8話 彼女は料理が苦手
それではどうぞ。
あの後、みんなで近くの市場に食材を買いに出かけた。リアも食べて帰るということで、少し多めに食材を買う。
帰りに、買った食材を持つのはもちろん俺だ。
まあ、力が強い順で言えば、ミーナ、リア、俺の順番なのだけれど……。
俺のジョブは戦闘向きじゃないしね。
そして、今、台所で、ミーナとリアが食材と格闘している。
いや、ミーナは昔からおばさんの料理の手伝いをしているところを見ていたので、料理ができることは知っているのだけれど。
どうやらリアは料理をするのが少し(いや、かなり)苦手みたいだ。
さっきから食材がまな板から飛び跳ねている。
いや、その食材、野菜だよね。
まるで魚が飛び跳ねるみたいに跳ねてるんだけど、何したらそうなるの?
「くっ、こんなことなら、孤児院にいた時にもっと練習しておけばよかったです。」
手際よく料理をしているミーナを見ながらリアがうめく。
「でも、料理の手伝いをすることもあったんじゃないの?」
不思議そうに聞くミーナにリアは目をそらしながら。
「あはは、手伝いはしてましたよ。ほら、皿を運ぶのとか……。」
「料理を作るのを手伝うことはなかったのか?」
俺の問いにリアは溜息をついた後。
「はぁー。いえ、最初は手伝ってたんですよ。でも、そのうちに皿運びに回されるようになりまして。」
どんよりとした雰囲気を漂わせて俯くリア。
どうやら、リアのつらい過去を思い出させてしまったみたいだ。
「しょうがないわね。ほら、リア、私が教えてあげるから。これから練習しましょ。」
リアの様子を見かねてミーナが助け船を出す。リアは顔を上げ。
「ほんとですか、ミーナ。お願いします!」
どうやら丸く収まりそうだ。
◇
出来上がった食事をみんなで楽しく食べ終わるとしばらくして、リアは家へと帰っていった。
「またすぐに来ますから。」
そう言い残して。
たぶん、あれは本気だろうな、そう思った
ふと気が付くと、ミーナが楽しそうに俺の方を見ていた。
「どうしたんだ? ミーナ。」
「ふふ、だって、こんなに落ち着いてリトと話せるの、本当に久しぶりなんだもん。」
そうか、思い返してみると、ミーナが村を出て行って以来かもしれない。
……もう何年振りだろうか。
「そうだな……。」
感慨深げに俺は呟く。
「前も言ったかもしれないけど、また、こんな風にミーナと過ごせるなんて思っていなかったよ。」
そう言うとミーナは。
「……私もよ。本当はね、リト。私、もうみんなに会えないんじゃないかって思ってたんだ。」
俺は無言で少し俯き寂しそうにするミーナの方を見る。
「こっちに一人で来てすぐの時は本当に寂しくてね……。でも、それに耐えられたのは、あなたにもらった大切なあのこん棒と、こっちでできた友達のおかげなの。」
「そうか……。」
「そう。あ、そうだ。今度、友達を紹介するわね。みんな、あなたに会いたがっていたわ。」
え? なんで俺に会いたがるの?
俺の心を察してかミーナが。
「こっちに来てすぐの時、私がよくリトのことを話してたからね。」
「えっと、それでどんな話をしてたんだ?」
「ふふふ、それは秘密よ。でも、みんな楽しみにしてたんだって、リトを実際に見るのを。あのリトが来てるのって言ってたし。」
それどういうこと? ほんと、どんな話をしてたんだよ。
「そ、そうか。まあ、そのがっかりされないようにがんばるよ。」
自分で何を言っているか分からないが、とりあえずそう返しておく。
「ふふふ。大丈夫よ、みんな優しいから。」
まあ、そうなんだろうな。
なんだかんだ言って、ミーナがその友達にこれだけ気を許してるってことは、相当いい奴なんだろう、そう思った。




