9話 約束
あれから数ヵ月が経った。
アミスは、ぼーっと見ている俺の目の前で以前あげた木剣を使い日課の素振りをしている。
うーんどこかで見たことがある光景だ……。
なおアミスは俺に隠れて昔から剣の練習はやっていたらしい。生まれた家に伝わる剣術の型だとかで、たまたま知っていた親父に教えて貰っていたんだとか。
何気にあの両親も謎な存在だよな……。
一方の俺はというと絶賛悩み中だ。
選定の儀があったあの晩、アミスに告白らしきものをされた後、次の日の朝に顔を合わせた際には、何事もなかったように挨拶をされた。
一瞬、前の晩のことは夢かと思ったぐらいだ。
うーん、かわいい妹に翻弄されている気がする。血はつながっていないが……。前世も併せると精神年齢的には一回り以上は違うはずなんだけどな……。
どう返事したものかね。
噂ではもうすぐ勇者様御一行がやって来るらしい。そう、あの手紙をくれたあいつがやってくるのだ。
どうせ、リト、ごめんなさい、私、勇者様と結婚します!って報告だろうから、もう手紙でも済ませてくれてもいいんだけどな。前世だと、LENEやメールで別れる話をしてくるやつもいたんだから、別に気にはならない。
「どうしたの? 兄さん。」
いつの間にかアミスの顔が目と鼻の先にあった。こいつにもちゃんと返事しないとな。先伸ばしすると前みたいに中途半端になりそうだ。
まあ、結婚してもいいんだけどな、かわいいし。
そんなことを考えていたら、無意識に言葉が出ていた。
「なあ、アミス、結婚するか。」
「へ? え? えー! ちょ、ちょっと待って兄さん。」
ひっひっふーと目の前で呼吸を調えるアミス。
「ひゃ、ひゃい。しましゅ、します。」
噛みまくっていた。なんかかわいい。
「わ、わたし、母さんたちに報告してくる。」
そう言って慌てて走っていった。
「くひひ、やった。ミナ姉ごめんね、私は兄さんと幸せになります。勇者さまと幸せにね……。」
走る直前に聞こえてきたそんな言葉に俺は苦笑いしながら、ゆっくりとアミスの後に続いて家に向かった。
家に着くと、大喜びの両親に迎えられた。
晩には村長と神父もやってきて、式はすぐには上げないが、結婚を認められることになった。
すっかりお祝いモードになってから数日後、とうとう勇者様御一行がやってきた。