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第14話 初仕事の許可

 冬至祭も終わり、年が明けた。

 祭りの2日間はお休みしたが、年が明けた早々からライナはレティシアに連れられて毎日、冒険者ギルドに通って戦闘の訓練をした。

 エヴェリーナとセラフィーナも半分以上の日数は付き合ってくれて、エヴェリーナとは打撃や蹴り技を中心とした格闘術、そしてセラフィーナからは弓矢の使い方を教わった。


 レティシアが「弓矢も買っておいた方がいいかもね」と言うので、ライナはお婆ちゃんから貰ったお金を使って思い切って購入した。

 それで、ダガー、格闘、弓矢と訓練を続け、15日ほどが経過する。




「ライナも訓練を続けて来たし、そろそろいい頃ね。今日は何か手頃なお仕事がないか、見てみましょ」

「え? 冒険者のお仕事、するの?」

「ええそうよ。でも、ライナにも出来そうな、簡単なものからね」


「面倒くさいから、大森林の中に入っちまえばいいんじゃないの」

「エヴェはなに言ってるのよ。普通は街の中でお手伝いとかから始めるのよ」

「そうなんだけどさ」


 今日はエヴェリーナとセラフィーナも一緒だ。

 それで冒険者ギルドに向かう道すがら、そんな話をしながら歩く。


 冒険者に成りたての新人やパーティを組んでいないルーキーは、初めは街の中で出来る仕事から始める。

 たいていは雑用だったり、人手が足りない作業仕事の臨時雇いであったりする。

 尤も、冒険者の新人に街中での仕事の作業スキルがある訳でもないので、だいたいが軽作業だ。


 あとはグリフィニアで言えば、都市城壁の外に出て近郊で主に薬草などの採取を行う。

 薬草類は勿論、アラストル大森林内が豊富なのだが、種類によっては近場の林や川縁などでも採取可能なものがあるのだ。

 こういった植物は、だいたいにおいて人の手での栽培が難しいので、自然からの採取が必要となり、それらは冒険者ギルドを経由して鍊金術ギルドへと売却される。


 あとは護衛の仕事があるが、これに就くにはギルドの承認が必要だ。

 この世界の冒険者には、特に等級やランクといったものはない。

 なので、護衛仕事をしたいと考えるのは自由なのだが、ギルドは登録している冒険者の実績や現在の能力をおよそ把握しており、その護衛仕事が受託できるかどうかの判断と承認を個別に行う。


 そして何と言ってもこのグリフィニアの冒険者で重要なのは、アラストル大森林に入れるかどうかだ。

 これはまず、ふたり以上のバディかパーティでなくてはならない。単独で入るのは、よほどの者でない限り禁止されている。

 そして、この大森林に入れる許可を得た者たちかどうかが、グリフィニアの冒険者にとって最重要の要件なのだ。



 仮に許可を得ているバディかパーティが、大森林内で獣や魔獣などに襲われたとする。

 そのときには、怪我人はギルドが一定の面倒を見てくれ、万一死亡した場合には残された家族などにある程度の見舞金が支給される。

 ギルドというのは、基本は同業者組合なので、仕事の斡旋の他にこういった互助システムが存在し、買い取りや仕事報酬から引かれた手数料がギルドの財源となって、そこから支出される。


 しかし、許可を得ていない者が大森林に入って採取や狩りなどの仕事をした場合は、グリフィニアの冒険者ギルドは一切買い取りをしないし、鍊金術ギルドや商業ギルドも同様だ。

 また例え怪我を負っても、ギルドが助けてくれることはない。

 冒険者ギルドが大森林に入る人間を日々見張っている訳ではないので、この辺のことは自己責任なのだ。


 勿論、冒険者ギルド登録をしていない者が大森林に入って何かあったとしても、ギルドは無視するだけであるし、また冒険者と同じく大森林内で活動するグリフィン子爵家の騎士団も助けることはしない。

 そういったことが徹底しているグリフィニアでは、なので許可を得た冒険者と騎士団員以外はまずアラストル大森林に足を踏み入れることはない。


 あと加えるならば、グリフィニアの冒険者ギルドの場合、同じ大森林に入る許可でも、ごく浅いエリア、やや深いエリア、その奥のエリアと、大まかに三段階に許可を区分している。

 ちなみに、現在はバディで活動しているエヴェリーナとセラフィーナは、つい先ごろにやや深いエリアまで入る許可を得たのだが、じっさいのところはふたり組での限界を感じているという訳だ。




 冒険者ギルドにやって来たライナたちは、まずは様々な依頼仕事が掲げてある掲示板を見ることにした。

 ここに貼ってあるのは、主にグリフィニアの街や近郊の村からの依頼仕事だ。たまに子爵領内の港町であるアプサラから来たものや、遠隔地の村からの依頼も出ることがある。

 だがたいていは地元で処理されてしまうので、ほとんどはグリフィニアのものだ。


 それから護衛仕事の依頼。

 ここに掲示されるのは主にグリフィニア在住の商人などからの依頼で、グリフィニア外からのものでわざわざここの冒険者を求めている場合は、ギルドが直接的に冒険者を指名するのがほとんどだ。

 ライナが王都から来る時に馬車で一緒になったクリストフェルとアウニは、そういったギルドからの指名で王都まで護衛仕事に赴いていたことになる。


 そして採取系の仕事だが、これは冒険者ギルドに現在採取依頼の来ている品目の名称が、まとめて掲げられている。

 採取は鍊金術ギルドからのものが主なので、だいたいいつも同じ品目だ。買い取り金額はその時々で変動する時価になる。

 ごくたまに特殊なものの採取依頼が金額と共に掲出されることがあるが、この場合はほとんどが大森林での採取物だ。


 あとは大森林で狩られた獣や魔獣の素材だ。

 これらは狩った冒険者パーティが自ら解体を行い、毛皮や肉、手工業製品や薬品の素材になる各種部位を持ち帰り、ギルドを通じて商業ギルドや職工ギルド、鍊金術ギルドなどに売却される。


 特に大型の獣の場合は、ひと口に肉と言ってもかなりの重量になり、また夏場などでは腐敗が早く進むので、速やかな運搬が必要となる。

 こういう点でも、エヴェリーナとセラフィーナのような女性冒険者のバディにとっては条件が不利となるのだ。

 持ち帰れないものは、泣く泣く大森林内に埋めるなどして置き去りにするしかない。



「街の中では、今はたいして依頼がないわね」

「そうだな姉さん。でもさ、仮に何かあってそれをライナが受けるとして、姉さんはどうするんだ?」

「え、わたし? ふたりで出来るものなら、わたしもするよ」


「えー、レティ姉さんがニュービーのする仕事をやるの?」

「一流の剣士の姉さんがか」


 ライナは3人から離れて、掲示板に貼られている依頼仕事を興味深く熱心に見ていたが、レティたちのそんな会話も耳に入って来た。

 そうよね、レティ姉さんとわたしが一緒に同じ仕事をするなんて、どだい無理よね。

 何かわたしが出来るような仕事があったら、わたしひとりでしよう。ライナは掲示板を眺めながらそんなことを考えていた。


「おーい、ライナ、何かあったか?」

「ううん、良くわかんないわ、エヴェ姉さん」

「そうだろうな。まあ、こっちに来な」


 エヴェリーナがそう呼ぶので、ライナはレティシアとセラフィーナがいるところへと行った。


「それじゃライナちゃん、行きましょ」

「え、どこに行くの? セラ姉さん」

「ちょっと、わたしたちで相談したんだ。それでこれからカウンターに行くよ」

「まだ仕事を選んでないよ、レティ姉さん」

「いいから、いいから」


 それで3人の女性冒険者に引っ張られるようにライナは、ギルド職員のいるカウンターへと行った。

 ここでは、通常は依頼仕事を受ける届出をし、承認が必要な場合にはその承認をして貰うのだ。

 そのカウンターの前に4人が立つ。



「おーい、ちょっといいか?」

「おや、エヴェとセラじゃない。今日は何の用? 何か仕事をするの? あ、レティシアさん、こんにちは。えーとその子は、ライナさんだったわね」


 エヴェリーナがカウンター内に声を掛けて近寄って来たのは、彼女たちに顔なじみの女性ギルド職員だった。


「ドロシアさん、そうなんだが、そうじゃないんだ」

「なに、それ。意味が良く分からないんだけど」


「えーとだな。これから、大森林に採取に行くんだけどさ」

「あら、そう。くれぐれも気をつけてね」

「だからよ、そうなんだが、そうじゃないんだよ」


「もう、エヴェは説明とか出来ないんだから、わたしが話すわ。あのね、ドロシアさん。これからエヴェの言った通り、わたしたち大森林に採取で入るんだけど、今日はレティ姉さんと、それからこのライナちゃんと、臨時パーティを組んで行こうと思ってるのよ。それでほら、ライナちゃんは新人だから、いちおう許可を貰おうと思ってね」


 えー、そういう話なの? いきなり初仕事で、わたしが大森林に行くの? それって無理なんじゃないのかしら。

 ライナは、セラフィーナがドロシアという職員に告げたことを聞いてとても驚いたが、一方でドロシアの方も少々吃驚していた。



「あら、えーと、ライナちゃんは去年の暮れに冒険者登録をして、まだ何もお仕事をしてませんよね。それで、いきなり大森林に連れて行くの? それは確かに、あなたたちふたりに、それにレティシアさんが付いているのなら大丈夫かもですけど、でもギルドの決まりもあるし、えーと、どうしましょ」


「ドロシアさん。大森林のごく浅い場所にしか行かないからさ。いいだろ?」

「そうは言っても、ギルドの決まりだと、臨時パーティの場合は、パーティを組む全員が許可を取っているメンバーじゃないとダメなのよね」


 常時組んでいる正規のパーティの場合には、個々人の経験や力量とパーティとしての力を判断して許可を与える。

 しかし臨時パーティの場合には、パーティとしての力は加味出来ないので、やはり個々が許可を取っている者でなければならないのだ。


 グリフィニアの冒険者ギルドでは、パーティを組んでいない単独の冒険者には余程の力量が無い限り基本的には許可を与えない。

 なので、こういった臨時パーティの許可を受けたメンバーとして該当するのは、エヴェリーナとセラフィーナのようなバディ、またはレティシアのように力のあるパーティに在籍していて現在は単独になってしまった者ぐらいだ。

 当然にライナは、まったくその範疇に入らない。



「ドロシアさん。ちょっと、ギルド長かエルミさんを呼んで来ていただけませんか?」

「うーん、そうね。ライナちゃんがとても優秀な土魔法使いだって、わたしたち職員も聞いてるし、レティシアさんの頼みだから、特別よ。ライナちゃん、ちょっと待っててね」


 そう言ってドロシアはライナを見ると、片目を瞑ってイタズラっぽい笑顔でウィンクをし、奥の部屋へと去って行った。


「ねえ、姉さんたちー。わたしって、大森林に行くの?」

「そうさ。ホントは少し深く入って獣でも狩ろうって、あたしは言ったんだけど、レティ姉さんがうんて言わなくてさ」


「それで妥協して、浅い場所でまずは薬品の素材でも採取しましょう、ってなったのよ」

「こいつらが、ぜんぜん大丈夫って。まあわたしも、そうは思うんだけどね」


 3人のお姉さんたちのそんな言葉を聞きながら、ライナは不安半分、期待半分でギルド長かエルミが来るのを待っていた。



「なんだって、ライナを大森林にもう連れて行くってか」

「ギルド長、声がデカイって。なあ、いいだろ?」

「これは俺の普通の声だ。で、レティもセラも賛成してるのかよ」


「ああ、ごく浅いエリアで薬品素材の採取ってことで、賛成したよ」

「わたしもよ。獣の狩りでもいいかなって、わたしは思うんだけど。今日は姉さんの意見に従って」


「そうかよ。浅いエリアで採取か。どう思う、エルミ」

「そうですね……」


 結局、ギルド長のジェラードとナンバー2のエルミのふたりが揃って現れた。

 ライナはどうなるのか、ちょっとハラハラしながらふたりを交互に見る。


「ライナさん、あなた、接近戦闘の訓練をしてたのよね」

「はい、ダガーと格闘術と、それから弓矢の訓練もしています」


「いまの腕前はどうかしら、レティさん」

「だいぶ上達して来ました。ダガーは普通に使えますし、格闘術は特に打撃は熱心にやっています。そこそこに闘えるでしょう。弓矢はまだこれからって感じですね」


「そう。ライナ、ちょっとわたしの目を見て」

「え? はい」


 ライナはエルミの美しく輝く目を真正面から見た。なんてキレイな目かしら。キラキラしてる。

 するとその目がクワっと見開かれて少し大きくなり、同時にその目から何かが放出されて自分にぶつかって来る気がした。


 え、なんだか怖い。でもここは目を逸らしちゃいけないところだわ。

 ライナは一瞬ビクっとしたが、それでも負けずにエルミの目をしっかり見据える。

 するとやがて、そのエルミの眼光から鋭さが消え、優しい光が戻っていた。



「いいでしょう。わたしは許可します」

「エルミ、おまえ、ライナに何かしたな。まあいい。エルミが許可するって言うなら、俺は反対しない。よし、いいだろう。ギルド長として許可をする。だが浅いエリアまでだ。あと、ライナに何かがあった場合は、レティ、エヴェ、セラ、おまえら3人の責任だ。いいな」


「それでいいよ、ギルド長。ありがとうございます」

「ギルド長さん、ありがとうございます。それからエルミさん。ありがとうございました」


「あなたなら大丈夫よ。でも、自分勝手な行動はしないこと。お姉さんたち先輩冒険者の言うことを、ちゃんと守ること。約束出来る?」

「はい、約束します」


「よしっ、気をつけて行って来い、ライナ」

「はいっ」


 こうしてライナは、冒険者としての初仕事で、いきなりアラストル大森林へと行くことになった。

 大森林てどんなところかしら。この世界でも有数の危険なところだっていうから、気を引き締めないとだよね。

 でも、なんだかワクワクして来たわ。


 カウンターを離れてギルドの大きなドアの方へと進むライナは、ふと後ろを振り返る。

 そこにはニッコリ微笑むエルミの顔と、とても心配そうな表情のギルド長の顔があった。



お読みいただき、ありがとうございます。


本編をまだお読みでない方がいらっしゃいましたら、そちらもよろしくお願いします。

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