5話 実は誘われてました
思ったより長くなりました。回想回?
そう、あの決闘の後にリアから杖を作ったのが俺だと聞いたヒルデガルドは、俺の近くにやってくると。
「それで、あなたがリアの杖を作ったの?」
「え? えっと。」
言い淀んでいる俺の言葉を気にすることもなく、ジーっと見てくる。
鑑定眼持ってないよね?
俺は内心びくびくしながらじっとしている。
「うーん、全然そんな方には見えないですわね。しかもどこにも所属していないなんて。」
「……。」
俺は助けを乞うように、彼女と一緒に来ていたリアの方を見ると、彼女は、申し訳なさそうに目を伏せるようにするだけだった。
「ねえ、えっとお名前は?」
「あ、リト、です。」
「そう。リトさん、私にも杖を作ってもらえませんか。もちろん素材は私が提供しますし、お金も言い値をお支払いします。それに先約があるのであればいつまでも待ちますわ。」
破格の条件に俺は驚く。
「え!? あ、いや、俺は普段は杖は作っていなくて。」
「へ? ……杖は作っていない? それでは何を作っているのですか?」
鳩が豆鉄砲を食らった顔をしたヒルデガルド。いや気になるよね。
「えっと、木彫り人形を……。」
「……木彫り人形? リア、どういうことですの?」
思考が崩壊したのかヒルデガルドはリアに助けを求めた。リアは苦笑いをしながら。
「えっと、リトさんの言っていることは本当で。木彫り細工を専門にしている方なんです。」
「木彫り細工? え? 私の杖、木彫り細工に負けた? え?」
呆然としたまま言葉にならない言葉を話す彼女。それを見かねたのかリアが俺の方の見て。
「リトさん、私からもお願いなのですが、ヒルデガルドさんのお願いを前向きに検討してもらえませんか。」
リアがやり手の役人のようなことを言う。俺はリアの方を見て目で理由を話すように促す。彼女は一つ頷くと。
「私、リトさんの杖がこんなとんでもないものだと思っていなかったんです。この杖は正直言って、国宝にも匹敵するようなすごいものなんです。もし、これが作れることが分かると、リトさんはきっと狙われてしまいます。」
まじか!? いや、なんとなくとんでもないことをしたとは思っていたけど。
「そこでヒルデガルドさんです。こう見えても彼女は公爵家の長女なんです。」
「……こう見えても? ちょっとリア、それってどういうこと?」
ヒルデガルドがリアをジト目で見る。
「ヒルデガルドさんはちょっと黙っていてください!」
「あ、はい。」
シュンとしておとなしくなる彼女。
「彼女のお願いを聞く代わりにリトさんの盾になってもらうんです。彼女の力があれば、少なくとも王族以外の貴族やそれに魔術師ギルドの面々も抑えることができます。まあ、教会はミーナがいれば問題ないでしょうし。」
なるほど。メリットも大きいってことか。
「分かった。前向きに考えさせてくれ。えっとヒルデガルド、さん。」
「そう、感謝しますわ。詳細な話はまた追ってしましょう。それに我が家があなたをお守りしますわ。」
そう言って彼女は凛とした佇まいで返したのだった。
「なんなら我が家の専属でもいいですわよ。お父様もお爺様も文句は言いませんわ。……お爺様なら嬉々として誘うでしょうし。」
「ちょっと、ヒルデガルドさん、それはルール違反ですよ。」
「あら、そうでしたの? それじゃ、リトさん、考えておいてくださいね。」
そう言って彼女は去っていったのだった。




