ということなのね、とライナは、嫉妬を覚えるには遥かに高い位置にいるだろうアナスタシア様という女性に、強い興味を抱いた。
「そうそう、いまお話した私の学院の後輩のアナスタシア様ですがね、グリフィン子爵様の恋人になられて子爵家に嫁いだのです。それで、そのグリフィン子爵家に土魔法で有名な方がいるのですよ。その男性は土魔法の達人として、特に魔法を生業としている者の間では、知らぬ者はおりません」
「へぇー、魔法の天才のアナスタシア様がお嫁に行かれた子爵様のところに、そんな有名な土魔法の達人がいるんですね。その方は、騎士団の魔導士さんですか? それとも魔法の先生?」
「それがね、これも知らぬ者はいないのですが、その方は子爵館の庭師なんですよ」
「庭師? それって、貴族のお屋敷とかでお庭の世話をするお仕事の? 確かに土にはとても関係があると思うけど」
「はい、その庭師です」
「それはやっぱり、いくら達人でも土魔法では役に立たないから、庭師しかさせて貰えないとか……」
「いえいえ違います。その方は、セルティア王国の中でもトップクラスの冒険者が集まるというグリフィン子爵領で、最高のパーティの一員として冒険者をしていたんです。グリフィン子爵領には、世界で最も危険な森林のひとつと言われる、アラストル大森林がありますからね」
「じゃ、なんで庭師なんかに」
「草花や樹木、庭いじりが大好きなのだそうですよ。だから、先代の子爵様がお庭を大改造するので彼にお願いをしたら、トップ冒険者をあっさり辞めて庭師になってしまったのだとか。そういう子爵家で、魔法の天才のアナスタシア様は子爵夫人なのですね」
愛する男性と結ばれた魔法の天才が子爵夫人で、その家の庭師が元トップ冒険者だった土魔法の達人だなんて、まるでお伽話みたい。
侯爵家騎士団から役に立たないって言われている土魔法しか出来なくて、自分の将来の居場所をどうしようとウジウジ悩んでいたライナは、そんな悩みがバカバカしいほどに堅苦しいもののように思えて来た。
それと同時に、そのアナスタシア様や土魔法の達人の庭師がいるという、グリフィン子爵家に一層強く関心が湧く。
「お話が長くなってしまいました。今日、お会いしたかったのは、ライナ殿があれから魔法の稽古をされているのかどうかが、じつはとても気になっていましてね。どうですか? 土魔法は進みましたか?」
「はい、あれから独りで、自分なりに稽古をしています」
「ほう、それは良かった。もしよろしければ、何かひとつ見せていただけませんか?」
「いいですよ」
それでライナは、学校の庭の横にある空き地にクリスティアンを連れて行き、ではやります、と言って身体にキ素力を循環させ、手を地面に翳した。
すると、ずしんという音がして地面が陥没し、直径5メートルほどもある大きな穴が一瞬で空いてしまった。その大穴は、人が落ちたら容易に這い上がれないほどの深さがある。
「凄いっ」
クリスティアンはひと言そう言葉を洩らし、そのあとは無言になってその大穴を見つめていた。
「このままにしておくと叱られますから、元に戻しますね」
ライナはそう言うと、その大穴に再び手を翳す。
途端に地中からみるみる土が盛り上がって来て、あっと言う間に元の平坦な地面に戻っていた。
「地面が他の部分より柔らかいと危ないから、少し固めます」
手を翳したままライナはそう言い、硬化の土魔法を発動させる。それでもう、どの部分に先ほどの大穴が空いたのかも分からなくなっていた。
「独りだけの練習でここまで……。ライナ殿、君はやはり天才だ」
クリスティアンはライナが領都の騎士団見習い学校には行かず、王都の王立学院を受験するつもりもないことを既に知っていた。学校の先生に聞いていたのだろう。
だが、彼はこう言って去って行った。
「もし、ライナ殿が王都に来ることがありましたら、セルティア王立学院に私を訪ねてください。何かお力になれることも、あるでしょうから」
「ライナ、もう部屋に行くの?」
「食器のお片づけも済ませたから、もういいでしょ」
「でも、ここのところ毎晩よね。少しはお話とか……。それに今日で学校も終えたし」
クリスティアンが彼女を訪ねて来た日から、ライナは夕食を終え片付けを済ますと即座に自分の部屋に閉じこもるようになった。
そして毎晩、計画を練る。
学校を卒業したら直ぐに家を出る。そして、北に行く。目指すのは、グリフィン子爵領だ。
クリスティアンが話してくれた、子爵館で庭師をしているという土魔法の達人の人に会ってみたい。出来れば、土魔法も教えて貰いたい。教えて貰えなくても、土魔法でどう生きればいいのか、そのヒントぐらいは掴みたい。
そして、もし可能ならば、天才魔法少女と呼ばれた現在は子爵様の奥様、アナスタシア様と会ってみたい。
きっと凄くお奇麗な方よね。だって、子爵様と恋に落ちるんだもの。
あのクリスティアンさんの後輩だったというのだから、まだお若い筈よね。
男爵家のお姫さまで、魔法の天才で、そして子爵様と恋に落ちて、いまは子爵家の奥様かー。
ライナには、その方たちがいるグリフィン子爵領の領都が、まるで魔法の国のように思えた。
そう、わたしはこの村を出て、魔法の国を目指すの。
子爵館のある領都はグリフィニアという名前で、その領都はこの世界でも屈指の危険地帯であるアラストル大森林の直ぐ側にあるのだという。
危険と隣り合わせの魔法の国よね。わたしはそこで冒険者になろう。
その土魔法の達人が、庭師になる前にしていたという冒険者に。
そうすれば暮らして行けるわよね。時間が掛かってもいいわ。わたしはまだ来年は12歳なんだし。時間はたくさんあるわ。
このバラーシュ村しか知らないライナには、冒険者がどんな仕事をするのかまったく分からなかったが、その庭師さんが土魔法で冒険者をしていたのなら、きっと自分にも出来ると、持ち前の気楽さで考えていた。
問題はどうやって、そのグリフィン子爵領まで行くかだ。
まずはこの村を出て、乗り合い馬車が通る街道沿いの町まで行かなければならない。
クリスティアンが去る時に、どうやって王都まで行くのかと聞いてみたら、そのように言っていた。
乗り合い馬車に乗って、王都までは1泊2日の旅程なのだそうだ。
その王都からグリフィニアまでは、やはり乗り合い馬車で2泊3日の距離だという。
こんなことなら、お父さんに何か嘘でも付いてでも、お小遣いをせしめておけば良かった。
でも嘘はいけないわよね。
わたしのお小遣いはとっても少ないし。だってこの村にいたら、お金なんてほとんど必要ないんだもの。
確かに11歳のライナの手持ちのお金は、極めて少ない。
だったら何日掛かっても、グリフィン子爵領まで歩いて行こうか。
でも、食べ物は必要よね。いまわたしが持っているお金で、なんとか食料だけは買って。
この数日、夜になるとライナは、そんな計画とも言えない計画を繰り返し考えた。
そしていつも結論は、あれこれ考えても仕方がない。とにかく実行するのよ、だった。
そして今日、とうとう学校が終了した。
特にセレモニーめいたものは何も無い。ただ、卒業するライナを含めた4人の子供たちが先生に呼ばれた。
「あなたたちは今日、この学校を卒業します。ここを出たら、明日からあなたたちは大人の道を歩みます。ですから、しっかり生きるのですよ。今日まで良く頑張りましたね」
「はい、ありがとうございました」
そして、4人はいつものようにバイバイと言って別れ、それぞれの家に帰った。
どうせこの村に居る限りは、明日もどこかで顔を合わせるからだ。
でもライナは、3人に手を振りながら、「もう、永遠にバイバイかも知れないわ。でもみんな、元気に暮らしてね。いままで仲良くしてくれて、本当にありがとう」と、心の中でお礼と別れの挨拶をした。
「ライナや、まだ起きてるわよね。入っていいかな」
「え、お婆ちゃん。どうしたの? こんなに夜遅くに。ええ、入って」
お婆ちゃんがライナの部屋に来るのは珍しい。
彼女は、ライナが悩みをずっと抱えているのが心配だった。理由は聞かなくても分かっている。
ライナなら、答えはいつか自分で出すだろうと、そう考えていた。
それが先日から、より深く何かを考えているようだった。ただその表情は、それ以前のもやもやと悩んでいた時のものとは違うのが察せられる。何かを決めようとしている顔ね。
そして今日、村の学校を卒業した日、秘めた強い決心がライナの心の中にあるのが分かったのだ。
そして、そのライナがしただろう決心についての予感を胸に、ライナの部屋のドアをノックしたのだ
お婆ちゃんはお爺ちゃんほど魔法が使えた訳ではないが、お爺ちゃんが部隊長だった魔導士部隊の一員だったとライナも聞いたことがある。
そして魔導士部隊を若くして引退し、この村に嫁いで来た。
しかし、お爺ちゃんが戦死した日から魔法を使うことは一切無くなり、魔法や魔導士部隊のことを話すこともなかった。
だからライナも、お婆ちゃんが魔法を使うのを見たことはない。
「どうしたの、お婆ちゃん」
「ライナは、決めたか」
「え? なに? 決めたって」
「ふふふ、この婆ちゃんに隠しごとをしてもダメだよ、ライナ」
そうだ、お婆ちゃんは魔法を使わないけど、でもいまでも魔法使いなんだ。
何か、わたしの心を覗ける魔法とか出来るのかしら。
「いや、心を覗いた訳ではないよ。そんな魔法は、普通の人族には出来ないからね」
やだ、わたしが考えてたことが分かっちゃったじゃない。
でもそんな魔法は出来ないって、いま言ったし。
「想像しただけだよ、ライナ。おまえも魔法を練習しているなら分かるだろ。想像する力が大切だってこと」
「うん、それなら何となく分かって来てる」
「赤ちゃんの時から、くるくる変わるライナの表情は、毎日見てるんだよ。それで、ここのところの変化や動き、それから今日の顔を見て、そう思った訳さね」
「そうなんだ」
「おまえが、具体的にどうしたいのかまでは、この婆ちゃんには分からない。でも、この家を、この村を出て行く、そう決めたんだろ」
「お婆ちゃん……」
「さあ、このお金を持って行きなさい。おまえがお金を持っているとは思えないし、お金はあっても邪魔にはならない。だけど、この年寄りには必要のないものさね」
お婆ちゃんは手に持っていた硬貨の入った重そうな袋を、どさっとライナの目の前に置いた。
「お婆ちゃん、それって……。いいの?」
「ライナの決心のお駄賃さね」
「ありがとう、お婆ちゃん」
「それで、いつ出るんだね。お母さんには、わたしからよーく言っておくよ。ライナが何を言っても、反対するだろうからね。魔法で生きようとする者のことは、なかなか普通の暮らしをしている人には理解出来ないものさ。だけど魔法というやつは、何かに縛られていては、その本領を発揮出来ないものなんだよ」
「はい」
「ただし、お母さんが悲しむから、手紙を書いて置いて行きなさい。ライナの本心を書くんだよ。ライナが何を考え、何を決心したのかを。それから、お母さんを愛していることもね」
「はい、そうします」
そしてライナは、お婆ちゃんを抱きしめた。涙が止めどもなく溢れて流れる。
それから暫くして、涙をしっかりと拭い、ライナはお婆ちゃんにこう告げた。
「お婆ちゃん。わたし、明日の早朝、夜明け前に出発します。いま、そう決めました」
「そうかい。よし、そうしなさい。あとはこの婆ちゃんに任せて、おまえは後ろを振り返らずに、前を向いて歩いて行きなさい。そうそう、ときどきは婆ちゃんに手紙を書いておくれよ」
「うん、わかった。行って来ますっ」
「はい、行ってらっしゃい、ライナ」
翌朝、まだ陽の昇らないうちにライナは家を出た。食堂のテーブルに、お母さん宛の手紙をそっと置いて。
お読みいただき、ありがとうございます。
ライナさん、大丈夫かな。作者としてもちょっと心配ですが、ジェルさんだったら放っておけばいいって言うでしょうな。
本編をまだお読みでない方がいらっしゃいましたら、そちらもよろしくお願いします。