1話 朝の喧騒
それでは4章開始です。
王都にある冒険者が泊まる宿の食堂の一画、俺の目の前では美少女と言っても過言ではない見目麗しい二人が醜い言い争いをしている。
時刻はまだ昼にも差し掛かってはいない。
ミーナが。
「リトは幼馴染でもある私がしっかり面倒を見ます。だから、リアは何も気にしなくてもいいのよ。」
と言えば、リアが返す言葉で。
「いいえ、リトさんの商売が安定するまでは私が養います。この前、それだけの恩を受けたんですから。ミーナこそ気にしなくていいですよ、聖女のお勤めもあるでしょ。」
そう、つまりは俺の今後についてだ。
しかも、どっちが養うかを争っているらしい。
……改めて考えると、俺って甲斐性がないのね。
俺のことなので、何度も口を出して止めようとはしたんだが、その度に二人から睨まれ、すごすごと引き下がったのだ。
いや、二人のあの目、マジなんだもん。
まあ、事の発端は朝早く、俺に会いに来た二人が食堂で出会ったことから始まったらしい。
◇
今から遡ること数時間前、俺がまだ上の部屋で寝ているときだった。
朝早くからドンドンと部屋のドアを叩く大きな音がする。
しかも遠慮がちに叩くのではなく、すぐに起きろと言わんばかりに叩き続けている。
いったい誰だよ、もう少し寝かせてくれ。
いやそもそも、朝から俺の部屋に呼びに来る奴なんていないはず。
そう思った俺は寝起きの意識が朦朧とした状態のまま、ドアの方に歩いて向かう。
「はいはい、今開けますよ。」
そう言いながら、いまだに叩かれているドアをゆっくりと開ける。
そこにいたのは、毎朝、この宿の下で顔を合わせるこの宿の女将だった。
「えっと、どうしたんだ?」
そう女将に声をかけると、彼女にこちらを睨みつけられた。
え?
睨まれる理由について身に覚えのない俺は戸惑う。
「まったく、すぐに起きてきなよ。あんたの知り合いのせいで朝から下が大変なことになっているんだよ。下に降りてさっさと片付けておくれ。」
そう言って再度こちらを睨みつける。
えっと、知り合い?
王都の知り合いといえば限られている。
そう思いつつ、俺は少し耳を澄ますと、下から聞き覚えのある二人分の声が聞こえてきた。
「ほら、聖女様、あんたの知り合いなんだろ。あんたに会いに来たところに、もう一人の魔術師のお嬢ちゃんと顔を合わせたとたん言い合いが始まったんだよ。ほら、はやく降りた降りた。」
そう言って、女将は俺を急かす。
俺は仕方なく、下に降りることにしたのだった。
しばらく書き溜めができるまでは毎週土曜日に投稿しようと思います。
ある程度溜まってくれば、また以前のように、週5回程度の投稿に変えたいと思います。




