2話 決定
この二人って結構書きやすいんですよね。
それではどうぞ。
階段をゆっくりと下りて、食堂に向かう。
聞き覚えのある女性の二人分の声がはっきりと聞こえてくる。
「ねえ、リア。リトのためにそこまでしなくてもいいのよ。」
「いえいえ、ミーナこそ。聖女のお勤めで忙しいでしょ。」
ああ、誰か分かってしまった。……いやとっくに気づいてはいたけれどね。
食堂の入り口に立ち中をそっと伺うと、二人が言い争っていた。ここでじっとしているわけにはいかない。
俺は覚悟を決めて、中に入る。すると、二人が俺に気づき口論をやめる。
「あら、リト、起きてきたのね。おはよう。」
「リトさん、おはようございます。」
先ほど前の口論がなかったかのように、笑顔で俺に挨拶をする二人。
その笑顔がちょっと怖い……。
◇
口論が少し落ち着いたところで、話に割って入ることにする。
「それで、どうして、その……、俺を養うって話になってるんだ。」
まずは理由を聞いてみることにする。
止めるのはもうあきらめた。だって何回も止めようとしたけれど、睨まれるから。
「だってリト、あなた木の細工品、全然売れていないんでしょ?」
「そうですよ。このままじゃまた馬小屋に逆戻りですよ。」
「だから、私が家に連れて帰ろうと思っているの。あの家、一人じゃちょっと広いしね。」
「いえいえ、ミーナの家はあの露店の通りからは少し遠いでしょ。この宿だと適度な距離だし、それに費用もそんなに高くないですし、私が杖の対価分として払います。……あっ、なんなら私の家でもいいですよ。」
「ちょっとリア、何言ってるの。あなたの家って、二人暮らせそうな広さはないでしょ。私の家ならもともと二人で暮らせるよう……、おほん。何でもないわ。」
また言い争いを始めようとする二人。ていうか、ミーナの家、二人で暮らせるんだ……。いやいや、今は止めるのが先だ。
「まあ、ちょっと待てって。こういうときって俺の気持ちも重要なんじゃない?」
そうですね、という言葉を期待して言ってみる。
ギンッ!
と音が聞こえんとばかりに二人に睨まれる。
「「……。」」
あはは。……すいません。
「はあ、いい、リト、あなた、気持ちの前にもお金がいるのよ。ここで暮らすには。」
「そうですよ。リトさん、宿代だけじゃなくごはんや服も買うためにはお金がいるんですよ。それに原料の木も手に入れるために、誰かを雇おうと思うと更にお金が必要です!」
たしかに……。
俺は返す言葉もなく、二人の言い分を聞いていた。
「それにね、リト。」
先ほどまでと違って優しい声色で話しかけてくるミーナ。俺は彼女の顔を見る。
「私の家に来ると、木彫りの細工ができる仕事場もあるわよ。」
「なっ、卑怯ですよ、ミーナ。」
驚愕の顔を浮かべるリア。
「ふふふ、なんとでも言いなさいリア。それでどう?私の家に来たいでしょ、リト。」
そう言ってこちらを見てくるミーナ。
そして俺は……。
「……行きます。」
あっさり屈した。だって仕事場もあるっていうんだもん。
行くよね、そんな好物件。
「やったー!」
その場で立ち上がると、飛び上がり喜びミーナ。
リアはぐぐぐ、とその場で下を向き、こぶしを握り締め唸っていた。
「私もあの時、工房付きの家を買っておきべきだったわ……。私のバカ。」
あの時ってどの時?
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